第11話対策

「取引?」

「そうだ」


龍護が思考を巡らせる。

その取引の内容を予測しているのだ。

相手は大手企業の社長。

だとしたらかなりの情報網を持っている。

そして龍の力の所持者は7人。

恐らく今回の遊戯でそれをフル活用し、龍の力の所持者を探すだろう。

そして龍護は友姫と恋人になっている。

だとすれば・・・


「俺と闘いをしない代わりに友姫と手を組んで所持者を倒してほしい──────ですか?」

「・・・悪いとは思うがね・・・」


だがそれには無理がある。

理由は簡単。

最終的に残るのはたった1人。

それが意味することは、龍護と友姫も戦わなくてはならないという事だ。


無理がある。


誰も自分が好きになった人に手を掛けたくない。

恋人を傷付けたくない。

そう思う筈だ。


「・・・やだ」


友姫に呼ばれて振り向く。

友姫の目には涙が浮かんでいた。


「やだよ・・・」

「・・・え?」

「リューゴと戦わなくちゃダメなんでしょ・・・?そんなの・・・私はやだ!!!!」

「お前・・・まっ!」


龍護の静止も聞かずに友姫は更衣室を出ていった。

友姫も怖いだろう。

いずれ好きな人と戦わなくてはならないのだから。


「済まない・・・私としても予想外でね・・・」

「でしょうね・・・分かります」

「感謝するよ。あぁ、それとこっちに来て欲しい・・・見せたいものがある」

「・・・分かりました」


スヴェンが私の部屋に来てくれと言い、居心地の悪い中龍護はスヴェンに着いて行く。

スヴェンの自室だった。

襖を開け、中に入る。

中は意外と質素だった。

1人用のテーブルに大きな本棚、押し入れと布団があるだけ。

一瞬ここが社長の部屋か?と疑ってしまうほど殺風景である。

スヴェンが自分の通勤バッグからノートパソコンを取り出してテーブルに乗せ、電源を付けた。

ロゴの後にデスクトップが付き、パスワードを入力する。

コンピュータに接続して隠しファイルを表示した。

『 』とカギカッコの中が何も書いてないファイルが何個もある。

スヴェンがその1つをクリックするとwordファイルが幾つも存在していた。

その中の1つをクリックして表示する。

wordの中にあったのはなんと七天龍の遊戯に関する資料だった。

恐らく何個もファイルを作る事でバレないようにと対策を施したのだろう。

内容は七天龍の遊戯の歴史。

あまり知られていないようだが七天龍の遊戯は以前から存在していた・・・というよりも今回を含め、4回しかまだ行われていない。

始まりは地球でいうと、大正時代から始まっていて数十年に1回の間隔で行われているようだ。

その当時の写真やメモ等がWordに書かれていたのだが情報量的に龍護の思ってた量よりかは遥かに少ない。

なにせ4回しか行われていないのだから当然だろう。

因みに前回は30年前、龍護は転生してない時に、友姫は生まれてない頃に行われていたようだ。


「スヴェンさん。これは?」

「友姫の部屋に【七天龍の伝説】という本があっただろう?あれは私がオークションで買って落札した本なんだ。・・・実は私もこの伝説に軽く興味があって調べていてね・・・友姫がその対象者になるとは思わなかったよ」

「というと?」

「七天龍の遊戯で選ばれる人は本当にランダムで貧困者もいれば赤ん坊、俳優、恐らくは権力者・・・大統領も持っている可能性が高い」


それを聞いた龍護の顔が曇る。

もし、遊戯に本当に大統領がいて、龍護か友姫、もしくは他の龍の能力者が彼等を狙ったらテロになり、殺害処分は免れない。

となるとその襲った者は敗北が決定する。

自殺行為に等しい。

ならどうすればいいか。

必死に頭を回転させるがいい答えが見付からない。


「どうすりゃいいんだよ・・・」


必死に考えようにも無理があった。


「まだそうだと決まった訳では無いから落ち着こう・・・それと・・・龍護君」

「?」

「もしも君がいいのであればここに暫くいてくれるかな?」

「え?」


スヴェンが言うにはここに龍の能力者が少しでも集まればここに他の能力者が来てもすぐに対応出来るかもしれないからという。

龍護は明日、必要な物を取ってくると約束し、何の龍かを確かめる。

確かめた結果、龍護は【強欲の龍】だった。

能力は────


【相手の力をコピー及び強化出来る。コピーに関しては、先に相手が能力を使わなければコピー出来ない。(コピーは一時的)龍化が可能】


という事が分かった。


「運が良ければ龍護君と友姫は相性がいいと願いたいね」


相談も程々に龍護は自分の家に帰った。



◇◆◇◆◇◆



自宅に戻った龍護は夕飯を終えてベッドに横になる。

手の甲にあった紋章は消えていた。

龍の所持者同士が近付くことで浮かび上がるのだろう。


「まさか友姫も遊戯の参加者になるとはな・・・」


恐らく最終的に友姫とぶつかり合うだろう。

そう考えるといっそ辞退の方が楽な気がした。

だが辞退をしてもその先にあるのはペナルティ。

そしてお互いに殺し合いをしなくても期限内に決まらなければそれもペナルティの対象となる。

どういう内容かは分からない。

永遠に苦しめられるペナルティならお断りしたいところだ。


「どうしたもんかな・・・」


龍護はそう呟き、眠りについた。



◇◆◇◆◇◆



龍護が自室で寝始めて、自分もそろそろ寝ようとスヴェンがリビングを出た時だった。


「お父さん・・・」


廊下で友姫がスヴェンを呼び止める。

その表情は苦痛だった。


「友姫・・・」


スヴェンは友姫に近寄り、優しく抱き締める。


「私・・・リューゴと戦わなくちゃダメなの?」


その声は震えていた。

龍護と戦うことになり、その不安はより一層強くなっている。


「・・・やだ・・・」


ぽつりと友姫から本音が漏れる。


「やだよぉ・・・リューゴと戦いたくないよぉ・・・」


涙がとめどなく溢れ出し、泣き崩れ、その場に座り込んでしまう。

スヴェンは泣き崩れた友姫の背中を優しく摩る。


「・・・」


スヴェンは何も言うことが出来なかった。

自分はその参加者ではないからだ。

もし龍護ではなく自分だったら迷いもなくスヴェンは自分を捨てただろう。

だがそれすらも出来ない。

友姫と龍護から遊戯の内容は聞いてある。

龍護と同じように戦闘しないで永遠に長続きさせれば問題ないのだがそれも出来ない。

生き残れるのは1人。

その1人に入るまで殺し合わなきゃいけない。


「今、思い詰めても変わることは無い。少しづつどうにかしていこう」

「・・・うん・・・」


スヴェンの言葉に頷き、それぞれ自分の部屋に戻っていった。



◇◆◇◆◇◆



翌日。

今日、龍護は先に学園に来て空を眺めていた。

野武も登校してきて龍護の元へやって来る。


「今日はラジネスさんとは一緒じゃないんだな」

「・・・まぁな」


野武に対応しているがその声や表情は優れない。

昨日の事で頭が一杯だからだ。


「・・・ラジネスさんとなんかあった?」

「・・・別に」


言えるわけがない。

七天龍の遊戯に参加させられて殺し合うことになったと・・・

恐らく言っても中学生の時に稀に出るアレだと思われかねない。


「モブに言っても解決しないって言いたいんじゃない?」


横から声がした。

白と雫が2人を茶化しに来たようだ。


「失礼だな!?こう見えて相談事は得意なんだよ!」

「ゲーム攻略の?」

「・・・」


安達野武、再びの轟沈。


「で、友姫となんかあった?」


その時、友姫が教室に入って来た。


「お!噂をすれば、かな」


白が友姫に近付いた。


「ゆ~め!」

「あ、白」

「ねぇ、ダッチーとなんかあった?」

「・・・っ」


友姫が昨日の事を思い出してキュッ・・・とワイシャツの裾を握り締め、俯いてしまう。


「あ・・・ご、ごめんね~!ちょっとダッチーと話してたからまた後でね!」


白が焦って友姫から離れていき、龍護達の元へ戻る。


「アンタら・・・重症だね・・・」

「うっせぇよ・・・」


ハァ・・・とため息を漏らす。

チャイムが鳴り、全員がゾロゾロと席に着き始める。


「龍護」


白が龍護の事を名前で呼んだ。

龍護の事を名前で呼ぶ際は白はかなり真剣に相手を思っている証拠でもあった。

名前を呼ばれて龍護はチラッと白を見て、再び視線を外に戻す。


「もう私は深くは聞かない。多分私達に言わないんじゃなくて私達に”言えない”んでしょ?それでもって私達の力なんかじゃ解決出来ないって事も分かる・・・けど言っとく。アンタが諦めた時点で、彼女の事なんか到底守れやしないから」


白にそう言われ、龍護は振り返った。

そんな龍護を見て白は一安心していた。


「じゃ」


軽くそれだけ言って白は自分の席に着いてホームルームが始まった。



◇◆◇◆◇◆



放課後になり、全員が帰り支度をしている。

龍護は決心し、友姫の元へ行く。


「友姫、ちょっといいか?」

「・・・うん」


友姫は相変わらず表情が晴れない。

それでも友姫は龍護の後を追い、教室を出た。


「ったく・・・友姫も面倒な彼氏を持ったわね」


そう言いつつも白の口元は笑っていた。


「なんか言ったのか?」

「別に~?」


野武の問い掛けに白は軽くあしらい、部活だから先に行くねー!と足速に教室を出た。



◇◆◇◆◇◆



校舎裏に来た龍護と友姫。


「・・・」

「・・・」


お互いにどう切り出そうとしているのか、会話が全くない。


「あのさ・・・」


最初に切り出したのは龍護だった。


「俺・・・考えねぇ事にする」

「考えない・・・?」

「あぁ、友姫と戦うこと」

「なんで・・・?」

「結局はさ、俺達2人が協力して残りの5人を早く倒しゃその後でゆっくりとどうするか考えられる。その時まで友姫と戦う事は考えねぇ。いいだろ?それで」


龍護の言ったことに友姫の表情は明るくなっていった。


「うん・・・うん!!!!そうだね!先に皆倒しちゃおう!考えるのはその後!」

「あぁ、改めて宜しくな。相棒」

「フフッ・・・私は強いからね~?覚悟しておいてよ?」


こうして龍護と友姫は協力して戦うことを誓い合う。

龍護は友姫の家に当分の間、泊まりに行く為に一旦家へと戻った。



◇◆◇◆◇◆



「ただいま~!」


龍護が自宅へと帰ってきた。

靴を脱ごうとした時に気付いた。

見慣れない靴がある。


(・・・誰だ?)


龍護は疑問に思ったが恵美に彼氏が出来ていた事を思い出してその人かな?と自ら結論を出した。

それなら挨拶しないと、と思って玄関にある小さな楕円の鏡で軽く服装を整えてからリビングに入る。


「お、龍護おかえり~。丁度今、彼氏連れて来てるの」

「やっぱりか、その人・・・・・・って!?」


龍護は驚いた。

彼氏は彼氏でも日本人ではない。

その証拠に髪は金髪で瞳は青い。

完全に外国人だ。


「この人、オーストラリアから留学生として来てるルシス・イーラ。日本語凄い上手なんだよ」

「まさかの外国人ですか・・・」


さすがに龍護は呆れた。

2人揃って外国人と付き合ってるのだから当然だろう。

挨拶をする為に歩み寄る。

だが、その時だった。

龍護の手の甲は白く、ルシスの左頬に赤く龍の紋章が浮かび上がる。

それは正しく──────


(七天龍の遊戯の参加者・・・!!!!)


「へぇ・・・」


ルシスの目が怪しく光り、立ち上がる。

龍護は警戒した。

なにせ、友姫以外で龍の能力の所持者に会ったのだから。


「君が恵美の弟、龍護君か」

「・・・あぁ」

「龍護?どうしたの?」


恵美に言えない。

彼とはこれから殺し合う仲になる事を────


「改めて・・・僕はルシス・イーラ・・・宜しくね?奪木龍護君」


ルシスは自然な形で手を差し出す。

龍護も少しぎこちなく手を出して握手する。

改めて龍護は七天龍の遊戯が始まったんだな・・・と理解してしまった。

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