第10話唐突な報せ

透明な空間に7つの丸い黒い靄が1つの水晶を囲んで浮んでいる。


「役者は?」


「揃った」


「彼は?」


「馴染んだ」


「早いな」


「なぜ彼を?」


「ただの駒だ」


「他意は無いと?」


「生き残りは?」


「知らぬ」


「別に良い」


「彼も所詮は駒だ」


「ならば始めよう」


「「「「「「「七天龍の遊戯を」」」」」」」


その靄達はすぐに消えた。

空間が光りだす。

1人の白いローブを着た、短く赤い髪の男性が現れる。


「バレて・・・無いよな?」


そう言いながらフゥ・・・と安堵の息を漏らすが、少しだけその表情に焦りが見える。

赤髪の男は水晶を見た。

ある男性に目が止まり、水晶に近付いた。


「こいつ・・・転生者か・・・」


不意に男性の口角が上がる。


「こいつなら元に戻せるかもな・・・」


男もその空間から姿を消した。



◇◆◇◆◇◆



片付けをした翌日。

最近、姉の恵美は彼氏を作って頻繁に遊びに行っている。

龍護も龍護で友姫の家に来ていた。

今日は友姫の物理の勉強。

恵美は今日、彼氏の家に泊まるようで龍護もこっちに来たようだ。

1人の女性が友姫の部屋に入ってくる。


「頑張ってますね」

「あ、沙弥さん。お邪魔してます」


女性の名は沙弥・S・ラジネス。

スヴェンの妻だ。

沙弥が茶菓子とお茶を持ってきていた。


「友姫はどう?」

「う~ん、やっぱり公式を覚えるのには個人差があるから時間が掛かって難しいですね・・・」

「友姫・・・物理は苦手だもんね」

「う~・・・2人で私を虐める・・・」


友姫が口を尖らせた。


「今日は龍護君はどうするの?」

「・・・と言いますと?」

「今日、帰ってもご家族いないんでしょ?この家、かなり広いから貴方がよければ泊まってもいいのだけど・・・」

「いや!?さすがにそこまで厄介になるのは・・・」

「・・・本当、あの子が言った通り大人びてるのね」

「え?あの子?」

「間宮美紅って聞き覚えない?」


間宮美紅。

龍護が初めて会った女性の使用人だ。


「あの子が言ってたのよ。『龍護様は見た目以上に大人びておりますので最初は戸惑うかもしれません』って」

「そんなこと言ってたんすか・・・」


ハァ・・・とため息が出てしまう。

確かに龍護は生前は大学生で今の年齢と合わせると30歳を超える。

となると精神的には大人びている為、2人の指摘は正しくなる。

だがそれでもこの世界では相手の方が年上。

遠慮するのは当たり前だ。


「俺は大人びてるとは思ってませんけどね・・・」

「というよりリューゴはもっと老けてる感じするw」

「ほっとけ」


友姫の指摘にそっぽを向く。


「それじゃあ2人とも、ごゆっくり」


沙弥が部屋を出ていった。


「さてと・・・ってまた公式違ってる」

「あれぇ!?違った!?」


龍護にやり直しと言われ唸る友姫。

一応学園の教科書には公式は載っているのだが似たような公式があったりする為、微妙な違いに友姫はつまづいてしまうのだ。


「う~ん、やっぱり物理は難しい・・・」

「法則とかが慣れれば楽なんだよな・・・でもそこまでがね・・・」


龍護も物理に関しては中学の時に悩まされたものだ。

公式の分数の上と下を間違えたり、文章の中から必要ない数値を抜き取って公式に当てはめ、桁がおかしくなったりもした。


「まぁ、難しいのは分かってるから、出来るまでいてやるよ」

「リューゴぉ~・・・大好きー!」


嬉しさのあまりに龍護に抱き着く友姫。

抱き着くのも程々に、再び友姫の勉強会が始まった。



◇◆◇◆◇◆



「・・・うん。全部オッケーだ」

「終わったぁ~・・・」


終わった途端に友姫がグデーンとテーブルに身を預ける。

シャワー浴びよ~っと、と友姫が言ってその場を離れた。

勉強開始から4時間経っていた。


ガラガラカラッ!


玄関が開く音がした。

スヴェンが帰ってきたのだ。

時計を見ると19:00。

廊下で友姫とすれ違ってまた明日な。と龍護は玄関に向かう。

その途中でスヴェンともすれ違った。


「今日も友姫の勉強を見てくれてありがとう」

「いえ、あれくらいなら余裕ですよ」

「そういえば今日は帰るんだね?以前のように泊まっていって構わないのに・・・」

「ま、家でやる事も残ってるんで」

「ははっ、それじゃあまた宜しく頼むね」

「分かりました」


龍護も靴を履いて外に出た。

その時だった。



ゴォーン!ゴォーン!ゴォーン!



龍護の頭に鈍い鐘の音が鳴り響く。

咄嗟に頭を抱えてしまった。

そして次は何者かが脳に直接語り掛ける。




これより七天龍の遊戯を開催する。

7人はそれぞれ別の龍の所持者を倒して紋章を集め、全ての紋章を揃えた者の願いを2つ叶えよう。

紋章を揃える呪文は──────だ。

リタイア、辞退は構わないがその際はペナルティとして、存在自体を抹消する。

期限は半年。

その間に生き残りが決まらなければ全員失格としその際もペナルティは執行される。

君達に拒否権は無い。

さぁ、七天龍の遊戯の開始だ。




音が鳴り終わる。


「んだよ・・・急に・・・!?」


龍護はすぐに気付いた。

左手の甲に白い龍の頭部を連想させるマークが浮かび上がり、すぐに消えたのだ。


「きゃああああぁぁぁぁああああ!?!?!?!?」

「友姫!?」


突然聞こえた友姫の声。

すぐに走り出して友姫の安否を確認しに行く。

ガラッと音を立てながら脱衣所に入る。

友姫は風呂から上がったばかりのようでパジャマ姿となっていた。


「友姫!」

「リ・・・リューゴ・・・これ・・・」


友姫が軽く服を捲る。

下腹部を見ると龍護と同じマークで色は青。

つまり、龍護と同じで【七天龍の遊戯】の参加者となる。

それは龍護と友姫が敵同士と言うことを示していた。


「お前・・・それ・・・」

「友姫!?どうした!?」


スヴェンも娘の悲鳴に気付き、娘の元に来て安否を確かめる。


「お父さん・・・紋章が・・・」

「?紋章・・・?」


スヴェンの言葉に疑問が浮かんだ龍護。

それもそのはず、スヴェンの探そうとしていた紋章は目の前にある。

それはつまり・・・


(参加者以外には見えないって事か・・・)


スヴェンが慌てている中、龍護はスヴェンを落ち着かせる。


「龍護君・・・友姫に何が・・・」

「・・・」


龍護は俯いてしまう。

言うべきなのだろうか?と迷いが生じているからだ。

龍護とイーラ家は今までは仲良く出来ていた。

だがこれからは違う。

友姫と龍護は龍の所持者。

敵同士なのだから。

スヴェンは龍護の両肩に手を乗せた。


「知っているんだね?」

「・・・」


龍護は黙って頷く。

頼む・・・友姫の身に何が起きてるのかを話してくれ。と頼まれた。

龍護はもうこれ以上は隠し切れない事を悟り、七天龍の遊戯について話す。

スヴェンは驚愕した。

もしも龍護の話を信じればこの場に2人、龍の力の所持者が揃っている事になる。

スヴェンがまさか、君も?と訪ねると龍護は無言で頷いた。

何かを決め、再び龍護に話し掛ける。


「龍護君」

「・・・はい」

「──────取引をしよう」

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