遊戯開始編
第9話 一冊の本
1人の男子生徒が他人の家の塀に寄り掛かり、スマホの無料通話アプリを眺めている。
「ったく・・・あいつ新学期早々遅刻か?」
ハァ・・・とため息が漏れる。
そこに1台のリムジンが止まった。
(・・・てことは・・・)
後部座席のドアが勢いよく開き、中から1人の女子生徒が飛び出す。
「リューゴオオオォォォオオオ!!!!」
「ウゴッ!?!?」
龍護が女子生徒と壁に挟み撃ちされた。
「・・・ん?リューゴ・・・?ヒイイィィィイイッッッ!!!!リューゴが息して────」
「だったら加減しろ!!!!」
「うぎゃっ!?」
龍護が女子生徒の脳天に拳骨を叩き付ける。
「う~暴力反対・・・」
「特攻してきてよく言えんなそれ・・・ってヤベッ!友姫!急ぐぞ!」
「ちょっ!?待ってー!」
「行ってらっしゃいませ~!」
龍護と友姫が恋人同士になって半年が経つ。
今日から新学期となり、2人も高校2年生になった。
龍護と友姫の新しい学園生活が始まった。
◇◆◇◆◇◆
校門を潜る龍護と友姫。
「ん?おぉ~お2人さん、ギリギリセーフだな。クラス分け貼ってあるぞ・・・って腹抱えてどうした?」
「おぅ・・・ノブか・・・いや・・・友姫の奴が腹に突撃してきてな」
「彼女からの猛烈な愛だろ」
「うっせぇ・・・で、クラス分けどうなってた?」
「1年と変わらねぇよ」
変わらないと聞いて安堵した龍護。
後ろから友姫が走ってきた。
「り・・・リューゴ・・・少しは待って・・・」
「お前・・・最近寝坊多くねぇか?」
「ゲームしてる」
「あのなぁ・・・」
友姫は龍護との日本語の猛勉強で日常会話は殆ど問題なく出来ているものの、漢字はまだまだのようだ。
「あれ?誰かと思えばダッチーと友姫と・・・・・・モブじゃん」
「安達野武だっての!」
「そうそうそれそれ」
「おはー・・・」
龍護の視線の先には白と雫がいた。
白は相変わらずツインテールの髪型で雫も短いのには変わらない。
「まさかまた一緒になるとはね~・・・またダッチーとモブの事、弄ろっかな~」
「止めろ・・・友姫だけで精一杯だ」
「彼女を悪く言うか・・・有罪決定ね。友姫、Execution decisive action ジャストナウ」
「イエッサー!」
友姫が元気よく敬礼し、龍護にジリジリと近付いてくる。
「うん!もうよそうか!朝の突撃で十分だから!」
「友姫」
「ん?」
白に止められる友姫。
「I do not mind.Do it」
「OK boss」
お互いにサムズアップし、友姫が龍護に襲い掛かる。
ドンッ!!!!
誰かに龍護がぶつかった。
「うおっ!?」
「キャッ!?」
お互いに転んでしまう。
「いって・・・って大丈夫か!?」
「あの・・・ボーッとしてて・・・すみません・・・」
龍護とぶつかったのは片目が長い黒髪で隠れている、喜龍学園の女子高生だった。
見た感じ1年生だろう。
急いでその子を起こす龍護。
「リューゴがゴメンね~?怪我してない?」
「あ・・・はい・・・大丈夫です・・・その・・・失礼しますっ!」
女子高生はそそくさとどこかに行ってしまった。
「やらかしたな・・・」
「そうだね・・・それでさ・・・リューゴ」
「あん?っ!?」
龍護の右腕はガッシリと友姫に掴まれている。
最早逃げる事は不可能。
「友姫、do it.」
龍護は悟った・・・彼女達に慈悲という言葉は無いということを・・・
◇◆◇◆◇◆
「なんで登校だけで疲れるんだよ・・・」
龍護が自分の席に着くやいなや身体を机に乗せる。
「こっちから見たらプチハーレムで羨ましいけどな」
「何?傍観者に回る気?」
「ま、モテないアンタはそっちの方がいいかもね」
「るっせぇ!2年から作るんだよ!」
白の辛辣な言葉に反論する野武。
だが二次元しか興味の無い男に誰が振り向くんかね~?という白の追撃に轟沈した。
「そういえば担任も変わらねぇの?」
「変わってない・・・」
龍護の後ろから声がして驚いて振り向くとそこには雫が立っていた。
「音も無しに後ろに回るの止めようぜ?って変わらねぇのか・・・まぁ良かった・・・」
「ダッチーの事だからどうせ佐野先生が担任になるのが嫌なんでしょ」
佐野裕樹。
以前も説明したが魔法担当の教師で普通科で基本的な魔法を教えている教師だ。
付け足しでの説明だが元大学の名誉教授と同時にかなりの魔法研究家で様々な特許を取得している。
それ故、適正検査Sランクの龍護と友姫に目を付けていた。
「まぁな・・・」
「いや、あの人、元大学の名誉教授だろ・・・あの人と仲良くしてたら就職活動とか楽に進められるぞ?」
龍護は魔法関連は使いこなせているが、それを使って働こうとは思っていない。
「宝の持ち腐れとはこの事ね・・・」
まぁ、龍護の魔法適正検査Sは神が勝手に付与したものなので本人は心底イライラしていたが龍護自身がその出力を制御していたのでそれほど問題は無かった。
チャイムが鳴り、全員が席に着く。
今日は始業式の為、体育館で長い話を聞いた後はすぐに放課後となった。
「ねぇ、ダッチーとモブ、今日って暇?」
「ん?暇だけど」
「おう、俺も・・・ってモブ・・・」
「まぁ、それは置いといて・・・この後私と雫と友姫で昼食行くんだけど2人もどう?」
別に断る理由も無かった龍護とモブ・・・もとい野武は即OKを出した。
◇◆◇◆◇◆
某ファーストフード店。
皆で食事を始めた。
「あ~去年は全然出会いが無かったな・・・」
「出会いって・・・こんな美少女を目の前に告白しないアンタが言うこと?」
(・・・てか自分を美少女って胸張って言えんだな・・・)
「龍護」
「ん?」
「白の性格」
「・・・・・・あ~・・・」
雫の言葉に何かを思い出した龍護。
白は少し自意識過剰な点があり、相手に求める条件が『運動が出来る』、『ワガママを受け止めてくれる』、『自分を敬ってくれる』の3つが揃えば付き合うらしい。
逆に雫は『落ち着いている』、『本好き』、『横にいてくれる』の3つが合えば問題ないらしい。
そして断り方も・・・
「じゃあ白、俺と────────」
「うんゴメン!」
「まだ何も言ってねぇよ!?」
白はバッサリ両断し────
「じゃあ雫・・・俺と付き合────────」
「そちらのご活躍をお祈りします」
「なんで就活風!?」
雫はやんわり(?)と断る。
「イーラさんは龍護が彼氏だしな・・・」
「私は龍護一筋!」
言い切って指をVサインにする。
「逆にさ・・・なんで俺、モテねぇんだろ?」
「オタクだから」
「五月蝿い」
「まぁ、趣味が合う人を探すしかねぇな」
「モブ!ガンバ!」
「お前ら嫌い!」
野武弄りを4人でし終わった所で外に出る。
白と雫は予備校。
野武は帰ってアニメ鑑賞ということでここで解散となった。
◇◆◇◆◇◆
「あ?バイト?」
「うん」
帰り道、友姫が龍護にバイトをしてみないか?と切り出してきた。
「バイトってぇと・・・ラジネスカンパニーの日本支部でか?けど・・・」
龍護が言い淀んだ通り、現在イーラカンパニーは日本にも拠点を置き始め、先週から工事に取り掛かっている。
現在支部の完成は6割となっていた。
「日本支部はまだ完成してないし、したとしても当分はバイトは雇わないよ?」
「だよな・・・え?まさか海外に行けと?」
「いや・・・さすがに交通費がおかしくなるから・・・」
「じゃあどこでバイト募集してんだよ?」
「私の家」
「は?」
どうやらバイト先はラジネスカンパニーの工場等ではなく友姫の家で募集しているらしい。
だが龍護は勘づいた。
「・・・まさかバイトと称して部屋の片付けを手伝ってほしい・・・とかじゃねぇだろうな?」
「ギクッ・・・!」
龍護に図星を突かれ視線を逸らす友姫。
「ゆーめーさーんー?」
「だってだってぇ・・・」
龍護の指摘に涙目になる友姫。
友姫は片付けが苦手でよく両親に叱られている。
片付けは使用人と偶にやるがすぐに散らかるのだ。
「今回も一緒にやりゃいいじゃねぇか」
「今、使用人は旅行中」
「有給か・・・」
だから俺に頼んだんだな・・・と納得する。
「お願い!片付け手伝って!ほしいのがあったらあげるから!」
「・・・はぁ・・・わーったよ。今週の土曜日でいいよな?」
「うん!」
そして分かれ道になってそれぞれの家に帰った。
◇◆◇◆◇◆
片付け日当日。
「以前より物が増えてね?」
「ソ・・・ソンナコトナイヨ~・・・?」
友姫の部屋は以前より物が増えて畳の床にはかなりの本が積まれていた。
「てか友姫ってこんなに本読むっけ?」
「小説とか読みながら漢字の勉強してる」
龍護が1冊を拾い、中を捲ると野武が持っているような美少女が載ってるライトノベル等ではなくかなり難しい分野の本ということが良くわかる。
「棚もいっぱいか・・・そしたら大きいダンボールを2つ用意して『読まない』と『読む』で分けて『読まない』は押し入れの中にしまうしかねぇな」
「りょーかい」
友姫がダンボールを取りに行く間に本以外に散らばっているもの、ゲーム機やCD、ぬいぐるみ等を分けていく。
「はーい。持って来たよ~!」
「おう、じゃあ分けるか」
その言葉で2人が本を分けていく。
「これは?」
「最近読まない」
「これは?」
「何度も読み返してる」
「これは?」
「うーん・・・『読む』の方で」
少しずつだが本の山が消え、床が綺麗になり始めている。
友姫も本の選別をし出した。
(にしてもかなりの量だ・・・相当学んだんだろうな・・・)
友姫の勉強熱心な所に素直に感心する龍護。
「ん?」
ふと気になる本を見付けた。
本自体古くなっていて表紙は硬い素材で出来ている。
本の作りとしては紙の隅の直線上に何個も穴を開けて1本の紐を通して縛るといった昔の日本で作られたような本の作り方だ。
(こんな古いのも持ってんだ・・・で・・・タイトルは・・・)
表に返してタイトルを見る。
【七天龍の伝説】
本にはそう書かれていた。
そしてそのタイトルを見た瞬間に龍護は顔を顰める。
────なぜ、こんな時に思い出す・・・
龍護が思い出したのは転生した時に無理矢理付与された特典。
「?リューゴ、どうしたの・・・ってそれ・・・」
友姫も気付いたようだ。
龍護は友姫が近付いてる事に気付かずにその本を捲った────
☆★☆★☆★
その昔、7頭の龍が世界各国で酷く暴れ回っていた。
その龍は人の大罪を模した龍であり、神が人に対する試練として作り出した龍だ。
ある日、7人の男女が現れた。
その者達の持つ力は強大で7頭の龍を追い詰め、そして封印した。
神は功績を讃え、その龍達の力をその者達に埋め込み、守部としての役目を果たさせた。
だがある日、どんな理由かは分からないが1人の神が言った。
────7頭の龍を人に埋め込んで殺し合いをさせ、生き残った者に2つの願いを叶えよう。
神々は賛成し、7頭の龍の能力を埋め込んだ者達を殺し合わせた。
『世界最高の権力者になりたい』、『全知全能になりたい』
最初は疑ったものの、能力が確かなものだと判明すると様々な欲を持って彼等は血眼になって殺し合った。
神はそんな彼等を嘲笑って見ていた。
神々にとって彼等は余興を楽しむ為の駒に過ぎない。
そして必ず生き残った人には願いを叶えていった。
その時に必ず言っていることがある。
────願いを叶えたからにはその力を有意に扱うがいい。
だが彼等は願いが叶い、少しでも日が経つとそれに飽きてしまった。
『もう十分だ』、『これ以上は要らない』、『普通にしたい』
彼等は解っていた。
欲が満たされたら人は2つの思考に別れることを。
それ以上を望むか────
今を拒むか────
思い通りのものでなければ捨て、思い通りのものになったら飽きるかそれ以上を欲しがる。
そしてそれを望んだものには絶望を与えた。
それは”真逆の呪い”
最高有権者には貧困者になってもらい、有能者には無能者に、英雄になったものには愚者に────
彼等は突然変わった現状に耐え切れずに大半が自決。
ある者は精神を病み、ある者は天蓋孤独に、そんな堕ちた彼等も嘲笑い、繰り返した。
七天龍の遊戯・・・それは神が人を利用した遊戯である。
そして──────
☆★☆★☆★
龍護はパタンと本を閉じた。
(・・・昔からあるって事は相当な被害者が出てんだな・・・)
ハァ・・・とため息が出てしまう。
「リューゴ・・・?」
漸く近くに友姫がいることに気が付いた。
「友姫か・・・」
「これって・・・」
「ん?あぁ、気になって読んでみた」
「これ・・・この世界の歴史の・・・」
「あぁ、多分この遊戯ってやつは続いてんだろうな・・・」
俺を含めてな・・・とは言わない。
友姫を巻き込む気はないからだ。
ふと友姫を見ると悲しそうな目をする。
どこか、追い詰めている・・・そんな目。
龍護もそんな目は初めて見た。
「友姫・・・?」
龍護の呼び掛けにも反応しない。
「友姫?」
「え?あ!まだ途中だったね!」
友姫が無理に笑顔を見せたのは分かった。
だがそれを追求しようとはしない。
いや・・・出来なかった。
知ってしまったら後悔する。
そう感じた。
龍護も気持ちを切り替えて片付けに取り掛かった。
◇◆◇◆◇◆
2時間で漸く片付いた。
「ふー終わったー・・・」
「今度は定期的にやれよ?」
「・・・覚えてたら」
絶対やらないな・・・と心の中でツッコミを入れる。
今日は解散となり、龍護は家に帰っていった。
◇◆◇◆◇◆
友姫が1人、庭に面した廊下で夜空を見上げていた。
空には丸い月が浮んでいる。
風呂上がりなのか、頭にはタオルを巻いていた。
友姫は思い出していた。
今日の片付けの時に見た本を────
(リューゴ・・・どうしたんだろう・・・?)
そして考えてしまった。
もしも、あの本にあるように、自分も選ばれてしまったら・・・?
そのせいで彼を巻き込んだら・・・?
そのせいで彼が傷付いたら・・・?
自然に身体に力が入り、握り締めた服に皺が寄る。
震えていた。
もしも本当にその遊戯に選ばれたら・・・?
怖い────────
でも・・・
「あるわけ・・・無いよね・・・?」
少しだけ口元が緩む。
(明日も・・・元気なリューゴと会えるかな?)
明日はどんな話をしようかな?と友姫は明日も龍護に会えることを楽しみにしていた。
だが2人の知らない所で愛し合う2人の仲を無慈悲にも切り捨てる者がいることを龍護と友姫は知る由もない────
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