第2話国立喜龍学園

紺色の制服を着た黒髪の青年が1人、廃工場のど真ん中に立っている。

廃工場内は風が荒々しく吹いていて青年の髪や服が煽られている。

そしてその目の先には巨大な黒い龍が青年を見下ろし、青年の足元には長い金髪の女子高生が血を流して倒れていた。

その龍は翼が4枚もあり、羽ばたかせている。

この荒々しい風は目の前の龍が起こしているものだ。


(またか・・・)


青年はこれが夢だということを理解していた。


──────────!!!!


龍は何かを伝えようとしているのか、咆哮を上げている。

だが次の瞬間、龍は掻き消え、白髭をした老人が現れる。

この老人にも見覚えがあった。

青年に半ば無理矢理特典を与え、転生させた本人だからだ。

そして青年はこの老人が言うことも既に理解していた。


「せいぜい楽しませてくれ・・・だろ?」


先に言われたが老人は何事も無かったかのように同じセリフを告げる。


せいぜい楽しませてくれ────────


分かってるっての・・・と青年は悪態を付きながら自分の黒髪をガシガシと掻く。



もう聞き飽きていた─────



執拗いしつこい─────



青年の苛付きを感じたのかどうかは分からないが老人は消え、視界が白く染まる。



◇◆◇◆◇◆



「龍護ー!!!!早く起きないと・・・ってもう起きてたんだ?」


バン!!!!と乱暴に自室のドアが開けられ、義姉の恵美が入ってくる。

だが既に義弟の龍護は顰めっ面をしながら起きていた。

・・・少し寝起きの顔に苛付きが見えていたがこれは姉である恵美はあの夢を見た日にはこの顔付きになる事は知っている。


「また・・・あの夢見たの?」

「・・・まぁな・・・」


義姉はご飯出来てるから準備して早く降りてきてね。と笑顔で優しく言い、下に降りていった。

龍護は起き上がってハンガーに掛けた制服を着て、大きな鏡の前に立つ。

鏡には自分の姿が写っていた。

龍護の両目は色が違う。

所謂オッドアイだ。

右目は黒くて左目は茶色。

そして祐輔・・・もとい龍護がこの世界に来てから15年経っている。

その間に自分なりにこの世界の事を調べていた。

まず驚いた事に龍護のいる所は現代日本。

だがさすがに総理大臣は違っている。

現総理大臣は小野崎漫作という少し老けた30代の男性だ。

この世界は地球と同じで365日で1ヶ月の平均は30日となる。

金銭の数え方も【円】で、使われている素材は変わらない。

そしてこの世界にはファンタジーの世界として常識的な魔法が存在する。

魔法にも属性があって今のところ確認されている属性は火、水、土、雷、無、闇、光の7属性が存在している。

無属性魔法は2つあり、別名【浮遊属性】、【強化属性】と呼ばれ、この2つは全世界の人達が使える上、それ以外を持つ者もいればそれのみの人もいる。

因みに龍護は無属性以外に闇と光の属性を持っていた。

闇は幻覚系統、光は回復系統となっている。


魔法の用途については生活上(水や火)や競技、授業で使われる事が大半。(使える場合は申請すれば光熱費や水道代が免除される)

それ以外、つまり路上等での勝手な魔法の使用は護衛等の警備を除いて禁止されていて、見付かると厳しく罰せられる。

因みに光属性の魔法は傷の回復なので路上での使用は許されている。

そしてこの世界には【7頭の龍の伝説】なるものが存在していた。



☆★☆★☆★



数百年前、7頭の龍がこの世界の所々で暴れていたところに7人の勇者が現れた。

そして長い戦いの末、その龍達は封印された。

彼等の功績を全世界の有権者は讃え、その戦いは【七天龍の伝説】という名前で全世界の歴史に刻まれた。

絵本や教科書等では【7頭の龍の伝説】と今でも語られている。

どちらかと言うと【7頭の龍の伝説】の方が今では浸透しているのだろう。

そしてその勇者達は自分達の世界の知識や技術を惜しげも無く伝え、後に亡くなった。

残された者達はそれらの技術をさらに高めようと奮闘し、何百年も掛けて現代日本にも劣らないレベルにまで上がっていった。

その後、世界中で龍を倒した場所には石碑が建てられ、今でもその石碑は厳重に保管、管理されている。



だが、今から90年以上も前に、突然彼等に告げたのだ。



”7人の中から1人に叶えたい夢を2つだけ叶えてやろう。”



選ばれた当時の7人は最初は何かしらの悪戯かと思って力を埋め込まれた者達は誰もやろうと思わなかった。

だがある時、1人の少年が白い龍に変貌した。

それを聞いた新聞記者達はスクープだ!と、挙ってその少年の話を聞きに行く。

少年は幼かった為、隠していい事かダメなものか分からなかったのだろう。

告げられた事をそのまま言ってしまったのだ。

少年は様々な団体、そして政府にも追い掛けられ、自らの欲望の為に少年を利用しようとした。

だがその願いは儚く散った。

少年が自殺したのだ。

遺書にはこう書かれていた。


”誰か、助けて”


政府は龍の力の持ち主の捜索を凍結し、この少年の事件は闇に消えていった。

だが恐らくは、今でも水面下で活動は続いている可能性は高いがその龍の力に関しての情報は政府は揉み消した為、一般人は知る由もなかった。



☆★☆★☆★



龍護は義姉の恵美と親代わりである老婆の明子と共に生活している中で龍護は自分の脳内に付与された特典の事を思い出し、どんな内容なのか確認しようとしたがいくらやっても出来ない。

龍護はハァ・・・と溜息を付いて服装を整えてから下に降りた。


「はよー」

「うっす」


姉弟で軽く挨拶を交わし、龍護は向かいに座る。


「もう高校生活は慣れた?」

「まぁな」


龍護は去年から偏差値70の国立喜龍学園という中高一貫校の学園に通っている。

というのも龍護は姉と一緒に(というか強制的に)生前の知識や経験を活かして様々なボランティア活動に参加していたのを喜龍学園の教員が目を付け、勧誘をしてきたのだ。

龍護は学費を理由に断った。

だが喜龍学園は名門高校で恵美は行ってほしいらしく、教員に奨学金制度に関して質問すると特別支援制度というものが存在し、その制度を使えば学費に対してはほぼ半額以上が免除されるとの事で恵美は祖母の明子が残した財産を使うことにし、龍護は高校から国立喜龍学園に入ることとなった。


その学園の高校には2年生から普通科と魔法研究科(通称:魔法科)の2学科が存在し、龍護は普通科に所属している。

高校からの進路は普通科はそのまま普通大学か魔法大学へ進学、若しくは就職となる。

魔法科も普通大学、魔法大学へ進学か就職。

あるいは魔法を研究している施設に配属となる。


「龍護が普通科に行くなんて今でもありえないんだけど・・・」

「俺には俺の考えがあるんだからいいんだよ」

「・・・まぁ、龍護がそう言うなら別にいいけど・・・」


龍護は中学入試や高校入試の際に必ず行われる魔法適正検査でランクSを取っていた。

それ故龍護は魔法科に行くと思っていた恵美だったが本人は普通科の方が自分には合ってると言って普通科に所属している。

普通科でも魔法を使う授業はあるが基本的な魔法のみとなる。

より魔法について詳しく学びたい場合は高校2年生から選べる魔法科に所属する必要があった。

龍護が朝食を終えて学園に行く準備をし、先に出ようとする。

義姉の恵美は大学生で午後から授業の為、午前は家でのんびりする気だ。

龍護は遅れないように、と急いで去年他界した明子の遺影に手を合わせ、足早に家を出た。



◇◆◇◆◇◆



「うーっす!」

「おはよー!」


校門を生徒が通ったり、はしゃいだりしている。

龍護も気怠そうに門を通る。

まぁ前世で既に大学生だったので当然といえば当然だろう。

だがそれは3人の男子学生に阻まれた。


(またか・・・)


目の前にいるのは1つ上の上級生達。


「よぅ龍護、ちょっと面貸してもらおうか?」

「はぁ?なんでそんな面倒な──────」


龍護の言葉を無視して3人の男子学生は龍護を囲む。

彼等はほぼ毎日龍護に絡んでいる。

理由としては下級生のくせに魔法適正検査で自分達より高いSランクを取っているからだ。

所謂いわゆる嫉妬に近い。


「今日という今日は惨めに散ってもらうからなぁ?」


リーダー的な学生がボキボキと手の関節を鳴らす。

それと同時に3人は距離を縮めていく。


「やれ!」


その言葉と同時に斜め後ろにいた2人の学生が殴り掛かる。


『もらった────!!!!』


2人が勝ちを確信した時だった。


「失せろや!!!!」

「はぼが!?」


龍護が持っていた学生バッグを横に一閃し男子学生の横顔にクリーンヒットする。

そして連鎖を起こし、横にいた男子学生にも激突した。

2人の男子学生はそのまま吹っ飛び、校門の壁に激突した。


「ったく・・・」


龍護は何事も無かったかのようにバッグを肩にする。


「ひいっ・・・!」


一撃で2人をいなした龍護に怯えるリーダー(笑)


「まだやるんなら相手になるぞ」


軽く殺気を込めて学生を睨む。


「お・・・覚えてろー!!!!」


学生は捨て台詞を吐いてその場から逃げ出した。


(逃げる位なら最初からやらなきゃいいのに・・・)


龍護はチラッと辺りを見る。

近くでは女子学生が龍護を見てキャーキャー言ってはしゃいでいた。

龍護は、ハァ・・・と再び溜息を付いて自分のクラスに向かった。



◇◆◇◆◇◆



龍護がクラスの前に着き、ドアを開ける。


「あれー?ダッチー今日は随分早いね」

「昔から変わんねぇのな、その呼び方。雫もおはよ」

「・・・」


白髪でツインテール、黒縁の眼鏡をした女子生徒、北野白きたのしろが早く来た龍護に気付いて話し掛ける。

ダッチーとは龍護のクラスの1部の生徒(というか白のみ)から言われている龍護のあだ名で奪木からなっている。

白い髪を肩で揃えていて、白とは双子で妹のしずくに挨拶するが本人は頷き、本にまた視線を戻す返しとなった。


「変な起き方してな」

「ふーん。あ、そういえば佐野先生が呼んでたよ?学科分けの事で用があるから時間がある時に来てほしいって」

「・・・やっぱり?」


佐野裕樹さのゆうき

龍護に目を付けた張本人であり父親が議員の1人で本人は魔法担当で教師を務めている。

そして父親もこの国立高校に多額の援助をしていて校内で知らない者はいない。

因みに息子の義晴という男子生徒はこの国立喜龍学園の卒業者である。


「そりゃあ、試験の時の魔法適正検査であのランクを出したのに普通科選ぶならそうなるでしょ・・・私だって驚いたよ?」

「・・・ですよね~・・・」


龍護は放課後にでも行ってみるかと考え、窓際にある自分の席に着いた。


「龍護~!これ見たか!?」


メガネをした1人の男子生徒、安達野武あだちのぶが目の前に現れ、龍護にスマートフォンの画面を見せた。

そこには可愛い女性キャラの画像とその声優の女性が載っていて見出しには《楠木魅子くすのきみこ、婚約を表明!》と書かれてる。


「・・・何これ?」

「決まってんじゃん!ミコっちが婚約したんだよ!」


いや、知らんがな。と龍護は心の中でツッコミを入れる。

どうやらミコっちとは楠野魅子の愛称らしく、画面を見るとその相手は人気俳優みたいだ。


「いいよな~ミコっち・・・」

「そうか?」

「・・・お前は反応薄いよな・・・」


龍護はアニメは気晴し程度に見る為ほぼ興味が無く、そういった関連の情報には疎かった。

そして龍護もテレビ越しに楠野魅子を見た事はあるがそれ程可愛くはなく、微妙な感じとしか思えなかった。


「頭もイイし、家庭的だし、気配りもいいし・・・女性としてはパーフェクトだろ!あ~俺もそんな人に出会いてぇ~!」


野武の独り言をスルーしてるとチャイムが鳴って担任が教室に入ってきた。

生徒達はそれを確認すると急いで自分の席に着き、ホームルームと授業が始まった。



◇◆◇◆◇◆



授業が終わり、放課後となる。

部活に行く者もいればすぐに帰る者、教室に残ってゲームをしたり、仲のいい友人と話す者等、様々だ。

そんな中、龍護は職員室に向かう。


「ん?龍護、どこ行くん?」

「佐野先生に呼ばれた」

「あ~・・・あれね・・・こっちに戻ってくるなら自販機で紙パックのカフェオレ買ってきてよ」

「残念だな。そのまま帰宅だ」


ちぇー・・・と言いながらも野武はまた明日な~と龍護を見送った。

その後に白が続く。


「部活か?」

「まぁね、8月に大会があるから少しでもタイムを縮めたいし」


白は陸上の長距離走の選手で1年生の時からその運動神経でレギュラーに抜擢される程だ。

また明日ねー!と白は手を振りながら校庭へと向かい、龍護も職員室へと足を運んだ。



◇◆◇◆◇◆



ドアをノックして職員室に入る。


「失礼します。佐野先生はいらっしゃいますか?」

「あ、奪木君、こっちこっち」


スキンヘッドで狐目の教師が龍護を手招きする。


「それで、話とは?」

「うん、その事なんだけど・・・奪木君。魔法科に編入する気は無いかな?」


やはりか・・・と龍護は心の中で毒づいた。

以前も説明したが龍護は高校受験の際に必ず行われた魔法適正検査で最高ランクのSを取っている。

魔法適正で最低ランクはEとなり、大半の人はそのEとなっている。

だが国立喜龍学園は優秀者を寄せ集めている為、最低でもCランクは必要となっていた。

中学部から来ている学生の場合は必要ないが高校から喜龍学園に入る際に適正検査を必ず行い、もしもCでなかったら喜龍第二学園に移動となる。

因みにSランクは全世界で20人程しかいなく、龍護のクラスでもSランクは龍護のみ。

そもそもこの学園でSランクは片手で数えられる程度しかいないのだ。

佐野裕樹曰く、今からでも編入は可能らしい。


「すみません・・・個人的にも私は普通科の方が合うと思ってるんで・・・」


龍護自体あまり面倒事には関わりたくない性分であり、魔法適正検査でSを取った際は自分を転生させたあの老人を恨んだ。(ボランティアに関しては姉に無理矢理連れて行かれた)

魔法適正がSなら使う魔法はかなり上級のものとなる。

だが先程も言ったが龍護は面倒事は出来るだけ避けたいので魔法科ではなく普通科に行ったのだ。

これにはさすがの教師も驚いていた。

それもそうだろう。

折角の才能を発揮しないで捨てるようなものだ。

教師達はいいのか?と聞くも龍護の意志は変わらず、そのまま普通科に配属となった。


「まぁ、君自身がいいのならいいんだけどね・・・だが折角の魔法適正Sという貴重な身としては些か勿体無いと思ったからね・・・」

「まぁ、魔法の勉強はしておきますんで」

「そうか、分かった。なら向こうで使ってた1つ古い教科書があったんだけど借しておくかい?」

「あ~じゃあお願いします」


佐野先生は取りに行ってくるから待っててくれと龍護をその場に留まらせる。

龍護自身もさすがに魔法科への編入を断った上に教科書の貸出も断る事は失礼だろうと思い、教科書だけは持っておこうと考えて借りたのだ。

少しして佐野先生が戻ってきて分厚い教科書を渡す。


「じゃあ俺はこれで失礼します」

「うん、態々来てくれてすまないね」


龍護は一礼すると職員室を出て、教科書を鞄に仕舞うと、玄関で靴を履き替えて学園を出た。



◇◆◇◆◇◆



「しっかし1冊増えただけでこんなに重くなるとは・・・」


龍護がげんなりした顔付きで帰っている。

先生から借りた教科書がかなり重い為だ。


(こうなるならロッカーに置いてくりゃ良かった・・・)


帰り道にそう思って振り返るも、学園はもう見えない。

ハァ・・・と溜息をして帰り道を進む。

曲がり角を通った時だった。


ドンッ!!!

ベチャッ!


何かにぶつかり、それと同時に何か落ちた音がした。


「キャッ!?」

「うおっ!?」


声からして女性。

龍護はよろけただけで倒れる事は無かった。


「イテテテ・・・」

「すみません!大丈・・・夫・・・?」


ぶつかって転んでいたのは長い金髪をそのまま伸ばしている女子高生。

そして制服が龍護と同じ喜龍学園のものだった。

そしてその横にはジャムが塗られた部分が下になって地面に落ちた食パンがある。


「sorry・・・コッチモハシッテテ、did not notice前を見てなかったカラ、オタガイサマデスネ」


お尻を擦りながら、なぜか英語と日本語の両方を使って話している女子高生。

見るからに外国人だ。

だが龍護は途端に目を反らしてしまう。


「?What's the matterどうしたの?」

「えっと・・・その・・・スカート・・・」

「skirt?・・・アッ!」


スカートの中が見えていた事に気付いた外国の女子高生はすぐに足を閉じた。

龍護が再び女子高生を見ると、女子高生は顔を赤くしながら上目遣いで龍護をキッ!と睨んでいた。


「・・・ミマシタ?」

「え?・・・いや・・・」

honestly正直ニイッテ」


逃げられないと悟った龍護。

正直にミエマシタ・・・と片言で言うと女子高生の目に涙を溜めている。


「けど・・・その不可抗力であって・・・」

「なら・・・コーフンシマシタ?」

「いや、興奮も何も・・・・・・って、え?興奮?」


女子高生の言葉に疑問があった龍護。

よく女子高生を見てみると「Oh,Shit!」と悔しがっているように見えた。


「ツマリexperimentハシッパイデスネ・・・」

「なんだよ・・・experimentって・・・」

「”ジッケン”トイウイミデスヨ。ワタシ、シッテルンデスヨ?ダンセイニトッテコウイウsituationハ・・・エーット・・・」

「・・・萌えるシチュエーションって言いたいのか?」

「yes!That's right!」

(この子・・・色んな意味で大丈夫かな・・・?)


目の前でハイテンションではしゃいでいる女子高生。

変な人に引っ掛からないかと心配になってきた龍護。


「そういえば急いでいたみたいだけど・・・」

「oh!ソウデシタ!ジツハjointly一緒ニイタcompany会社ノヒトトハグレテシマッテ・・・」

「はぐれたって・・・携帯で連絡しねぇのかよ?」

「・・・トチュウデオリタcarノInsideデス・・・」


駄目じゃん・・・と心の中でツッコム龍護。

だが何となく目的地なら分かった。

この子の着ている制服は喜龍学園の制服。

だとすれば・・・


「多分行き先って喜龍学園?」

「That's right!ソウデス!ワタシノイクサキハ、コクリツキリュウガクエンデス!」


さっきからこの調子で大丈夫なのだろうかと不安になり龍護は案内を買って出る。

すると女子高生はThank you!と抱き着いてきたので気恥ずかしくなった龍護であった。



◇◆◇◆◇◆



「イヤ~Thank you very muchデス」

「まぁ、こっちは暇だったからいいって」

「ソレデモタスカリマシタ・・・ン?」


2人揃って歩いている。

すると右にある公園で1人のひ弱そうな男子生徒が3人の男子生徒に囲まれていた。

囲んでいたのは今朝、龍護に絡んできた3人だ。

その3人に女子生徒も気付いたようだ。


「sorry、bagモッテテクダサイ」

「え?なん」


龍護が理由を聞こうにも、女子生徒は無視をして鞄を龍護に投げ渡し、3人に近付いていく。


「Hey!it is you!」


女子生徒の声に3人が振り向く。


「あ?何だテメェ?」

passing通りすがりノヒーローデス!キミタチサンニンヲミカケタノデpunishment成敗シニキマシタ!」


そう言いながら両手を腰に当てて仁王立ちして笑みを浮かべている。

余程自信があるのだろう。

だが3人は笑い出す。


「よりにもよってヒーロー気取りかよ。こんな電波女まだいるんだな!」


女子生徒は笑われているが少しも動じていない。

そして3人の中の1人が歩いてくる。


「じゃあヒーローさんよぉ?俺達を相手にしても、勝てるって事だよなぁ!」


男子生徒が女子生徒の腕を掴み上げた。

だが気が付くと男子生徒の身体は宙に浮かんでいた。


「へっ?」

「ハッ!」


女子生徒が追撃に横腹に蹴りを叩き込む。

すると男子生徒は吹き飛び、ジャングルジムに背中を強打した。


Which is next次はどっち?」

「このっ!」


男子生徒の1人が手の平を女子生徒に向けると炎が現れて、女子生徒に襲い掛かる。

男子生徒は魔法を使っていた。

違反だが周りに人はいない。

彼等はそれをいい事に魔法を使った。

だが炎は当たらず、目の前の女子生徒は消え、一瞬で男子生徒の後ろに回っていた。


Late遅い!」


女子生徒は男子生徒の横顔を後ろから蹴り飛ばす。

バキッ!という音を立てながら男子生徒は吹き飛んで公園の壁に激突した。

残るは1人。

だが先程の2人がやられたのを見て男子生徒はガタガタと震えていた。


「ラスト!」

「ひいっ!」


女子生徒は右手を手刀にして男子生徒の首に────当たる直前で止めた。


surrender降参シマスカ?」

「は・・・はい・・・」


女子生徒が手刀を下ろすと同時に囲んでいた男子生徒達は逃げていった。


「セイギハwinナノデス!」


女子生徒はVサインを龍護に向けた。

そして女子生徒は振り返り、囲まれていた男子生徒の前でしゃがみ込む。


「Are you ok?」

「え・・・その・・・」


男子生徒はまだ怯えているようだ。

女子生徒はウーンと考え出す。

そして何か思い付いたのかポン!と左手の平にグーにした右手を合わせる。

すると女子生徒は突然囲まれていた男子生徒に抱き着いた。


「はあっ!?」

「ええっ!?」


さすがに龍護もこれには驚いた。


「ダイジョーブ、ダイジョーブ、モウコワイヒトハニゲテイッタヨ」

「は・・・はいぃ・・・」


いや、男子生徒にとっては色んな意味で大丈夫ではなかった。

漸く女子生徒は離れ、立ち上がるとsee youと笑顔で手を振って龍護の元に戻っていった。


「ネェネェ!ワタシ、カッコヨカッタ!?」

「お・・・おぅ・・・さすがにすげぇと思った」


龍護の率直な感想を聞いて女子生徒はヒャッフー!!!!と嬉しそうにジャンプする。


「カクトーギヲアメリカデオボエテマシタ!」


女子生徒はそう言いながらハァ!と正拳突きをする。

あぁ、だから・・・と龍護も納得した。


「っと、学園までもう少しだから行くぞ」

understoodそうだった!ハヤクイキマショー!」


龍護と女子生徒は再び歩き出した。



◇◆◇◆◇◆



漸く学園に着いた。

女子生徒は龍護にthank you!と言って校内に走る。

龍護も再び帰路に戻った。


「あ、名前聞いてねぇ・・・まぁ、学園内で会うだろうし・・・別にいいか・・・」


龍護は名前を聞きそびれたのに気付くも、学園内でならすれ違う時もあるだろうと思ってすぐに家に帰った。



◇◆◇◆◇◆



翌日。

龍護は教室に着いて自分の席に着くなり、寝始める。


「おーす龍護」

「んあぁ?」


名前を呼ばれて起き上がる。

そこには友人の野武が立っていた。


「そういえば聞いた?」

「何を?」

「今日、転校生来るんだってさ」

「へー」

「・・・あんまり興味ないみたいだな?」

「別に・・・面倒な奴じゃなけりゃいいってだけ」

「ふーん」


チャイムが鳴り、生徒が席に着く。

担任が入って来た。

そして担任も転校生が来ていると話し出す。


(そういえば昨日の金髪の奴・・・どっちの科だったんだろうな・・・)


と外をぼんやりと眺めながらそんな事を考えていた。

担任が入ってと促し、その転校生が入ってくる。

龍護は興味なさげだが一応顔は見ておこうと前を見た途端に驚いた。


「Hey! boys&girls!ワタシハ友姫ゆめスレイン・ラジネス!ヨロシクゥ!」


転校生は昨日会った女子生徒であった・・・

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