真聖剣、いたぶり抜く


 170-①


「ヴァっさん!! その剣を離──」


“ぽんっ”


「ぐはあああっ!?」


 リヴァルをショウシン・ショウメイから引き離そうとした武光だったが、リヴァルが左の掌底を武光の腹部に『軽く』当てた次の瞬間、武光は2〜3メートルもふっ飛ばされた。

 体の前面を床に叩きつけられた武光は、すぐさま立ち上がろうとしたが、あばらを襲ったあまりの激痛に胸を抱えるようにしてうずくまってしまった。


〔武光、大丈夫か!?〕

〔ご主人様!!〕

「ぐぅぅっ……あ、あばらが……」



〔「当然だ、手加減してやっているからな……あばらの二、三本程度だろう」〕



「ヴァっ……さん……?」


 リヴァルが声を発した……いや、リヴァルの体を通して、ショウシン・ショウメイが言葉を発していると言った方が正確か。


〔「アスタトの巫女よ、何をしている? 治療してやらぬのか?」〕


「えっ? あっ、武光様!!」


 ショウシン・ショウメイに言われて、呆気あっけに取られていたナジミは、弾かれるように武光の元へ駆け寄った。


「安心してください、すぐに治療します!!」

「すまん、助かっ……ぐはぁっ!?」


 ナジミの癒しの力によって、傷が治った瞬間に今度は顔面への跳び膝蹴りを喰らって、武光は再びふっ飛ばされた。


「武光様ーーー!!」


〔「さぁ、早く行って治してやれ、力加減をほんの少し誤ってしまった……首の骨が折れているかもしれんぞ?」〕


「くっ……」


 ナジミはショウシン・ショウメイをキッとにらみつけると、再び武光に駆け寄り治療したが、怪我を治した瞬間、またしても武光は思いっきりぶん殴られ重傷を負わされた。


〔「さぁ……治せ!!」〕


 その後も、何度も何度も同じ事が繰り返された。ショウシン・ショウメイによって武光が傷付けられるたびに、ナジミが必死に傷を治す。そしてその度にショウシン・ショウメイがまた武光に瀕死の重傷を負わせる。


「どうして……どうしてこんな酷い事をするんですかっ!! どうしてこんな……」


 ナジミはボロ泣きしながらショウシン・ショウメイに詰め寄ったが、ショウシン・ショウメイは冷酷に吐き捨てた。


〔「言ったはずだぞ……我はそこの偽聖剣に最大の絶望と苦痛を与える為に、この者を殺す……残虐に!! 凄惨に!! 惨たらしくッッッ!! 本気を出してしまっては、この男に痛みを感じさせる間もなく瞬殺してしまう……それではつまらん。さぁ……早く治せ!!」〕


 苦しむ武光を見て、イットー・リョーダンは叫ばずにはいられなかった。


〔もういい!! もうやめてくれ!! そんなに僕が憎いなら僕を叩き折れ!!〕

〔「フン……『もういい』だと? もういいかどうかは我が決める、貴様はそこで主が苦しむ様でも見ていろ……よし、また治ったな?」〕


「はあっ……はあっ……クソが……っ!!」


〔「ほう? これだけ痛めつけられてもまだ反抗的な態度をとるか……良いだろう、貴様がみじめに命乞いするまで!! アスタトの巫女が『死なせてやる事こそが慈悲』と思うまで!! 貴様には地獄の苦痛を味わってもらう……何度でも……何度でも……何度でもッッッ!!」〕

「けっ……ド◯カムかお前は……ぐはぁっ!?」


 立ち上がった武光の鳩尾みぞおちに、リヴァルの拳がめり込んだ。


「ぐふっ…………う……うらぁぁぁぁぁっ!!」

〔「ぬうっ!?」〕


 武光は執念しゅうねんで喰らい付き、魔王のかぶとに頭突きを喰らわしたが、内臓をやられたのか、直後に口から血反吐ちへどを吐いて、両膝を床に着いたところを荒々しく蹴飛ばされた。


「た……武光様!! 今……行き……ます……!!」

〔「ククク……どうしたアスタトの巫女よ? 貴様が踏ん張らねばその男は死ぬぞ?」〕

「はぁっ……はぁっ……い……言われなくても……っ!! 武光様は、絶……対に……死なせませんっ!!」


 癒しの力の使い過ぎで、ナジミも疲労の色が隠せなくなってきた。残り少ない力を振り絞って、ナジミは武光の傷を治した。


〔「治したか……また痛めつけて……ぬうっ!?」〕


「……リヴァルの身体で!!」

「これ以上好き勝手はさせませんよー!!」

「ヴァンプさん!! キサンさん!!」


 リヴァルに叩きのめされ、気を失っていたヴァンプとキサンが意識を取り戻し、武光達を守るべく、リヴァルの前に立ち塞がった。


〔「ちょうど良い……貴様らも仲間にしてやろう!!」〕

「……ぬうっ!?」

「きゃっ!?」


 リヴァルは瞬時に二人との間合いを詰め、左右の手を二人の喉首のどくびにかけた。


〔「……目覚めよ!!」〕


 ヴァンプとキサンは、ガクリと崩れ落ち、再び立ち上がった二人は武光達の方へ向き直った。二人ともその瞳に狂気を宿し、邪悪な笑みを浮かべている。


「嘘やろ……」

「そ、そんな……」



「……貴様ら、覚悟しろ……」

「うふふ……ブチ殺してあげますからねー!!」

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