勇者、真聖剣を引き抜く


 169-①


「ぐ……ああああああああああああっ!!」


「ヴァっさーーーん!? 大丈夫かーーーーーっ!?」


 獅子王鋼牙を取り落とし、両膝を床に着き頭を抱えて悶絶するリヴァルを目の当たりにした武光は叫んだ。

 何かに操られるかのように、リヴァルの右手がゆっくりとショウシン・ショウメイの柄へと伸びる。


「……いかん!! その剣に触れるな!!」


 リヴァルの手がショウシン・ショウメイのつかに触れる寸前で、ヴァンプがリヴァルを背後から羽交はがい締めにした。ヴァンプはそのままリヴァルを部屋の端まで引きずって行き、部屋の中央に突き立つショウシン・ショウメイからリヴァルを引き離した。


「……くっ、何て馬鹿力だ!? キサン、ダント、手伝え!! リヴァルから魔王の兜を脱がすんだ!!」

「今行きますよー!!」

「はい!!」

「私達も行くわよ!!」

「はい、姫様!!」


 キサンとダント、そしてミトとリョエンもリヴァルの拘束に加わった。


「俺らはショウシン・ショウメイの方を何とかすんぞ!!」

〔応ッ!!〕

「でやあああああっっっ!!」

〔でやあああああっっっ!!〕


“ガキンッッッ!!”


 武光は、ショウシン・ショウメイを叩き折ろうとイットー・リョーダンを渾身の力で袈裟懸けに振り下ろしたが、ショウシン・ショウメイは易々とそれを弾き返した。


「くっ!!」

〔何て硬さだ!?〕

〔フン……貴様ら如き凡人と偽聖剣が我を破壊しようなど笑止!!〕

「ほんなら……床からぶっこ抜いて窓から投げ捨てたらぁ!!」


 武光はショウシン・ショウメイのつかに手をかけ、全力で引っ張ったが、ショウシン・ショウメイはビクともしない。


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬ…………アカン抜けへん!! そんなに深々と突き刺さってるわけやないのに……何でや!?」

〔ククク、愚かなり……我は『勇者の聖剣』ぞ!! 勇者でも何でもない貴様の如き凡人に……我が引き抜けるものか!!〕

「ぐぐ……くそーっ!!」

「たたた大変です!! 武光様、アレを!!」


 ナジミが指差した先では、リヴァルがとてつもない怪力でヴァンプの拘束を振り解き、取り押さえようとするキサンやミト達を徒手格闘としゅかくとうで叩きのめしていた。

 拘束から逃れたリヴァルは、まるで夢遊病むゆうびょう患者の如く、ショウシン・ショウメイ目指して一歩……また一歩と覚束おぼつかない足取りで歩を進めてゆく。


「ヴァっさん……やっぱりあの兜を介して操られてんのか!? あの兜を剥ぎ取るしかあらへん!!」

「で、でも武光様、あのヴァンプさん達ですら無理だったんですよ!?」

「……とっておきの技がある!!」

「な、何ですか……それは……?」


 武光はナジミにゴニョゴニョと耳打ちした。


「そ、そんなので本当に大丈夫なんですか!?」

「大丈夫や、俺を信じろ!!」

「は……ハイ!!」

「よっしゃ、ヴァっさんの後ろに回れ!!」

「は……ハイッ!!」


 武光に言われて、ナジミはダッシュでリヴァルの後ろに回り込み、武光とナジミはリヴァルを前後から挟み込むような位置をとった。武光がナジミに向かって叫ぶ。


「さっき言うた通りにやるんや!! ええな? ネ◯チューンマンとビ◯グ・ザ・武道やぞ!?」


 武光の言う、ネ◯チューンなんとかやビ◯グ・ザ・なんとかが、どんなものなのか想像もつかないナジミであったが、『行くぞーーー!!』と、左腕を水平に伸ばして走り出した武光を見て、ナジミは先程耳打ちで教えられたように、武光同様、左腕を水平に伸ばして走り出した。


「行くでナジミ!! クロスッッッ!!」

「ぼ……ぼんばーーーーーっ!!」


 武光と ナジミは クロスボンバーをくりだした!

 しかし リヴァルには あたらなかった!


「ぐへぇっ!?」

「ぎゃんっ!?」


 リヴァルがクロスボンバーが炸裂する直前で真横に跳躍し、攻撃を回避したせいで、武光とナジミが繰り出したラリアットは互いの首に誤爆し、派手にすっ転んで後頭部を打った二人は悶絶もんぜつした。


「ぐおおお……あ……アホかーっ!! 誰がマ◯モスマンとキ◯ノンボーラーやれって言うた!? ネ◯チューンマンとビ◯グ・ザ・武道って言うたやろが!!」

「痛たたた……そ、そんな事言われても!! 大体、何なんですかマ◯モスとかネ◯チューンって!? 意味が分かりませんっっっ!!」

〔二人共、言い争っている場合じゃない!! リヴァルが!!〕


「「ゲェーッ!?」」


 武光達の視線の先では、リヴァルがショウシン・ショウメイを引き抜いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る