真聖剣、目を覚ます


 168-①


「光術、斬魔輝刃!!」

「……ぬぅおあああああっ!!」

「火術……蒼火炎弾!!」

〔くっ……!!〕


 リヴァル戦士団の猛攻に、ショウシン・ショウメイは徐々に押され始めていた。流石さすがは我が主とかつての仲間達の血を継ぐ者達だ、その身に宿った魔王の力をも徐々に自分のものにして、戦いの中でどんどん力を増している。


「火術……炎龍!!」

「秘剣、業火剣乱!!」


 更に、妹の方ほどではないが兄の方の術、そしてアナザワルドの小娘の剣技も侮れない。


「わ、私も……せいやーーーーーぐはっ!?」

「大丈夫ですダントさん、すぐに行きます!!」


 そして、敵に瀕死の傷を負わせても、アスタトの巫女がすぐに治療してしまう。アスタトの巫女の治癒能力は魔族の血が覚醒してから劇的に向上していた。

 元が魔族なだけあって魔王の力とは親和性が高いのかもしれない。そして何より……


「でやぁぁぁっっっ!!」

〔でやあああっっっ!!〕

〔フン……〕

「うおっ!? 危なっ!?」


 唐観武光、この男……強さ自体は大した事はないのだが、さっきからずっと、妙に反撃しにくい攻撃を仕掛けてくる。リヴァル達を相手にしなければならない以上、優先して潰さなければならない訳ではないが、無視し続けるには鬱陶うっとうし過ぎ──


「ヘイヘーイ、ショウちゃんビビってるーーー?」

〔ヘイヘーイ〕

〔ヘイヘーイ〕


 ……あと何か執拗しつようにこちらをあおってくる。こちらを挑発し、何とか隙を作ろうと企んでいるのだろうが、鬱陶うっとうしい事この上無い!!


「行くぞ!! 斬魔輝刃!!」

〔フン──〕

「おらぁぁぁっっっ!!」

〔ぬうっ!?〕


 リヴァルの攻撃を捌いた直後、ほぼ同じタイミングで迫っていた武光の斬撃をショウシン・ショウメイは間一髪で躱した。


〔貴様、我の動きを読んで……!?〕


「いいや、速すぎて全く見えん!! でも……ヴァっさんの動きやったら超ウルトラハイパーグレート動体視力スペシャルで何とかギリギリ追える!! 斬られ役たる者……『常に主役から目を離さず、主役に動きを合わせるべし』ってな……斬られ役ナメんなよ!?」


 ショウシン・ショウメイは理解した。武光に対してさっきからずっと感じていた鬱陶しさの正体を。


 この男は先程からリヴァルの攻撃に合わせて攻撃を繰り出してくる。


 攻撃の到達に時間差があれば、順に対処して捌く事は容易たやすいが、全くの同時に全くの別方向から攻撃された場合、自身の刀身からだは一つしかない以上、回避や防御、そして反撃の難易度は跳ね上がる。


 そして、リヴァルと武光の攻撃の時間差はどんどん縮まっていた。この男は戦い続けながら、ずっと測っていたのだ……リヴァルの速さを、動きの癖を。


 ショウシン・ショウメイの中で武光を叩き潰す優先度が増した。


「フフフ、全く同じタイミングで別方向から攻撃されれば流石のお前も……うっぷ……おぇぇぇ!? ちょっ、ミトすまん、時間稼ぎ頼む!!」


 武光は口を押さえながらナジミの所までダッシュし、数秒後、スッキリした顔で戻って来た。


「行くでヴァっさん!!」

「ええ、武光殿!!」


〔むっ!?〕


「うおおおおおっ!!」

「はあああああっ!!」


 左右から武光とリヴァルが突進して来た。右から武光が、そして左からリヴァルが真っ向斬りで斬りかかってくる。

 攻撃のタイミング、攻撃が自分に到達するまでの時間、全てがドンピシャの一撃だ。

 ショウシン・ショウメイは魔王の鎧を後方に跳躍させようとしたが、退路には既にヴァンプやキサン、ナジミやミトやリョエンが先回りして待ち構えていた。


〔……くっ!!〕


 仕方なくショウシン・ショウメイは自身でイットー・リョーダンを受け止め、左の前腕部で獅子王鋼牙を受け止めさせた。


「ボディーが……」 

「ガラ空きだぁぁぁっ!!」


 武光とリヴァルによるダブルのバック・スピンキックが魔王の鎧に炸裂し、その衝撃でショウシン=ショウメイの柄が魔王の鎧の手からすっぽ抜けた。

 鎧の手を離れたショウシン・ショウメイは床に突き立ち、床に勢い良く叩き付けられた魔王の鎧は “ガシャン!!” と音を立てて、手足や各部のパーツが外れた。


 武光が慌てて叫ぶ。


「み、皆!! 魔王の鎧を取り押さえろーーーーー!!」

「は、ハイッ!! 武光様!!」


 武光に言われてナジミは自分の足元に転がってきていた魔王の鎧の右腕部分を抱き上げた。


「よし、捕まえました……って、ひぃぃぃっ!? た、武光様……う、動いてますコレ!! ちょっ……ああっ、ひぇっ……どどど、どこ触ってるんですかーーー!?」

「おまっ、絶対に放すなよ!?」


 武光は魔王の鎧の胴当て部分を押さえ込みながら叫んだ。武光の体の下では胴当てが、上からのしかかる武光を跳ね飛ばそうと、手負いの獣のように暴れている。

 すったもんだしながらも、鎧の他の部位もミトやリョエン、ヴァンプやキサン達が取り押さえた。

 それを見た武光が、魔王の鎧の胴当てを押さえつけながら叫ぶ。


「はぁっ……はあっ……どうやショウシン・ショウメイ!! 扱う奴がおらんかったら、流石のお前もお手上げやろがっ!!」


 武光の言う通りだった。もし自力で自由に動けるのであれば、わざわざ魔王の鎧を操るなどという手間をかける必要など無いのだから。

 武光の視線の先ではリヴァルが床に突き立ったショウシン・ショウメイと向かい合っている。


〔くっ……何故だ……何故我が負ける!? アルトと共に魔王を封じたこの我が、魔王はおろかアルトの強さの足元にも及ばぬ貴様らに……〕

「簡単な事だ……今のお前には仲間がいない」

〔何……?〕

「私には幾多の苦難を共に乗り越えてきた、掛け替えのない仲間達がいる……仲間との絆があれば……どんな敵にも負けはしない!!」

〔そうか……仲間との絆か……フハハハハハ!!〕


 リヴァルの言葉を聞いたショウシン・ショウメイは高らかに笑った。


〔リヴァル=シューエン……やはりお前は我が主、アルト=シューエンの血を受け継ぐ者だ。アルトも同じ事をよく口にしていたよ。実に青臭いが……そんなアルトが我は好きだった〕

「ショウシン・ショウメイ……」

〔なぁリヴァルよ、もう一度だけ聞く。我と共に……アルトの仇を討つつもりは無いか?〕

「すまない……」



〔そうか…………ならば仕方あるまい!!〕



「なっ!?」


 突如として飛来した魔王の鎧の一部が、強制的にリヴァルに装着された。武光が戦闘の序盤にイットー・リョーダンによる逆転サヨナラ満塁ホームランでかっ飛ばしていた『魔王の兜』である。


「し、しまったーーーーーっ!! 頭回収すんの忘れてたーーーーーっ!?」



〔このような形で共に戦う事になってしまったのは残念だが、止むを得まい……リヴァルよ我が声に従え。そして……真の正義に目覚めるのだぁぁぁッッッ!!〕

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