斬られ役、追い詰められる


 171-①


 最悪の事態だ。


 リヴァルだけでなく、ヴァンプとキサンまでもがショウシン・ショウメイによって操られてしまった。


「……さぁ、ひねり殺してやろう」

「じっくりと焼き尽くしてあげますからねー」

「くっ……嘘やろ……マジでこれアカン奴や!!」


 ヴァンプとキサンがゆっくりと吸命剣・崩山と鉄扇を構えた。一騎当千の猛者三人を前に武光はめちゃくちゃ焦った。


「……覚悟」

「とっととくたばっちゃってくださいねー」


「火術……火炎弾!!」


「……ちっ!!」

「くぅっ!?」


 ヴァンプとキサンが動こうとした瞬間、二人の足元に火炎弾が撃ち込まれた。意識を取り戻したリョエンである。


「今の内です、武光君!!」


 リョエンが火炎弾を乱射しヴァンプとキサンを牽制けんせいする。


「こっちよ、二人とも!!」

「早く!!」


 同じく、意識を取り戻したミトとダントに呼ばれて、武光とナジミはリョエン達のもとまで走った。


「……小賢こざかしい真似を」

「兄さんどいて、ソイツ殺せない!!」


〔「待て、二人共!!」〕


 武光達に再び襲いかかろうとしたヴァンプとキサンに、ショウシン・ショウメイが待ったをかけた。


〔「我とした事が……大事な事を忘れていた。ヨミよ……」〕

「は、ハイッ!?」


 ショウシン・ショウメイは漆黒の外枠に囲まれた一抱えほどの楕円だえん形の鏡を召喚し、ヨミに手渡した。


〔「これを持っていろ」〕

「ええと……コレは?」

〔「フフフ……コレか? これは《天映魔鏡てんえいまきょう》と言ってな、かつて魔王シンが使っていた道具だ。この鏡はな……この国各地の空に、この鏡に映した映像を投影する事が出来るのだ。空に浮かぶ魔王の姿を見て、当時の民衆は死の恐怖に怯えたものよ」〕

「で……これで何をするおつもりで?」

〔「知れた事、この鏡の力をもちいて古の勇者の真実をあまねく全ての者に知らしめ、アナザワルド王家の悪逆非道を白日はくじつの下にさら糾弾きゅうだんする!! その第一歩としてアナザワルドの姫、そして……偽聖剣の使い手を満天下で血祭りにあげる!! 真の勇者の末裔がかつての仲間達の末裔と共に、偽りと欺瞞にまみれた邪悪なる血族を討ち滅ぼす……これ以上ない最高の見世物だ!!」〕

「なるほどー!! とーーーっても大事な物なんですね!?」

〔「そうだ」〕


 それを聞いたヨミはニコリと微笑ほほえむと、両手で持っていた天映魔鏡を頭上に掲げ …………“ぱっ” と手を離した。


〔「なっ!?」〕


 すんでの所で、ショウシン・ショウメイに操られているリヴァルは、左手で床に落ちる寸前だった鏡の外枠上部を掴んで落下を阻止した。

 そしてその隙を突いて、ヨミはリヴァルに吸命剣・妖月を突き立てようとしたが、ヨミの攻撃はショウシン・ショウメイによって防がれてしまった。


 復讐計画を危うく台無しにされる所だったショウシン・ショウメイは激怒した。


〔「貴様ぁぁぁっ!! 何の真似だッッッ!!」〕

「うっさいバーカ!! アンタの下らない計画なんか知るか!! そんな事より、鉄屑てつくず分際ぶんざいで、このヨミ様の恋心をもてあそんだ罪……泣いて後悔させてやるわ!!」

「よ……ヨミ!!」

「勘違いしないで唐観武光……アンタをブチ殺すのはこんな鉄屑じゃなくてこの私……ぐはぁっ!?」


 ヨミは、リヴァルの蹴りを喰らって武光達の所まで吹っ飛ばされた。たった一発の蹴りでヨミは瀕死の重傷を負わされた。


〔「さぁ、遊びは終わりだ……!!」〕

「くっ……!!」


 リヴァル、ヴァンプ、キサンの三人によって、武光達とダント、そしてヨミの六人は、部屋のすみに追い詰められてしまった。


「アカン、ここまでか……!!」


 もはや逃げ場は無い、絶体絶命かつ絶望的な状況の前に、武光が諦めかけたその時、ナジミが武光に声をかけた。



「武光様、助かる方法が…………一つだけあります」

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