魔王、正体を明かす


 165-①


 ……魔王は語った。


 今からおよそ三百年ほど前……この地に魔王が舞い降りたという事。


 その魔王の名は……シン。


 魔王シンは雲霞うんかの如き魔族の大軍勢を従え、戦乱と殺戮の嵐を巻き起こして人々を恐怖のドン底に叩き落としたという事。


 誰もが絶望しかけたその時、魔王に立ち向かう者達が現れた……それが、勇者アルトとその仲間達だという事。


 そして、勇者アルトは人々を救う為、仲間達と共に各地を転戦し、激闘に激闘を重ねて遂に魔王を追い詰めたという事。


〔……だが、魔王の力はあまりに強大だった。幾多の死線を越えて、一騎当千の強さを誇っていた勇者達の力をもってしても……魔王を完全に殺す事は出来なかったのだ〕


 魔王の語った内容に武光達は戸惑った。古の勇者は……古の魔王を討伐出来ていなかった……!?


 魔王は続ける。


〔自分達の力で魔王シンを完全に殺す事は不可能と悟った勇者アルトとその仲間達は、ある策を実行に移した。勇者の剣が持つ特殊な力を使って、魔王の力を分割し……魔王の力を自分達に流れる血に封印したのだ〕


「じ……自分に封印!?」

〔そうだ……後は、子を成し、世代をつむいでゆく事で、悠久なる時の中で、魔王の血を薄め続け……ゆくゆくは魔王の力を無力化する……なんとも気が遠くなるような遠大な策だが、アルト達にはそうするしか打つ手がなかったのだ〕


 魔王はヴァンプに剣の切っ先を向けた。


〔ヴァンプ=フトーよ……貴様の祖先はその身に、全てを打ち砕く《魔王の剛力》を封印した……そして、その剛力はお前に受け継がれている〕


 魔王が今度はリョエンとキサンに切っ先を向ける。


〔ボウシン家の兄妹よ……貴様らの祖先はその身に、数多の天変地異を起こす《魔王の魔力》を封印した……それゆえに貴様の一族は、並ぶ者無き術士の家系となった〕


 魔王の言葉を聞いて、ヴァンプとキサンは思わず顔を見合わせた。


「……あの時、黒竜王ゼンリュウが『お前達の中にシンがいる』と言っていたのは……」

「こ、この事だったんですかー……」


 次に、魔王はナジミに切っ先を向けた。


〔アスタトの巫女よ……貴様の一族が代々受け継いできた《癒しの力》……あれはお前の祖先が、魔王の持っていた尋常ならざる再生治癒能力、《魔王の鼓動》をその身に宿した事で得た力だ〕


 自分の力の由来を知り、ナジミは理解した……『邪悪なるものを拒む』とされる清心樹の結界に覆われたカライ・ミツナで、癒しの力を使う度に、どうして耐え難い苦痛に襲われたのか。


 それは癒しの力が……最強最悪の魔王の力を根源としていたからだ。


「そんな……癒しの力が魔王の力だったなんて……」


 魔王は最後にリヴァルに切っ先を向けた。


〔そして最後に、魔王の力の核心……《魔王の魂》をその身に封印したのが……貴様の祖先だ……〕


 そこまで聞いて、武光はさっきからずっと感じていた疑問を口にした。


「……んん!? ちょっ……ちょっと待てや!! 魔王はバラバラにされて封印されとるんやろ!? ほんならお前は一体誰やねん!? お前……魔王ちゃうんか!?」


〔ふふふ……いかにも、我は魔王シンではない……〕


 首無し魔王は手にした剣を、頭上で大きな円を描くようにぐるんと回すと、切っ先を高々と天に向けた。




〔我こそは……神聖にして真正しんせいなる真の聖剣、《ショウシン・ショウメイ》……勇者の剣だッッッ!!〕


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る