魔王、現る


 151-①


 翌日、拘束されているヨミのもとへ、武光が金属製の鍋をもってやって来た。


「おーす!! しょーもなし子、今日も拷問ごうもんしに来たったぞー!!」

「チッ……また来たわね。何なのよ……その手に持ってる鍋は?」

「まーまー慌てんなって、今、温めてくるから」


 しばらくして、捕虜収容施設内の調理場を借りて鍋を加熱した武光が戻って来た。


「フフフ……さてと、今日の拷問は今までとは桁違けたちがいに苛烈かれつや……魔王軍の情報を吐くなら今の内やぞ?」

「アンタも学習しないわね……私はアンタの拷問なんか全然平気……」


“ぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつぐつ………………”


 煮えたぎる関東炊きを見て、ヨミは言葉を失った。


「さぁ……どれから行く? ここは定番の大根 (によく似た異界の野菜)か……いやいや、卵も捨てがたい……このがんもどきによく似た、がんもどきモドキ(武光が命名)もたっぷりとダシを含んでそうやなぁ……ククク」

「くっ……」

「よし……決めた。やっぱりここは大根やな」


 そう言って、武光ははしで大根 (によく似た異界の野菜)をつまみ上げた。


 熱々の関東炊き(=おでん)を顔面に……その発想、正に悪魔!! その所業しょぎょう、正に外道!! 良い子も悪い子も真似しないでね!!


「おい、これが最後の警告や……吐くんやったら今の内やぞ?」

「うぅぅ……わ、私は魔王の花嫁だっ……熱々のダイコンなんかに絶対に屈しない!!」

「ホンマか……ホンマにええんか!? 大根やぞ!? ちょっと自分でも加熱し過ぎちゃうかと思うくらいに熱々やぞ!!」

「う……うるさい!! かかってこいやーーー!!」

「ぬぅ……相分あいわかった、ならば容赦はせぬ……覚悟っ!!」

「ひっ!?」


“ガシィッ!!”


 武光は《熱々関東炊き地獄》を執行するべく、箸を持つ右手を振り上げたが、振り上げられた武光の右手首を、誰かが背後から掴んで止めた。


「お、お前は……!!」

「武光様、もう……やめてください」

「ナジミ……何しに来たんや。聖職者が拷問なんかに関わったらあかんって言うたやろが……」

「魔王軍の情報を聞き出す為とは言え、武光様がこれ以上の残虐行為を続けるのを聖職者として……いえ、例え聖職者じゃなかったとしても見過ごす事はできません!!」

「ナジミ……」

「武光様だってホントはこんな事したくないんでしょう?」

「ああ……俺かてホンマは拷問なんかしたない」

「嘘つけ、アンタ絶対楽しんでたでしょうが!! 私はアンタの心が読め……ひぃぃぃぃぃっ!! い、井戸……あわわ……来るーーー!? きっと来るぅぅぅぅぅ!?」


 武光は有名ホラー映画のワンシーンを頭の中に想像し、心を読もうとしたヨミを黙らせた。


「心配かけてすまん、でもな……少しでも情報が欲しいねん!! 水の神様に会って元の世界へ帰る為には、魔王軍の本拠地に殴り込みかけなあかんねんぞ……」

「武光様……」

「こ、怖くてたまらんねん!!」


 武光はヨミの胸倉を乱暴に掴んだ。


「ちょっ!? 武光様、落ち着いてください!!」

「何でもええから吐けや!!」



「……そんなに知りたいなら答えてやろう」



 武光とナジミが振り返ると、いつの間にか漆黒の鎧を全身にまとった男がぽつんと立っていた。


「えっと……どちらさん?」

「さ……さぁ?」


 困惑する武光とナジミをよそに、ヨミは目に涙を浮かべながら言った。


「む……迎えに来てくれたんですね……魔王様!!」


「「は……ハァァァァァッ!?」」


 魔王シンが あらわれた!

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