斬られ役、拷問する


 150-①


 次に目覚めた時、ヨミはエルフ達の練兵場の広場で、厳重に縛り上げられ、転がされていた。ヨミの周りには武光達やエルフの戦士達が武器を携え立っている。


「くっ……こ……こんなもの……っ!!」


 ヨミはオーガの剛力を使って縄を引き千切ろうとしたが、力が全く入らなかった。

 オーガの力の源である角が、気を失っている間に切り落とされてしまっている。ヨミは怨みのこもった視線を武光達に向けた。


「アンタ達の仕業か……!!」

「ふっふっふ、いかにも。こっちには角折りのスペシャリスト……妖怪ちちなしつのちぎりがおるからな!!」

「ちょっ、誰がちちなしつのちぎりですか!!」


 ナジミにポコポコと殴られる武光を見ながらヨミは歯嚙はがみした。


「くっ、この私がアンタ達みたいなヘッポコ集団に捕らえられるなんて……屈辱だわ……!!」

「お前には色々と魔王軍の情報を吐いてもらうからなぁ……えぇ、しょーもなし子ちゃんよぉ!?」

「誰がしょーもなし子だっ!!」


 目の前に、手足を縛り上げられた美少女というシチュエーションに、悪役魂がうずき、ついつい悪辣あくらつな笑みを浮かべてしまう武光であったが、そんな武光にヨミは “キッ!!” と鋭い視線を向けた。


「フンっ……嫌だと言ったら?」


 ヨミの問いに対し、武光は邪悪な笑みを浮かべたまま言い放った。


「クククッ……お◯ぱいを揉みしだくっっっ!! って……ぐはぁぁぁぁっ!?」


 武光は、ナジミとミトにツープラトンのドロップキックをかまされた。


「アホかっ!! 武光様アホかっ!!」

「この馬鹿!! 最低!!」


 ナジミとミトにボコボコにされている武光をヨミは鼻で笑った。


「バーカ、私はアンタの思考を読めるのよ? そんなチンケな脅しが効くとでも? アンタにそんなつもりがこれっぽっちも無い事くらいお見通しだっての!!」

「「え……そ、そうなの?」」


 ナジミとミトは武光に視線を向けたが時すでに遅しである。


「痛てててて……ホンマにお前らは冗談の通じん奴っちゃなー!!」

「ご、ゴメンなさい……」

「わ、悪かったわよ……」


 武光は体に付着した土埃つちぼこりを払いながら立ち上がった。


「ったく……さてと……ナジミ、ミト……お前らはあっち行ってろ」

「ど、どうしてですか?」

「俺は今から……コイツをとんでもなく残虐でむご拷問ごうもんにかけて魔王軍の情報を聞き出す……聖職者や、ましてや一国の姫君が関わってええ事ちゃう。先生、二人を頼んます」

「ああ、分かったよ武光君」

「セリさんやヴィゴやん達も、俺が今からやる拷問に関わったりしたら、万が一の時言い訳つかんようになるから、この場を去ってくれ」

「我々はお前がやろうとしている事を何も知らなかったし、何も見ていなかった……本当にそれで良いんだな?」

「大丈夫かよ武光たけみっちゃん……」

「かまへんかまへん、行ってくれ」


 ナジミ達とエルフ達がその場を立ち去ったのを確認すると、武光は改めてヨミと向かい合った。


「さてと……拷問の時間じゃあああああ!!」


 武光による『とんでもなく残虐で惨い拷問』が始まった。


 150-②


 武光の『とんでもなく残虐で惨い拷問ごうもん』は連日続いた。


 《顔面落書き地獄》に始まり、《足の裏こちょばし地獄》、《紙縒こよりくしゃみ地獄》など、筆舌ひつぜつに尽くしがたい悪逆非道の数々が連日に渡り繰り返されている。


 今日も今日とて、捕虜収容施設の牢屋ろうやから収容施設の中庭に引きずり出されたヨミに対して、ヨミの読心能力を利用した《回想・ホラー映画連続上映地獄》が現在進行形で行われている。


「ククク、どうや……ジャパニーズホラーの味は? 拷問前は『私はアンタなんかに屈しない、絶対最期まで耐え抜いてやる』と息巻いていたのに、随分と大人しくなったやんけ、えぇ!?」

「こここ、こんなもの……ぜぜぜ全然ここ怖くなんかないんだから!!」

「お前の後ろの井戸から白い服着た長い髪の女がのぞいてんぞ」

「ひっ!?」

「わはは、ビビってやんの!!」

「ば、馬鹿言わないで!! 魔王の花嫁であるこの私が……」

「お前のすぐ後ろに全身真っ白の子供が体育座りしてんぞ」

「ひぃぃぃっ!?」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…………あっ、気絶しよったっ!?」


 呪◯の伽◯子のモノマネをしながら、四つん這いになってカサカサとヨミの周囲を回っていた武光だったが、ヨミが恐怖のあまり気絶したのを見て、武光は拷問を中断し、ヨミに近付いた。


「うっわ、白目剥しろめむいてるやん……おい、しっかりしろ」


 武光はヨミの肩を揺さぶった。


「うぅーーーん……ハッ!?」

「大丈夫か?」


 恐怖で気絶したのを誤魔化そうと、ヨミは精一杯の虚勢きょせいを張った。


「あ……アンタの拷問とやらがあまりにもヌル過ぎるもんだから居眠りしちゃったわ!!」

「そんな汗びっしょりで震えながら言われてもな……ええ加減魔王軍の情報を吐けや、これ以上黙秘を続けるなら次は《激熱げきあつ関東炊かんとだき(=おでん)地獄》やぞ!!」

「うぅぅっ……こんなはずかしめ……殺せ!! いっそ殺せーーー!!」

「……嫌や」

「嫌ですって……何でよ!? 戦いの時は私を躊躇ちゅうちょ無く殺そうとしてたじゃない、殺しなさいよ!! 殺せ!!」

「やかましい!! 嫌なもんは嫌や!!」

「どうしてよぉ……ワケ分かんない……」


 ポロポロと涙を流すヨミを見て、武光は困ったような笑みを浮かべてポツリとつぶやいた。


「……俺は弱いからなぁ」

「え……?」

「俺は……弱くて、ヘタレで、ビビりやから……戦いの真っ最中で『殺るか殺られるか』『相手を倒さな自分が死ぬ』みたいな状況やったら相手を斬る事を選ぶ。死ぬのめっちゃ怖いしな? でも、今はそうとちゃう、お前を殺さな俺が死ぬんやったらお前を斬るけど、そうじゃないなら……お前みたいなしょーもない奴でもなるべく殺したないねん」

「何よそれ……」


 生まれてこのかた、『力こそが全て!!』『強さこそが全て!!』『強き者には弱き者の全てを奪う権利がある!!』という、妖禽族の価値観の中で生きてきて、それを疑問に思う事も無く、命を奪う事に愉悦ゆえつすら感じていたヨミにとって、『殺さずに済むなら殺したくない』という武光の言葉は意味不明極まりないものだった。

 ヨミは武光を、『偽善者!!』だの『キレイ事抜かすな!!』だの『アホ』だの『バカ』だのとののしり倒したが、武光がの言葉が本心からのものだという事を、相手の思考を読めるヨミには分かっていた。


「さてと……じゃあ、明日また拷問しにくるからな? ええ加減吐けよ?」

「フン!! 今頃、我が夫である魔王様は、帰りの遅い私の身を案じて、捜索に動いているはずよ……魔王様が来たらアンタも、アンタの仲間達も、エルフ達も皆殺しにしてやるんだから!!」

「まぁ、そん時はお前を人質にさせてもらうわ……俺は悪役歴が長いからな、人質を取るのには慣れとる」


 武光はヨミを再び牢屋に閉じ込めると、ナジミ達の待つ家に帰った。明日の拷問に備えて、関東炊かんとだき(=おでん)を仕込まなければならない。

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