職人達、宴を開く


 115-①


「カンパーーーーーイ!!」


 マイク・ターミスタ中央広場で、宴が始まった。武光はジョッキになみなみと注がれたビールによく似た酒をグイと飲み干した。


「かぁーーーっ!! キンキンに冷えてやがる……!!」


 ふやけきった顔をしている武光をミトが興味深そうに見つめている。


「ねぇ、そんなにおいしいのソレ?」

「まぁな」

「私にも頂戴」

「ダメ、お酒は二十歳になってから!!」

「良いじゃない!! 私は王家の姫なのよ!!」

「お前なぁ……なんでもかんでも王家王家言うてたらオーケー出ると思うなよ、ダメなもんはダメー!!」

「……ぶー!!」

「膨れっ面しても絶対ダメ、お子様はあっちでナジミとジュースでも飲んでなさい」


 二人のやりとりを見ていたナジミは苦笑しながらミトに手招きした。


「もう武光様ったら……姫様ー、こっちにとっても美味しそうなジュースがありますよー、武光様の飲んでるお酒なんかより絶対美味しいですってー!!」

「……欲しいって言ってもあげないから!!」

〔姫様、はしたない真似はおやめください!!〕


 ミトは武光に思いっきりあっかんべーをすると、ナジミのもとへ走っていった。


「おお……武光殿、ここにおったか!!」

「あっ、ジャトレーさん!! それに先生も!!」


 武光のもとへジャトレーとリョエンがやってきた。


「……ジャトレーさん、改めて……イットー・リョーダンの事、ありがとうございましたっっっ!!」

〔我からも礼を言う。ジャトレー殿……本当にありがとう!!〕


 武光は深々と頭を下げると、イットー・リョーダンと共に礼を述べた。


「いやいや……礼を言うのは儂らの方じゃ、この街を救ってくれて本当にありがとう!!」

「いやー、そんな……俺らだけの力やないですってー、ジャトレーさん達がバックアップしてくれたお陰で何とか乗り切れたんですってー」

「そう言ってもらえると嬉しい、ところで武光殿……改修したイットー・リョーダンはどうじゃった?」

「最高っす!! めちゃくちゃ振りやすいし、物凄い斬れ味でしたよ。コイツが呑気に寝とる間でもザンギャクの尻尾を容易く斬り飛ばしましたし!!」

〔呑気とは何だ、呑気とは!!〕

「そうか……それは良かった」

「それにイカす隠し武器も搭載されたし」

「あれはリョエン殿が設計したんじゃよ」

「先生が!?」

「ああ、護拳の部分に雷導針を仕込ませてもらったよ。弾数は一発だけだし、有効射程も2m程度しかないが、敵の意表も突けるし、私の雷術と連携しやすいようにと思ってね。それに何より……」


 リョエンはニヤリと笑った。


「カッコ良いだろう?」

「男のロマンっす!!」

「ウチの技術者連中の中には大真面目に、リョエン殿に『術士をやめて絡繰からくり技師になった方が良い!!』などと言う者まで出る始末じゃ。かく言う儂も……」

「光栄な評価ですが、私はやはり術士として頑張ります」


 それからしばらくの間、三人は車座になって酒を飲みながら色々と話していたのだが、不意に、ジャトレーが思い出したかのように言った。


「そうだ……武光殿、一つ頼まれてくれんか?」

「はい? 何ですか?」

「儂の娘を……貰ってやってくれんか?」

「ぶはっ!?」


 武光はむせた、めっちゃむせた。


「……今から連れてくる」

「ああっ、ちょっとジャトレーさん!?」


 ジャトレーはスタスタと歩き去ってしまった。


「娘を貰ってくれって……いきなりそんな事言われても……ひぇっ!?」


 武光は思わず情けない声を出した。ナジミとミトが左右から突然抱き付いてきたのだ。


「お、お前ら!?」

「たーけーみーつーさーまー!!」

「たーけーみーつー!!」

「ちょっ、お前らいきなり何すんねん……って言うか、酒臭っ!?」

「ナジミ、お前……ミトに酒飲ませたんか!?」

「えー? ダメですよ武光様-お酒は二十歳になってからですよー……んふふ」

〔すみません武光さん、私が付いていながら……〕

「ちょっとカヤ!? どういう事なんコレ!?」

〔それが、その……〕


 カヤが言うには、ナジミは武光の真似をしたがるミトの為に、大ジョッキになみなみとブドウジュースを注ぎ、自身も同じように大ジョッキにブドウジュースを注いで二人で乾杯をして一気に飲み干したのだが、ナジミが注いだそれは、実はブドウジュースではなく葡萄酒だったのだ。


「うわぁ……な、何てベタなドジを……」


 それを聞いた武光は呆れて溜息を吐いた。


「そんな事より武光様……さっきのはどう言うことなんれすかー!?」

「そーよそーよ!! 誰に断って妻をめとろうってのよー!! ……ひっく」

「二人とも酒臭いなぁ、もー!! ちょっと離れろ!!」

「えー、やですよー」

「うるさ〜い!!」


 離れろと言われたナジミとミトが、ますます武光にくっつこうとしていたその時、ジャトレーが戻ってきた。


 少し席を外している間にいつの間にか『両手に(酒臭い)花』状態になっている武光を見て、ジャトレーは困惑した。


「た、武光殿……? これは一体……」

「いやぁ、こいつら間違って酒飲んでしもたみたいで……」


 ジャトレーに気付いたナジミとミトは、今度はジャトレーにからみ始めた。


「あ〜〜〜、ちょっとジャトレーさん!? 私の武光様取らないでくださいよお〜〜〜!!」

「結婚なんて私は認めないわよ!! その娘とやらを連れてきなさいよぉ〜!!」

「絡むな絡むな!! すいません、ジャトレーさん」

「ああ、いやこれは失礼。儂が武光殿に貰ってくれぬかと言ったのは……これじゃ」


 そう言ってジャトレーが取り出したのは細長い木箱だった。


「開けてみてくれ」

「これは……魔っつん!?」


 箱の中に入っていたのは魔穿鉄剣だった。折れてしまっていた刀身は約一尺(=およそ30cm)程の脇差し型の形状に擦り直されている。柄も五寸(=およそ15cm)程に切り詰められて護拳のびょうも三本になっており、柄頭には蒼い宝玉が嵌め込まれていた。


「あの……ジャトレーさん? もしかして『ジャトレーさんの娘』って……この《ちび魔っつん》の事ですか?」

「うむ、全ての刀匠にとって、自分が造った刀剣は我が子のようなものじゃからな!!」

「……分かりました!! ありがたく頂戴します!!」


 武光は 魔穿鉄剣を 手に入れた。


 ジャトレーの娘の正体を知ったナジミとミトは、ほっとした表情を見せた。


「も〜、ジャトレーさんったらぁ〜おどかさないでくださいよ〜」

「そうよそうよ!!」

〔……主人がいつもお世話になっておりまーす!!〕

「うぇぇぇっ!? ち……ちび魔っつんがしゃべったっ!?」


 中学生くらいの女の子の声で、突如として言葉を発した『ちび魔っつん』を前に、武光は素っ頓狂な声をあげた。


「ああ、直すついでに、カヤ・ビラキのように話せるようにしておいたのじゃ」

「おい、今の聞いたか? やっぱジャトレーさんは凄いなあ……って、あの……ナジミさん? ミトさん?」


 ナジミとミトは、めちゃくちゃ怖い目で武光を睨んでいた。


「武光様っっっ!!」

「ハイッ!?」

「……『主人』ってどういう事なんですか、『主人』って!!」

「ばっ……お前どうもこうも、俺が魔穿鉄剣の『所有者』って意味やんけ!! なっ、魔っつん!?」

〔いいえ、『旦那様』って意味ですけど?〕

「ま、魔っつーーーーーん!?」

「たーけーみーつーさーまー!!」

「いや、待て待て待て!!」

「どうして……どうしてなんですか……!!」

「いいっ!?」


 ポロポロと涙を流し始めたナジミを見て武光は慌てた。


「どうして……魔穿鉄剣なんかより……私の方が……お○ぱい大きいのに!!」

「悲し過ぎる比較をすんな!! って言うか、大声で何言うとんねんお前は!?」

「ちょっと待ちなさいよー、それだったらナジミさんより私の方が……!!」

「わーーーっ!? ちょっ、ミト!? 脱ぐな脱ぐな脱ぐな!!」

〔フン、目糞鼻糞じゃない!!〕


「「誰が……目糞鼻糞だーーー!!」」


「……痛だだだだだだだだだ!? な、何で俺!? い……イットー助けてくれ-!!」

〔ガンバレー…………ぷぷぷ〕

「イットォォォォォーーーーー!?」


 ……武光は八つ当たりされまくった。


 酔っ払い二人に、殴られ、蹴られ、関節を極められ、挙げ句の果てには、酔っているのに激しく動いたせいで気分が悪くなった二人に、ゲ……もとい、口からの《聖なるハイパーメガ粒子砲的な何か》と《高貴なるバーンスパイラル熱線的な何か》まみれにされたりと散々な目に遭ったのだった。

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