勇者編

勇者、呼び出しを受ける


 116-①


 話は少しさかのぼり……


 武光一行が、ショバナンヒ砦から逃げるようにマイク・ターミスタへ向け出発した翌日、リヴァル戦士団は、ショバナンヒ砦にて、呼び出しを受けていた。

 呼び出しの相手は、アナザワルド王国第十三騎馬軍団軍団長、『白銀の死神』こと、ロイ=デストである。

 ロイに呼び出されたリヴァル戦士団の四人は、砦の外に一つだけポツンと張られたテントの前までやって来た。


「ロイ将軍……相変わらず、野営しておられるのか」

「一体何の用なんですかねー?」

「ま、まさか……まめ太と戦った時の利敵行為を隠蔽いんぺいする為に我々を人知れず葬るつもりでは……」

「……ダントの言う通りだ。油断するなよ、リヴァル」


 ヴァンプの言葉にリヴァルは一つうなずくと声をあげた。


「リヴァル戦士団、団長リヴァル=シューエン以下四名、お召しにより参上致しました!!」

「よく来たな……入れ」


 テントの中からロイのくぐもった声が聞こえた。リヴァルは仲間達に目配せをすると、テントの中に入った。


 中で待っていたのは……異様な風体の人物だった。


 異様な光沢を放つ銀の髑髏の仮面を着けた、純白のネグリジェ姿の女性がベッドに座っている。


「…………すみません、間違えましたっ!!」


 リヴァル戦士団は、即座にテントの外に出た。


「もー、リヴァルさんったら、何やってるんですかー?」

「すまない、間違えてしまったよ」

「……いやしかし、指定の場所はここで合っているのだろう?」

「ええ、それに先程は確かに中からロイ将軍の声が……」

「よし……皆、もう一度……覗いてみよう」


 リヴァル達はテントの入り口の布を少しだけめくりあげ、恐る恐るテントの中を覗いた。

 やはり、いる。銀の髑髏の仮面に純白のネグリジェというシュール過ぎる格好の女性が。

 リヴァル戦士団はそっと布を戻すと、足音を立てぬように、そろりそろりとテントの入り口から離れた。


「うん……違うな!!」

「中にはいないのかもしれませんよー?」

「……うむ」

「昨日、我々は巨竜まめ太と戦ったばかりなのです、きっとまだ疲れが抜けて……」


「何をしている……早く入って来い」


 またしてもテント中からロイのくぐもった声がした。


「いるな!?」

「やっぱりいますよねー!?」

「……ああ、いる!!」

「ええ、確実にいます!!」

「よし……みんな行くぞっ!!」


 リヴァル達は意を決して、テント内に突入した。慎重に周囲を警戒するが、先程の怪しげな女性以外、テントの中には誰もいない。

 リヴァルはベッドに座っている女性に声をかけた。


「失礼、私はリヴァル=シューエンという者です。ご婦人、その仮面はロイ=デスト将軍が装着されている物でしょう? たわむれが過ぎます、見つかったら怒られてしまいますよ」

「……そうだぞ、奴は女の悪戯いたずらだからと言って容赦するような奴ではない、殺されるぞ」

「そうですよーきっと獣みたいに襲いかかってきて、あーんな事とかー、こーんな事とかー、それはもう激しくめっちゃくちゃにされちゃいますよー」

「ダメですよ、キサンさん。本当にされかねないとは言え……怖がってるじゃないですか」


 ダントが、何故かモジモジと頰を染めているキサンに注意した。

 ダントの言う通り、仮面の女性はうつむき、 小刻みに震えている。


「それにしても……ロイ将軍は一体何処に……?」



「貴様ら……黙っていればさっきから好き放題言ってくれる……!!」


「「「「!?」」」」


 リヴァル達は思わず跳び退いた。仮面の女性が発した声は……王国軍最強、白銀の死神、ロイ=デストのものだった。

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