斬られ役、鬼将を斬る


 114-①


「……この俺が……この俺が人間如きにぃぃぃぃぃっ!!」

〔ゴチャゴチャ……〕

「うるせーーーーー!!」


  “すん!!”


 振り向いたザンギャクを、武光は左肩から右脇にかけて袈裟懸けに斬り下げた。


「…………ふーっ」


“キンッ!!”


 武光は血振りをして刀身に付着した血を払うと、ゆっくりと息を吐きながら、イットー・リョーダンをさやに納めた。そして、それと同時にザンギャクの肉体は四つに分かれて崩れ落ちた。


「…………イットー」

〔…………ああ〕


「……よっしゃあああああーーーーー!!」

〔……よっしゃあああああーーーーー!!〕


 武光とイットー・リョーダンは雄叫びを上げた後、フッと笑った。


〔……ただいま、武光〕

「……おかえり、イットー」


 114-②


 武光達がザンギャクを斬り捨ててから五日目、ザンギャクによる同族の大量殺戮により、戦力がズタズタになっていたオーガの軍勢はマイク・ターミスタから完全に撤退し、街には平和が訪れた。


 今後、逃げ出した住人達も順次戻って来るだろう。


 ここ数日、武光は山の麓に建てられた、街で一番の高級宿で寝泊まりしていた。王家の姫君であるミトの存在と、何よりもオーガの総大将を成敗し、街を奪還してくれたお礼にと、住民達が用意してくれたのだ。


「それにしても……今回もよう助かったなぁ、俺」


 夕暮れ時、マイク・ターミスタの景色を一望出来る窓から、赤く夕日に染まる街を眺めながら武光が呟いていると、誰かが扉をノックした。


「武光様、います?」

「ナジミか……入ってもええで」

「失礼します」


 扉を開けて、ナジミが部屋に入ってきた。


「おう、どないした?」

「えっと……まぁ特に用事がある訳でもないんですけど、武光様と少しお話がしたいなって……」


 そう言ったものの、しばらくの間ナジミは無言だった。5分程その状況が続いたが、ナジミは意を決して切り出した。 


「……異界渡りの書の完成まであと少しですね」

「……せやな」

「既に風の神・地の神・火の神のお力添ちからぞえをたまわりました。後は……水の神、《シュラップス》様のお力添えを賜われば、異界渡りの書は完成します」

「そうか……いよいよ帰れるんやな。で……その水神様はどこに祀られてるんやっけ?」

「《ジョン・ラ・ダントス》……魔王軍の本拠地です」

「ぶっ!?」

「ちょっ!? 武光様汚いですよ、もう!!」

「ご、ごめん。ちょっと衝撃的過ぎて鼻水出てもうたわ」

「あー、もう、これでいてください!!」

「わ、悪い……」


 ナジミからちり紙を渡された武光は、鼻をかむとゴミ箱に捨てた。


「魔王軍の本拠地て……自分、それマジで言うてる?」

「はい、マジです。残念ながら」

「うわー、引くわー」

「あの……武光様?」

「うん?」

「異界渡りの書が完成したら……武光様は元の世界に帰っちゃうんですよね……」

「……ああ、俺はその為に旅をしてきたんやからな」

「あの……その……私達とずっと……!!」


 ナジミが言い終わる前に、武光は黙って首を横に振った。


「ごめん……向こうには親兄弟もおるし、大事な仲間もおるねん」

「そう……ですよね。ごめんなさい」


 悲しげに俯いたナジミを見て、武光は努めて明るく言った。


「そんなシュンとすんなやー。初めて会った時、お前言うてたやんけ『魔王を倒して平和になりさえすれば、神々のお許しを貰って回るなんて鼻歌交じりの行楽気分でもイケる』って。何回でも遊びに来たらええねん、大阪の街案内したるわ!!」

「……そうですね、うん!! そうですよ!!」

「おう、その為にもまずは英気を養わなあかん!!」

「そうですね……今夜はパーッと楽しんじゃいましょう!!」



 今宵こよいは、マイク・ターミスタ奪還を祝したうたげが開かれる。

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