斬られ役、鬼を煽(あお)る
104-①
オーガ達が、マイク・ターミスタの人々を人質に取って、武光をおびき出す作戦に出たらしい。
偵察から戻ってきたミトとリョエンからそれを聞いた武光は、魔穿鉄剣を手に勢い良く立ち上がった。
「あいつら……!! ジャトレーさん……俺、行ってきます!!」
「待ってください、武光様!!」
工房を飛び出そうとした武光をナジミが制止した。
「ナジミ……?」
「私……やっぱり武光様が心配です!! 魔穿鉄剣に宿っているのは本当に怨念ではないんですか……?」
「大丈夫やって、ちょっとこの剣が初舞台でテンション上がりまくってはっちゃけ過ぎただけやから」
「で、でも……私、オーガの群れに一人で突撃した時の武光様の凶悪な笑みが頭から離れないんです……」
「凶悪なって……こんな顔か?」
そう言って、武光は凶悪な笑みを浮かべた。
「そう!! それですよ!! やはり魔穿鉄剣には怨念が……」
「へっ……俺の悪役歴を
そう言って、武光はめっっっちゃくちゃ邪悪で残忍で凶悪な笑みを浮かべた。
「……ほらな?」
「うう……分かりました。じゃあ、一つだけ約束してください。今度こそ……絶対の絶対に無茶しないでください!!」
「……分かった、約束する!!」
武光はナジミの目をしっかりと見て頷いた後、魔穿鉄剣に話しかけた。
「聞いたな……
「魔っつん……? えっ……武光様、魔っつん……って、もしかして魔穿鉄剣の事ですか!?」
ナジミに聞かれて、武光はうんと頷いた。
「魔っつん……華々しく活躍出来る場が与えられて嬉しいのは分かるけどな、さっきみたいにあんまり俺に無茶させんなよ? このおっかない《ちちなしつのちぎり》を怒らせたら、俺もお前もキャメルクラッチで真っ二つにへし折られかねへんからな?」
それを聞いた魔穿鉄剣はまるで人間が恐怖で身震いするかのように、刀身をぶるりと震わせた。
「いやいやいやいや、魔っつんも怖がらなくても大丈夫ですから!! 折ったりしませんから……って言うか誰が『ちちなしつのちぎり』ですかっ!! 得体の知れない生き物みたいに言わないで下さい!! ありますし!! めっちゃ豊満ですし!!」
「ま、そんなんどうでもええわ。とにかく皆を集めてくれ、作戦会議や!!」
「流されたっ!?」
104-②
マイク・ターミスタ中央広場では、オーガ達が、老若男女問わず三十人近い住人達を一箇所に集め、ぐるりと取り囲んでいた。その数、およそ八十。
オーガ達の大将、鬼将ザンギャクは、姿を見せない襲撃者に対し、探し出すのではなく、おびき出すように方針を変えた。その為に、
『今日の日没までに中央広場に来い!! さもなければ見せしめに、住民を拷問にかけて殺す!!』と。
オーガ達が金棒や蛮刀など、凶悪な武器を手に、住民達を脅す。
「てめぇら!! もっと泣け!!
「日没までに俺達に喧嘩を売った大馬鹿野郎が現れなかったら……てめぇら全員、手足を切り落として釜茹でだぞ!!」
それを聞いた住民達は悲鳴を上げ、必死で助けを求めた。日没は……近い。
マイク・ターミスタの住民達が泣き叫ぶ様を
「もう良い……こいつらは殺せ。ボウギャクを殺した野郎が現れるまで、これから毎日この街の人間を集めて殺──」
「ちょっと待ったあああああ!!」
広場に大きな声が響き渡った。ザンギャクが床几から勢い良く立ち上がり周囲を見回す。
「誰だ!! 何処にいやがる!?」
「……ひとぉぉぉーつ、人の世の生き血を
魔穿鉄剣を携え、武光が一人で広場に姿を現した。
現れた武光をザンギャクは血走った目で
「てめぇか……俺の部下と、可愛い弟を殺したのは!! てめぇはこの俺……オーガ一族総大将、鬼将ザンギャク
「長いっっっ!!」
武光はザンギャクの言葉をバッサリと遮った。
「だらだらだらだら……オチの無い話しやがって!! しょーもな!!」
武光はザンギャクに尻を向けると “ブッ!!” と屁をこいた。
「て……てめえ!!」
「今すぐ人質を解放して、全員この街から出て行くなら良し!! さもなくば……お前ら全員……刀の
武光の挑発に対し、ザンギャクはこめかみに青筋を立ててワナワナと震えている。
「どうした? 来いや、ビビってんのか!? ま、お前らみたいな見掛け倒しで、図体だけの木偶の坊のクソ雑魚ナメクジには俺と戦うなんて、怖くて怖くてとてもじゃないけどムリやろうけどな!!」
「ぶ……ぶっ殺せぇぇぇぇぇっっっ!!」
とうとうザンギャクがキレた。オーガ達が雄叫び上げて、武光目掛けて殺到する。
(よっしゃ、釣れたな……第一段階は成功や!!)
武光はニヤリと笑うとオーガ達に向かって叫んだ。
「出来るもんならやってみろ、このスットコドッコイ共がーーー!!」
武光は にげだした!
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