討伐隊、作戦を練る


 77-①


「嘘やろ……山やん」


 クラフ・コーナン城塞跡でうずくまって眠る蒼き巨竜……その山の如き巨体を前に、武光は思わず呟いた。

 現在、巨竜討伐隊は武光がセンノウ達と闘いを繰り広げた城塞の南の森に身を潜めて、巨竜に徐々に接近していた。


「……うん、無理!! 撤収!! 動物虐待は良くない、綱吉公万歳!!」


 遠目に見てもその巨大さが分かる。一瞬で恐怖がぶり返した武光は、回れ右して帰ろうとしたが、ロイに斧薙刀・屍山血河を突き付けられた。


「選べ……今ここで死ぬか、あの竜と闘って死ぬか」

「わーっ!? じょっ……冗談やんけ!! いちいち刃物を持ち出すなコラー!! すぐキレる奴はモテへんぞー!!」

「ロイ将軍、武器をろしてください!!」


 リヴァルが二人の間に割って入り、ロイに武器を下ろさせたが、まさに『前門の巨竜、後門の死神』……武光の胃はキリキリと痛みっぱなしであった。


「奴のせいで……私の部下は残らず病院送りだ」

「あんなバケモンと戦って病院送りで済むとか……お前らも十分バケモンやわ……」

「部下を負け犬のままにしてはおかん、あの竜は必ず殺す」


 武器を引き、巨竜を見上げたロイを見て、コイツ……見た目はいかついけど意外と仲間思いやねんなーと武光は思った。


「せやかて……あんなんどうやって倒せっちゅうねん、あれ見ろやー、めちゃくちゃデカいやんけ…………《まめ太》」


 武光の言葉にリヴァルもうなずきかけたが……


「……ん? ちょっと待ってください武光殿……《まめ太》とは何です?」

「あの竜の名前や……ええ名前やろ? 程良い愛くるしさと仔犬感があって……恐怖感が薄れるやろ?」


 それを聞いたリョエンとリヴァル戦士団の面々はクスリと笑った。


「フフッ、確かに。武光殿の言うとおりです」

「まめ太かぁー、何だかやっつけるの可哀想になっちゃいますねー、リョエン兄さん?」

「ああ、普通は『ドラギノス』とか『ヴァルドラ』とか、強そうで威厳のある名前を付けるのが相場だが……武光君らしい」

「……倒す相手だ、俺は別にどんな名前でも構わんが……まめ太か、ふっ」

「いや、でもこれあの巨竜を倒したら……私は『巨竜討伐隊の七人はクラフ・コーナン城塞跡にて《まめ太》を倒した』と記録しなければならないんですよ?」


 ダントの一言に一同はプッと吹き出した。


「…………カワイイ」


「「「「「「!?」」」」」」


 ロイの呟きに、六人は思わず振り向いた。


「何だ貴様ら……何をニヤけている?」

「「「「「「別にぃーーー?」」」」」」


 六人はわざとらしい咳払いや伸びをしながら、ロイから目を背けた。


「さてと……で、どうする? 勝つ方法なんかあるんかいな?」


 武光の問いにダントが手を挙げた。


「それについて、興味深い文献ぶんけんを発見しています……いにしえの勇者の手記しゅきです」

「古の勇者の手記ぃ?」

「ええ、その手記によれば、どうやら古の勇者はかつてあの竜と闘った事があるらしいのです。失われし古代文字で記されているので、全てが解読出来たわけではないとの事ですが……その手記の中にはあの竜について『あごの下が弱い』との一文が記されているそうです」

「顎の下が弱点か……よっしゃ!! じゃあ、寝ている隙に、そーーーーーっと近付いて、 弱点に“ドカンッッッ!!” とブチかます…………《寝起きドッキリ大作戦》じゃあああああ!!」


 巨竜討伐隊は息を潜めて、粛々と、こそこそと、カサカサと、眠れる巨竜……まめ太に接近した。

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