討伐隊、仕掛ける


 78-①


 巨竜討伐隊の七人は瓦礫がれきに身を隠しながら、まめ太に接近する事に成功した。


 その距離およそ15m。


 武光は目を凝らした。確かに、よく見ると、まめ太のあごの下の辺りが淡く光っている。


「あれが弱点か……!!」


 それにしてもデカい。仮にあの弱点を突いたとして本当に倒せるのだろうか。


「よし、貴様……行ってこい」


 瓦礫に身を隠す武光にロイが言った。


「お……俺一人で!?」

「そうだ。大人数で近付くと気付かれるやもしれぬ。それに……もし奴が目を覚まして暴れ始めたら、貴様の出る幕はない。骨は拾ってやる……安心しろ」

「いやいやいや、安心出来るかっ!?」

「大丈夫です武光殿、万が一奴が目を覚ましたら……我々が全力で援護します!!」

「ヴァっさん……ええい……ままよ!!」


 リヴァルの後押しを受けて、武光は意を決して一歩前に踏み出した。


 大丈夫……俺は忍者(役)の経験も豊富や。大丈夫……絶対に行ける。


 武光は自分にそう言い聞かせ、息を殺してジリジリと目標への距離を縮めてゆく……ここからまめ太のいる所までは、身を隠せる遮蔽物しゃへいぶつは何も無い。


(人に隠れて……)


 全身から物凄い量の汗が噴き出す。まめ太はすぐそこにいるのに、とんでもなく遠い……まめ太までの距離、残り約10m。


(シュシュッと参上……)


 一歩踏み出すごとに、自分の心臓の音で、まめ太が目を覚ましてしまうのではないかと思える程、心臓が激しく脈打つ……まめ太までの距離、残り約5m


(忍ぶどころか、暴れる……ゲェェェェェーッ!?)


 まめ太が突然、ばちーんと目を開けた。しかも最悪な事に、武光はまめ太とバッチリ目が合ってしまった。


(あかーーーん!! ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいっ!! 見とるっ……めっちゃこっち見とるーーーーー!? こ……こうなったら……俺の演技力で誤魔化すしかあらへん!! 大丈夫や……俺は小さい頃からテレビで新喜劇を見て育ってきた……めだか師匠……俺に力をッッッ!!)


 武光は決死の覚悟を決めた。


「…………んにゃ〜〜〜」



「ガアアアアアアアアアアアアアッ!!」

「ひーっ、全然あかーーーん!?」


 武光は ねこのフリをした。

 しかし まめ太にはきかなかった!!


 巨竜まめ太が立ち上がり、咆哮ほうこうを上げた。


「武光殿、こちらです!!」


 武光を援護すべく、物陰ものかげから飛び出したリヴァルを見て、まめ太は尻尾を激しく左右に打ち付けると、再び天に向かってえた。


「ふふ……やはりしくじったか。まぁ良い、あの竜は……普通に殺す!!」


 紫の外套マントひるがえし、ロイがまめ太に肉薄する。


「フン!!」


 まめ太はロイを踏み潰そうとしたが、ロイは地面に向けて風術をぶっ放す事で真上に飛翔し、踏みつけを回避した。屍山血河を構え、顎の下の弱点目掛けて、放たれた矢のように、一直線に翔んでゆく。


「ガアアアアアッ!!」

「ぬうっ!?」


 ロイの一撃がまめ太の弱点を貫くかと思われた次の瞬間、ロイはまめ太の前肢による横殴りの一撃で、わずかに形を留めていた城壁に物凄い勢いで叩きつけられた。


「ぎゃーーーーー!? シュワルツェネッ太が死んだぁぁぁぁぁーーーーー!?」


 武光は思わず叫んだが、舞い上がる土埃つちぼこりの中からロイは地獄の幽鬼の如く、ゆらりと立ち上がった。

 ロイは壁に叩きつけられる寸前に、壁に向かって風術を放ち、激突の衝撃を相殺そうさいしていたのだ。


「ククク……アーッハッハッハーーー!! 良いぞ……もっとだ……もっと私に死力を振り絞らせろ!!」


 高らかに笑うロイを見て、武光は確信した。アイツ……絶対にアブないクスリやっとる!!


「ククク……行くぞ!!」


 ロイが風術を駆使して飛び回り、再びまめ太に襲いかかる。ロイの一歩間違えば即、死に繋がるような闘いぶりを見たリヴァルが叫んだ。


「皆、ロイ将軍を援護するんだ!! 光術、退魔光弾!!」


 ロイへの注意をらすべく、リヴァルが、右のてのひらから光弾を放った。光弾はまめ太の顔面を直撃したが、まめ太はそれをものともしない。


「くっ、ダメか!!」


 攻撃を受けたまめ太はリヴァルをジッと見つめた。リヴァルは身構えたが、まめ太はリヴァルを無視して、再びロイに襲いかかった。


「あの竜……?」


 リヴァル達から少し離れた位置からまめ太の動きを観察していたダントが叫ぶ。


「足首です!! あれだけの巨体です……あの巨体を支えている足首をやれば恐らく、奴は自らの体重を支えきれなくなって倒れ伏すはずです!! その隙を狙って弱点に攻撃するのです!!」


 ダントのアドバイスにキサンが頷いた。


「ダントさん……分かりましたー!! 兄さん、私達は右足を!!」

「ああ!!」

「……武光、俺達は左足だ」

「分かりましたヴァンプさん!! ヴァっさんはトドメの一撃を!!」

「分かりました!!」


 武光、ヴァンプ、キサン、リョエンは横一列に並んだ。


「ふっふっふー……いよいよ《とっておきのとんでもなく強力な術》を使う時がきましたかー!!」


 そう言って、キサンは鉄扇をパチンと閉じると、扇の先端をまめ太の足首に向けた。


「キサン、私も研究の成果を披露しよう……テンガイ!!」

〔ガッテンショウチ!! アタタタタタタタタタタタ……ホァタァ!!〕


 リョエンはテンガイの穂先をまめ太の足下に向け、ありったけの雷導針を撃ち込んだ。


「……この一撃に全てをかける!!」


 ヴァンプはどっしりと腰を落として、赤熱化している崩山改を右脇に構えた。


「よっしゃ、みんな……行くで!!」


 武光は息を深く吐き、精神を集中した。


「……レイ・オブ・デストラクション!!」

「雷術……大雷蛇だいらいじゃ!!」

「……崩山斬月波ッッッ!!」

「か……み……か……ぜ……波ーーーーー!!」


 まばゆい光線、轟くいかづちうなる光刃、そしてかすかな風がまめ太の両足首に襲いかかる。

 ダントの読み通り、足首に攻撃を受けたまめ太は、長く尾を引くような叫びを上げて、ゆっくりと地面に倒れ込んだ。


「今や、ヴァっさん!!」

「ええ!! ……光術、斬魔輝刃!!」


 リヴァルの剣が神々しい光をまとう。


「うおおおおおおおっ!!」


 リヴァルは倒れたまめ太との距離を一気に詰めると、顎の下の弱点目掛けて剣を振り下ろそうとした…………だが!!


「んん!? なっ!? あ、あかーーーん!! ヴァっさんストーーーーーップ!!」


 リヴァルの剣がまめ太の弱点を斬り裂く寸前、武光がリヴァルを制止した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る