宝剣、名乗る
27-①
セイ・サンゼンの宿屋に戻ってきた武光はナジミに怪我を治療してもらっていた。
ナジミが傷口に手を
まるでゲームの回復魔法だと思う武光だった。
「これで良し……と」
「今までただのドジな巫女さんやと思ってたけど……凄いねんな、自分」
「ふふん、これでも癒しの力を持つアスタトの巫女ですから」
「よし……怪我も治ったし、そろそろやるか!!」
「やるって何をですか?」
「ふふん、それはやな……」
言いかけた所で、部屋のドアがバタンと開いて、ミトが入ってきた。その胸には
「あっ、姫様」
「……カヤが、
〔違うでしょう姫様、武光さんに謝るのではなかったのですか?〕
宝剣から声がした。落ち着いて品のある、若い女性の声だ。
「う……えっと……その、突き飛ばしたりして……ごめんなさい」
かなりぎこちない動きで、ミトは武光に頭を下げた。
〔本人も反省しておりますので、許してやって頂けないでしょうか? イクロ山から戻ってきてからずっと、どうしてあんな事してしまったんだろうって、悩んでいたんです〕
「ちょっと、カヤ!!」
ワガママで凶暴なだけかと思ってたけど、案外可愛らしい部分もあるんやな、と武光は思った。
「な……何ニヤニヤしてるのよ、は……早く許しなさいよ!! 処刑するわよ!!」
〔姫様!! そんな謝罪の仕方がありますかっ!?〕
「だって……」
「……ええよ!! 俺らも危ない所を助けてもらったし、助けてくれてありがとうな……ミト」
「は……ハイ!!」
ミトが笑顔になったところで、カヤ・ビラキが言った。
〔では、姫様の謝罪も済んだ事ですし、改めて皆様にご
「あっ、ハイ」
武光とナジミはカヤ・ビラキの前に正座した。
〔はじめまして……ではありませんね、武光さんとナジミさんにお会いするのは。アナザワルド城の
「だ、誰が泣かされてなんか……!!」
〔はいはい。
カヤ・ビラキの物腰柔らかく、
「えっと……じゃあ俺らも挨拶させてもらいます。唐観武光って言います、こちらこそよろしくお願いします」
「アスタトの神殿で巫女を務めさせて頂いております、ナジミと申します。これからよろしくお願い致します」
ナジミと武光はカヤ・ビラキに頭を下げた。
〔こちらこそ。あら? そちらのお方は……?〕
〔我が名はイットー・リョーダン、唐観武光の
〔キ……キィィィィィィィィィヤァァァァァァァァァ!!〕
カヤ・ビラキが突如として叫びを上げた。
〔な……何なんだ、一体!?〕
〔あああ貴方様があの伝説の聖剣、イットー・リョーダン様なのですか!?〕
〔う、うむ……まぁ、そうだが……〕
〔ヒャッホォォォォォウ!! ヤッバイ……超ヤッバイ!! わ……私、伝説の聖剣である貴方様にずっと憧れを抱いておりました!! そ、そのお方が私の目の前に……フゥゥゥゥゥ!! つ、
〔い、いや……〕
「ちょっと、カヤ!?」
愛刀の今まで見た事の無い異常なテンションに持ち主のミトも慌てた。
〔ハァ……ハァ……姫様……私、今日ほど自分が剣で良かったと思った事はありません。人間だったら致死量の鼻血吹き出してますコレ!!〕
「いや、そんな事言われても……」
〔と、言うか……姫様もどうして
〔わ、私の……?〕
もはや当初の
「くくく……モテモテやな、イットー? よっ、色男!!」
〔じょ、冗談じゃない……んん? オイ、武光、あの剣から何か出てるぞ!!〕
カヤ・ビラキの刀身からモクモクと湯気が立ち上っている。
〔ハァ……ハァ……か、
湯気の量が凄まじい勢いでどんどん増えてゆく。
「わーっ!? ちょっ、ミト、お前何とかせぇや!!」
「む、無理です!! こんなの初めてですし……イットー・リョーダン!!」
〔わ、我か!? ナ、ナジミ!!〕
「み、皆さん落ち着いてください!! こういう時こそ心を落ち着け、目を閉じて……って言うか皆さん何処ですかー!?」
カヤ・ビラキの刀身から吹き出している湯気は、もはや白煙と化して武光達の視界を奪う程になっていた。
……その日、武光達の宿泊している宿屋は『一階の部屋から煙が出ている!!』と、大騒ぎになり、武光達は宿屋の主人に平謝りする羽目になった。
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