斬られ役、加工する
28-①
憧れの存在を目の前にして、テンションが上がり過ぎたカヤ・ビラキから吹き出した湯気は、ミトが
〔……全く、いきなり水を浴びせるなんて……王家の姫君ともあろうお方が、
〔ああ……イットー・リョーダン様の前だというのにこんなにズブ濡れで……私の
嘆き悲しむカヤ・ビラキを見て、その場にいた三人と一振りは思わざるを得なかった……『手遅れも
「ま、何はともあれ宿屋のご主人への謝罪と後片付けも済んだし、ええかげん始めるか……」
「気になってたんですけど、武光様はさっきから何をしようとしてるんです?」
ナジミは、指をバキバキと鳴らしている武光に問うた。
「ふははは……イットー・リョーダンを改造するのだ!!」
〔か……改造だと!?〕
まるで世界征服を企む悪の秘密結社のような武光の台詞に、イットー・リョーダンはたじろいだ。
武光は、所属している劇団、舞刃団の中でも特殊なスキルを持っていた。
……竹光の製作である。
他のメンバーが各々所有している竹光は専門店で販売されている物だが、唯一武光の刀だけは自分で製作した物だった。
『どうせなら世界に一振りだけの、自分専用の刀で戦いたい』という目立ちたがり精神と、元々物作りが好きだった事も相まって、武光は独学で竹光作りを始めたのだ。
ちなみに、今手元にある竹光はMk-13で、市販品のような
「まずは
そう言って武光は、イットー・リョーダンの
〔ちょっ……ちょっと待て武光!!〕
「何やねん!?」
〔そ、その……婦人の前で裸になるのはだな……〕
〔私は一向に構いませんッッッ!! むしろ大歓迎ですッッッ!!〕
「ミト!! カヤ・ビラキをバケツに
〔おわーっ!?〕
武光はボロボロの柄紐を取り去り、柄を
「さてと……じゃあ、結び直すで」
〔……カッコ良く頼むぞ!?〕
「おう、任せとけ……俺の竹光と同じように巻いたるわ!!」
〔ばっ、馬鹿かーーー!!〕
「何やねん今度は!?」
〔お、お前……そ、そんな
「
〔良いか武光、窓の外を見てみろ〕
「外……?」
武光が窓の外に視線を向けると、向かいの酒場の前で一人の女性が客引きをしていた。女性は胸元とヘソの部分に大胆に
「うへへへ……うげぇっ!?」
「
「全く、鼻の下を伸ばして……最低!!」
女性のダイナマイトボディに見とれていた武光は、ナジミとミトによる、ヘ◯・ミッショネルズも真っ青の前後からのラリアットをモロに食らって悶絶した。
〔人間で言うと、あの女が着ているような服を着せられるようなものなのだぞ!?〕
〔ああ……そんな大胆なイットー・リョーダン様も……武光さん、やってください!! 今すぐに!! ハァ……ハァ……そ、想像しただけで……私が人間だったらご飯十杯はいけますよコレ!!〕
「ミト!!
そう言って武光はイットー・リョーダンの柄に新しい柄紐を巻き始めた。《
「わぁ、武光様……意外と器用なんですね」
「まぁな」
「…………うーん、何か
「何です、目貫って?」
「これや、これ」
ナジミに聞かれ、武光は自分の竹光を取り出し、柄を指差した。
「こことここなんやけど、
「あ、ほんとだ」
「これがあると、
「あっ、じゃあ……コレなんてどうです?」
そう言ってナジミは1cm×5cm程の小さな
「これは、アスタト神殿名物の幸運の木札占いに使う物なんですけど……」
「おお、丁度ええ大きさやん」
「どうせならこの大吉の札を使っちゃいましょう、家内安全、商売繁盛、千客万来、無病息災、恋愛成就もこれを使えばバッチリです!! 私の持ち物にもこの幸運の木札を括りつけてあるんですよ」
「そんならナジミとお揃いやな」
「本当ですねー、ふふっ……」
笑い合う武光とナジミを見て、正体不明の焦りに突き動かされたミトは、カヤ・ビラキの三日月型の
〔どぎゃーーーーー!?〕
ミトは、飾りを武光に突き出した。
「こっ……これも使いなさい!! 王家の者と同じ物を所持できるんだから光栄に思う事ね!!」
「あっ……うん。でも……カヤ・ビラキめちゃくちゃ痛がってへんか!?」
「良いから使いなさいよっ!!」
「分かった分かった!!」
武光はグイグイと飾りを押し付けてくるミトから飾りを受け取ると、ナジミの木札と、ミトの飾りを目貫の代わりにして、柄紐を巻き終えた。
武光はイットー・リョーダンを試しに何回か握ってみた後、うんと一つ頷いた。手にしっかりと
「さて、じゃあ後はこの丸太をぶっこ抜くだけやな!!」
〔ま、待ってくれ!! お、お願いだ、それだけは……それだけはやめてくれ!!〕
イットー・リョーダンの言葉に、柄紐を巻こうとした時とは比べ物にならない程の切実さを感じとった武光は、丸太を抜こうとした手を止めた。
「……分かった。じゃあ丸太は抜かへんけど……余計な部分は削らせてもらうで?」
「ああ、それで良い」
武光は宿屋の主人から借りたカンナで面取りをしつつ、余計な部分を削り始めた。円筒形だった丸太が次第に板状へと姿を変えてゆく。
形が整ったところで、丸太の先端を斜めにカットして木の表面がスベスベになるまでひたすら紙ヤスリで磨きあげ、最後に刀身の側面に彫刻刀で『一刀両断』と
「よし…………ふんっ!!」
武光はおもむろに立ち上がると、イットー・リョーダンを上段に構えて真っ直ぐ振り下ろした。
空気を裂く音が、今までの “ぶぅん” という鈍い音から “ビュン!!” という鋭い音に変わっている。
握りがしっかりした事と、余計な部分を
武光は
「よし!! 出来たで二人共……って、寝とるがな」
昼過ぎから作業を始めたのだが、いつしか、夜も
「ま、明日の昼にはセイ・サンゼンを出なあかんしな……」
武光は寝ている二人を彼女達の部屋に運び込むと、後片付けをして眠りについた。
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