2章 第13話

『あんた、今どこで何してんの?』


その電話は突然だった。

衣替えが終わってから2日後。

私は家でソラの相手をしつつくつろいでいた。


不意にスマホに着信があったのだ。

画面を見ると、発信元は「母」。

母とは上京してから数ヶ月に1回の電話でのみやり取りをする程度だった。


『もしもし、久しぶり。元気にしてる?』


「うん、なんとか無事に過ごしてるよ。母さんはどう?」


『私も元気。引っ越したって聞いたけど、どこに引っ越したん?』


母にはジャパリパークに引っ越したことは伝えてなかったが…どこで引っ越したことを知ったんだろうか。しかし…現状を伝えると心配されそうだ…


「えっと…小笠原に引っ越したんだ」


『小笠原⁉︎仕事は⁉︎』


「あのー…ジャパリパークで…働いてるよ」


『ジャパリパーク⁉︎女の子みたいな動物がいるあのジャパリパーク⁉︎』


「ん…まあ、そのジャパリパークだよ」


『前の仕事はどないしたん?』


「辞めた。いろいろあって、今はパークで飼育員やってる」


『せっかくいい大学受かって上京したのに何やってんの?それやったら地元戻ってきて就職してくれた方がええわ…よりによってそんな不安定そうな仕事に就かんでも…』


「でも今の仕事も生活も満足してるし…」


『それやったら、あんたがそっちでどんな暮らししてんのか一度見に行かせてもらうわ』


「ちょっ、チケット取るのも難しいのに」


言うのを遮るように電話は切れた。



母は昔から安定した生活を送ってほしいと私に言っていた。だから私も東京の大学を出てそれなりの企業に就職した。

その会社の休暇でここを訪れてから私の人生は一変するわけだが、今から思えばここで働く決断を下したのは、私の人生の中で1番の賭けだったかもしれない。



それから1週間ほどして。

『チケット取れた。10日後にそちらに行く予定』

とだけ書かれた短いメールが届いた。

何も怯えることはない。ただ普段通りの生活を見せればいいだけだ。

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