2章第12話

「寒っ…」


私は寒さに思わず身を震わせた。

今は9月中旬。さすがに薄手の服では辛い時期だ。


「そろそろ衣替えの時期だなぁ」

「ご主人さま、ころもがえ?って何?」

「夏に着てた服のままだと冬には寒いし、冬の服だと夏には暑いから、季節にあった服に変えることだよ」


私の説明を聞いても、ソラはきょとんとした顔をしていたが、


「うーんと、イヌにも換毛期ってあるじゃん?それと同じような感じ…かな」


と説明するとソラの急に顔が明るくなった。どうやら理解してもらえたらしい。相手が分かりやすいように例えるって大事だね。


衣替えをしよう、とは言ったものの、実はこっちに引っ越してくるときに必要最低限の荷物しか持って来なかったため、今の冬服の所持数はほぼゼロなのである。


服がなければ衣替えも何もあったものでは無いので、まずは服を買ってくるところから始めることにした。




「ソラってさあ、おしゃれとか興味ないの?」


服屋に行く途中、ふと気になってそう切り出した。


「だってソラ、いつも同じ服装じゃん?生まれつきの服だから落ち着くとかはあるかもしれないけど、それでも年頃の女の子だったら、おしゃれしてみたいもんじゃないの?」

「うーん、ちょっとは興味あるけど…そこまででもないかなー」


本音を言うと、ただ私がいつもと違う服装のソラを見たいのである。ソラがどんな服のセンスなのかも気になる。ギャップあったりすると萌えるよね。しかし、本人はさほど興味がないらしい。上手く誘導して何か着せてみよう。


やや邪な事を考えてるうちに、服屋に着いた。

大抵の服はありそうな、一般的な大型服飾店である。店名は「ファッションセンターしまうま」…似た名前のチェーンがあった気がするが、今は名前は関係ない。

私たちは店の中に入った。


店内にはごく一般的なシャツやズボン、スカートの中に混じってサイクルウェアやドレス、果ては何かのコスプレと見られる物まで、さまざまなタイプの服が並んでいた。パークの人数比的な問題か、女物の服が多いように思える。


「カーディガン…長袖のシャツ…長ズボン…コート…はまだ早いかな。いやでも後々いるだろうし…」


ラックに掛かっている服からいくつか気に入った物をカゴに入れていく。

冬物を予め買っておくべきか否か迷った挙句、買わないことにした。一度に買いすぎるとサイフスターがピンチになるからね。




「…こんなのとか、ソラ似合いそうじゃない?」


自分の買い物を一通り終えた私は、手に取った服をさりげなくソラにすすめてみる。


「あ、それかわいい!…うん、ちょっとだけ着てみようかな。なんてったってご主人さまのおすすめだし!えーと?どうやってとるのこれ…?」

「あわわ、ちょっと待った!」


ソラがいきなりその場で服を脱ごうとしたので驚いた。

羞恥心とかないのか…


「どうしたの?」

「ヒトは他の人の前で服を脱いだりしないの。だから、そこに試着室ってあるでしょ。そこで着替えるの。いい?」

「あ、そうだったんだね。うん、わかった!」


そんなこんなでソラを試着室に入れる。


「あれ?ご主人さまは入らないの?」

「いや…私は…うん、外で待ってるよ。もしどうしても脱げなかったら…その時は呼んで」

「はーい!」


フレンズとはいえ見た目は少女な訳だし、成人男性と一緒に入るのは流石に問題だよな…

扉を閉める直前、チラリと見えたソラの下着は白かった。



「…これでいいかな…」


扉を開けて出てきたソラは、くるりと回ってみせた。紺のロングスカートに白いセーターという出で立ちが、普段のソラよりもっとおしゃれに見えた。


「うん、似合ってるよ。かわいい」

「えへへ…そうかな…でもこの服、脚のあたりがスースーして落ち着かないね…」


ソラは少しはにかみながら応えた。


「どうする?この服買う?」

「うん、買う!」

「それじゃ、それ脱いでおいで。レジに持ってくから」


そして自分の服と合わせて会計を済ませ、私たちは店を出た。

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