2章 14話
そして迎えた母が来る当日。
私は港まで迎えに来るように言われた。
「…おはよう」
「おはよう」
それからは気まずい沈黙が辺りに漂っていた。
「それじゃ、行こうか」
私たちは歩き出した。が、歩いている間も私たちはほぼ何も話さなかった。
「ただいまー」
「おかえりなさい!」
扉を開けるといつものようにソラが出迎えてくれた。
一人暮らしだと思っていたのか、母は一瞬驚いた表情を見せた。そして一瞬の後。
「あんた!こんな小さい女の子を家に連れ込むなんて何やってんの!」
「ええ⁉︎違う違う、これは…」
あらぬ誤解を招いてしまったようだ。
「あなたがご主人さまのお母さん?よろしくね!」
「ご主人さま?あんた、そんな趣味あったんか?とにかくもう帰ってきなさい!」
「ご主人さまどこか行っちゃうの?まだ全然遊んでないのに…」
「ちょっとソラ黙ってて?」
「あんた!こんな子に手を出したんか!それは犯罪やで!」
「母さん、話を聞いて⁉︎」
大変なことになってしまった。まあ…無理もないよなぁ…
とにかく誤解は解かないと。
「母さん母さん、よく聞いて。前に『犬を飼い始めた』って言ったじゃん?彼女をよく見て。頭の上には犬の耳があるし、尻尾もある。彼女はフレンズなんだよ。それも私の飼ってた犬の」
「そんなこと…ある訳ない」
「あるんだよ。ここはそういう奇跡が起こる場所なんだよ」
「……」
母は唖然とした表情を浮かべていた。
「どうしてこんなことになったかっていうと…」
そして私は、どうしてここで働くことになったかの顛末を語った。
「…とまあ、こんな感じでここで働くことになったんだ。1つ付け加えると、ソラと一線を超えたことは無いし、これからも超えるつもりはないよ。まあパーク職員としては基本的すぎることだけどね」
「…でもあんた、結構大きな会社に就職できたのによく転職する気になったな」
「あー、まあそれはソラがほっとけなかったからねぇ。フレンズになったとはいえ、世話を放棄したら飼い主として失格だと思うし」
「…意外としっかりしてたんやな」
「生き物を飼うなら当然だよ。あ、あとさ…ジャパリパークって実は国営だからさ、職員は一応公務員扱いになるんだよ。だから、そこらの企業よりは多分安定した職業だよ」
それからしばし沈黙が続き。
「えぇ…」
母は手で顔を隠してしまった。自信満々に「不安定」と言ってしまったのが間違っていて恥ずかしかったのだろう。
「大丈夫だよ!ご主人さまのお母さん!わたしもいろいろ失敗することあるけど、今までなんとかなってるから!」
ソラが若干ゃ的外れな励ましをかけるが、あまり届いてないようだ。
「…うん、とりあえず無事に過ごしてるみたいで良かったわ。明日も用事あるし、私はこれで帰るから。それじゃ、元気でね」
立ち直ったのか、母は早口にそう言うと、さっさと荷物をまとめて出ていってしまった。
「あ、ちょっと………せっかく来たんだからゆっくりしてけばいいのに…ねえ?」
「ソラもご主人さまのお母さんともっと喋りたかったな…」
「まあ帰っちゃったものは仕方ないしねー…まったく、慌ただしかったな」
そんなこんなで、母がやってきた休日は過ぎていったのだった。
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