2章 第6話

「カワラバト、何か普段暮らしてて困っていることはないか?もしもあったら私に言って欲しいんだけど…」


今日は月に一度、生活で困っていることがないか等を聞くカウンセリングの日。もちろん、聞いた結果は今後のサポートに生かされる。


「……」

「どんな些細なことでもいいし、逆に全くない、完璧だっていうんなら、ないって言って欲しいんだ」

「…あの…ね?わたし、飼育員さんのことを考えると、心がぎゅーっとなって、でも、あったかくて、優しい気持ちになれるの。で、図書館で聞いてみたら、それは『恋』だって…だから、私は飼育員さんが…好き…なんだとおもうな…いきなり変なこと言ってごめん…でも、この気持ちは動物の頃にはなかった、はじめてのことだから、大切にしたいの…」


一瞬、何を言っているのか分からなかった。が、すぐに言われていることを理解した。


「え…ええええええええっ‼︎」




「はあ…」

「どうしたキョウくん、ため息なんて吐いてさ」

「アスダさん…今朝、カワラバトのカウンセリングしてたら、その…告られたんですよ…カワラバトに…」

「…告られたって言うのは…」

「文字通りです。好きって言われたんです…しかも文脈から察するにLIKEじゃなくてLOVEの方…」

「あー…それは結構あるあるだからそこまで気にすることはないんじゃない?」

「え、そうなんですか?」

「うん。少なくとも僕はホワイトライオンと恋愛関係っぽい関係になった先輩を知っている」


そう言ってアスダさんは持っていた缶コーヒーをぐいっとあおる。


「で?返事はどうしたの?」

「それが…私が驚いてしまってうやむやになっちゃって…」

「はあー…なるほど…話を聞く限り、カワラバトちゃんがキョウくんにとてもいい感情を抱いているのはたぶん間違いない。でも、それがヒトが恋人に抱くそれかって言われると、多分、違う」

「というと…?」

「よっくよく考えてみて?気づいたら自分の姿が全く違うものに変わりはててしまいました。今までの仲間とは意思の疎通すらできません。そんな時、自分の面倒を見たり世話を焼いたりしてくれる人がいたらどう思う?」

「それは…とっても嬉しい…んじゃないんですか?勝手も分からない不安な中で、自分を気にしてくれてるんですから」

「そうだよねえ、嬉しいと思うよ。特別な感情が生まれるかもしれない。でもそれは、『自分に対して世話を焼いてくれる』から。いわば子供が母親に対しての物に近いと思うんだ。ヒトが抱くような恋愛感情じゃない。どこぞの赤い彗星じゃないけど、文字通り『俺の母親になってくれるかもしれない人なんだ‼︎』っていうことだよ。さっき言った、ホワイトライオンと恋仲になった先輩も馴れ初めはおにぎりをあげたことらしいしね」

「………」

「まあ、これは僕個人の意見に過ぎない。研究所ではっきり出た答えじゃないから、無視するも聞き入れるもキョウくんの自由だ。頭の片隅にでも置いておいて、今後の参考にしてくれたら嬉しいよ」

「……」


私は何も言えなかった。

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