2章 第5話

「キョウくん!土日は休めた?この前の歓迎会で言ってた、新しい担当の子を紹介するからちょっとついて来て!」


アスダさんの後について行く。

連れてこられたのは、パークセントラルの中の広場。ここで臨時の飼育担当者と待ち合わせらしい。


「あ、カワトさん!…と、あれ、カワラバトは?」

「それが…少し目を離したらどこかへ行ってしまって…」

「ええ⁉︎本人がいないんですか⁉︎困ったな…お互いに顔合わせをしておくのが今日の目的なんだけど…どこに行ったかとか、直前の様子とか分かります?」

「どこに行ったかは知らないですが、今朝私にパンをねだってきて、理由を聞いたら『前の仲間に分けてあげる』って…だから、もしも動物のハトにエサをあげているとしたら、公園とか、駅とか、そういう所にいる可能性はあると思います」

「…そうですか、じゃあ、動物のハトがいそうな場所を重点的に探してみましょう!」


現場はかなり混乱していた。




「よっ…と」


その頃、カワラバトはパークの中のとある公園に降り立っていた。

何も考えず、ボーッと日向ぼっこをするのが目的の彼女は、近くの手頃なベンチを探し、座った。


「おや、この辺ではあまり見ない顔ですね」

「ほえ?」


話しかけてきたのは、隣に座っていたフレンズ。

全身真っ黒な服を着た、鳥のフレンズらしい。


「失礼、私はハシブトガラスです」

「ほえ、えーと、私はカワラバト、かな。この姿になったのは最近だからヒトのやり方がよくわかんないんだよねえ」

「そうですか。では、これからよろしくお願いします」


しばらく無言の時間が流れる。

ボーッと目の前を眺めているカワラバト。その視線の先では、数羽の鳩が地面をついばんでいた。


「…あれは元の仲間ですか?」

「うーん、そんな気もするし、全く知らない群れの子かもしれないし。この姿になってみんなの言ってることわかんなくなっちゃったからねえ…」


そう言うと、カワラバトは食パンを取り出し、細かくちぎって地面にまいた。

途端に辺りにいた鳩がベンチの近くに寄って来た。


「…何してるんですか?」

「この姿ってさあ、しいくいんさん?からご飯もらえるから食いっぱぐれないし、猫とかに襲われて死ぬことに怯えなくていいし、すっごい良いことばっかりじゃない?ほんの少し前までは、私もあんな風にその辺つついたりとかしてたのにさ?自分だけ良いことばっかりっていうのもちょっと悪いかなぁ、って。だから、鳩を見つけたらパンあげることにしてるんだ」


そう言いつつ、自分でもパンを食べるカワラバト。


「いる?」


ハシブトガラスにもパンを差し出す。


「…では少し」


2人でもぎゅもぎゅとパンを食べる。


「あ〜、平和だねえ」

「そうですね」

「これがずっと続いたらいいねえ」


どれくらい経ったのか、まだ高かった太陽が、すでに傾いている。


「あ、もう夕方かあ。暗くなると目が見えなくなるから早く帰んないとね」

「あなたと一緒にいると面白かったです。またいつか会いましょう」

「ほえ?ああ、私も楽しかったよ。それじゃまたね」


そういってカワラバトはパサパサと飛び立っていった。


「かぁらぁすぅ、なぜ鳴くのー、からすが鳴くから帰りましょー」


そんな歌を口ずさみながら。


「…それは別々の歌ですよ」


聞こえないと分かりつつも、ハシブトガラスはツッコミを入れる。




キョウとアスダに話を戻す(以下、キョウの一人称で進行)。


ピリリリリリ、とアスダさんの携帯が鳴った。


「はい、アスダです。まだこっちは見つけ…はい、え、見つかったんですか?普通に帰ってきた…ですか…分かりました。とりあえず、新任のキョウくんを連れてそっちに向かいます」

「見つかったんですか?」

「うん、普通に待ち合わせ場所に戻って来たんだって。こっちは5時まで探したってのに…てわけで戻るよ!」

「ハイ!」


「おー、来た来た。んじゃ、紹介しますね。こっち、新しいフレンズのカワラバトです」

「ほえ?あなたが新しい しいくいんさん?よろしくね」

「あ、イマダ キョウです。よろしくお願いします」

「よし、これでキョウくんも『飼育員見習い』から『新人飼育員』になったと言えるかな!」

「え、私『飼育員見習い』だったんですか?てっきり『新人飼育員』かと…」


チッチッチッ、と指を振るアスダさん。カッコつけてるのか、今までになくキザだ。


「アニマルガールを同時に2人以上担当してからが、『新人飼育員』だよ」

「ええ〜…」


ハッハッハッハッと笑うアスダさんとカワトさん。


えー…飼育員見習い改め、新人飼育員イマダ キョウ、これからも頑張ります!


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