2章 第3話

「え?」

「あ…」


一瞬何があったのか認識できなかった。

気づいた時にはもう、そのフレンズは走り出していた。


待て、私。相手はフレンズ、こっちは人間。闇雲に追いかけても逃げられるだけ。ならば無理に捕まえずとも、この部屋から逃がさなければ先輩に連絡してこの状況を解決してもらうことができるかもしれない。

そう考えた私は、今入ってきた扉を閉め、その前に陣取った。このロッカールームの出入り口は、このドアしかない。よってさっきの子はもう袋の鼠だ!いや、ネズミのフレンズではないと思うが。


しびれを切らして向こうが姿を現すのを待ち構えていると。


「あれ、キョウくん、どうしたんだ?そこで通せんぼなんかして」


ロッカールームの奥から姿を現したのはフレンズではなく、アスダさんだった。

ロッカーの間を通って聞こえてきたその声は、アスダさんのものそのままだった。


「…アスダさん、フレンズを1人見ませんでしたか?」

「ああ、さっき奥まで駆け込んできたよ。ダメじゃないか。フレンズにストレスを与えるような行動は厳禁だよ」


アスダさん(仮)のそのセリフを聞き、私はこのアスダさんが偽物であることを感じとった。

ここはパークのバックヤード。そしてそこにフレンズが入るのは基本的に無理だ。確かにフレンズにストレスを与えるのは厳禁とされているが、この状況ではどちらかといえばバックヤードに入り込んだフレンズの方が問題になるはずなのだ。

私とアスダさん(偽?)はお互い睨みあったまま動かない。


「お、キョウくんも帰るとこ?」


その膠着状態を破って入ってきたのは、アスダさん(本物?)だった。

そして私と対峙しているアスダさん(偽?)を見て、一瞬の沈黙の後、


「え⁉︎僕⁉︎」


「…キョウくん、何が起こってるのか説明してくれないか?全くもって状況が飲み込めない」


私はロッカールームに入る前に砧くんを見かけた所から、目の前にいるアスダさんが偽物である結論に至った推理までをきっちり話した。


「………〜〜〜!」


本人が登場して観念したのか、アスダさん(偽)は悔しそうに呻くと、ボン!と煙に包まれ、次の瞬間にはアニマルガールの姿になっていた。

研究者が着るような白いジャケットに、丸い黒縁メガネ。モフモフした尻尾が3本ないか?


「…観念しました。私は、ダンザブロウダヌキ。パーク守護獣、イヌガミギョウブさまに仕える者です」


「…ダンザブロウダヌキってなんですか?」

「佐渡に伝わる化け狸の伝説だよ」

「伝説の動物もフレンズになりうるんですか?」

「うん。数は多くないけど、神さまとかUMAとかもいるよ」


ヒソヒソと話す私とアスダさん。

フレンズは現実にいない動物でもなるのか…


「私はイヌガミさまに仕えておりますが、そのイヌガミさまが大変な酒飲みで、ヒトに化けて酒をツケで買っては踏み倒して逃げるということを繰り返していたんです。私もそれは良くないと思い、フレンズである以上ヒトのルールは守る必要がある、と言ったのですが聞く耳を持たず、なので、私が働いて稼いで酒屋のツケを少しずつでも払っていこうとしていたんです。それが…始めて1週間で早々に破綻するとは…」


一気に哀しそうな表情になってため息をつくダンザブロウダヌキ。


「…どうします?」

「この様子を見るに、今まで飼育員がついたりすることなくひっそりと生活してたっぽいんだよね…フレンズが正式に働くには、社会生活ができることを証明するパスがいって、それ取るには飼育員の同意が必要なんだよ。でもねー、神さまとか妖怪系のフレンズは超常能力を持ってたりして扱いづらいからみんな担当したがらないんだよね…また、ナウさんに相談してイヌガミギョウブ共々担当をつけてもらうよ。ういう訳だから、ダンザブロウダヌキちゃんはまた明日、ここの受付に顔をだすように」


アスダさんはそう言ってロッカールームを去ろうとした。が、立ち止まって振り返り、


「そうだ、今回の手続きとかはキョウくんに任せることにするよ。ダンザブロウダヌキの第1発見者だしね」

「えっ、私ですか⁉︎」


いきなり指名されたことに驚く。


「うん。手続きの順番だとかはまた教えるから、そんな心配しなくていいし、何より何事も経験!だよ」

「う…はい…そうですよね…経験、ですよね…」

「よし、じゃあ詳しいことはまた明日から伝えるから、今日のところはお疲れ様でした」


そしてアスダさんはロッカールームを出ていき、部屋に残された私とダンザブロウダヌキは、同時にため息をついたのだった…

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