第34話
町長から紹介された宿の中で適当に詰所から近い所を選んでチェックインする。アークの性別を図りかねて受付は首を傾げていたが、特に問題無く二人用の部屋を割り当てられた。リドルは部屋に入るなりベッドに飛び込んだ。
「子供かお前は」
呆れて苦笑を浮かべるアークに、リドルはふいとそっぽを向いて反論する。
「だっていつもと違う場所で寝るのってワクワクするじゃない。アークは違うの?」
「そう思う感覚が子供のようだと言うのだ」
共感してくれないアークに、リドルは頬を膨らませ、その顔面に枕を投げつけた。すわ攻撃かと一瞬爪を出しかけたが、寸前で思いとどまり、そのまま受ける。
「ぬおっ!?やめないか、お前の物じゃないんだぞ!?」
「女の子はいつだって好きな人に共感してほしいものなのよ、アークのばーか」
「お前、いつもはそんな可愛げのある態度取らないだろう……一体どうしたんだ」
確かに今は特殊な状況ではあるが、1つの部屋に二人きり、ということ自体はサイグが来る前にもいくらでもあったことだ。今日のリドルは明らかにおかしい。
「だって、二人だけでどこかに出かけることなんてなかったじゃない。新婚旅行みたいだってはしゃいでるのは私だけだったの……?」
あまりにも意外過ぎる返答に、アークの思考が一瞬だけ止まった。頭が真っ白になることなどいつぶりだろうか、と思案したところで理性が戻ってくる。
「アーク?どうしたの?いつもみたいに『何をバカなことを……』とか言ってバッサリ斬るんじゃないの?」
「お前の中の私は一体どうなっているんだ。流石に目の前の女の期待を裏切ることが出来る程図太い性格はしていない。お前がそう言うのなら私もまあ、吝かではないよ。お前にそっぽを向かれたら色々と困るわけだしな」
「……アークが私に優しいとなんだか気味が悪いわ」
「どうしろと言うのだ……」
頭を抱えるアークを見てリドルはクスクスと笑った。そういった仕草は彼女の特殊な在り方とは関係の無い純粋なもので、他人の毒気を抜く。普通の男なら普段とは違う彼女の表情を見ることで惚れてしまうことすらあるだろう。アークはそんなことにはならないが、自然と笑みが浮かぶ。
「アークはいつも通り自分のやりたいことを一生懸命やっていれば良いのよ、そういうアナタが私は好きなんだから」
真っ直ぐに好意を伝えられて、アークはくすぐったくなった。普段良く回る口が言葉を出せないでいる。
「そうか」
なんとかその三文字だけを絞り出す。リドルは更に笑みを深めた。
「ええ、アナタが私のことを嫌いになっても、私はきっとアナタのことを好きなままでいるわ」
それは全て本心からの言葉なのだろう。こういった直球の物言いに、アークはあまり強くなかった。
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