第31話
「朝っぱらから何をしているんだ、お前達は……」
朝食のパンを千切って口に入れながら、アーク達が起こした出来事を聞き、ゼロは呆れ顔でそう言った。
「全くだ。二日連続で死にかけるなぞいつぶりかな」
「吸血鬼でも体験したくないね、それは……」
「お前も私を殺すつもりだったと思うがな」
「なんのことかな?ボクはあの時セーラを泣き止ますために可愛いウサギちゃんを創ろうとしていただけだよ」
「軽率に生命を創造するなこの色ボケ錬金術師め」
「生命なんて、設計図通りに素材を組み合わせれば創るのは簡単だよ?あ、そういえば粛正者はアークが倒してくれたんだよね?約束通り報酬を用意しなきゃ」
カールは強引に話題を転換させた、というよりは本当に今思い出したのだろう。いそいそと椅子から立ち上がろうとしたが、寸前でアークから制止の声がかかった。
「待て。私は粛正者を追い返しただけだ。致命傷を与えたわけでもない。同じように、あるいはより強い粛正者が送られてくる可能性が高い。まだ報酬を受け取るわけにはいかん」
「律儀ね、あんな奴らと何度も戦うつもりなの?いよいよ死ぬわよ、トドメは刺させなさいね」
「友人の頼みを無碍にするわけにもいかんからな、どうするカール。私達がここにいるのが迷惑だと言うなら出て行くが」
アークの申し出に、カールは静かに首を横に振った。見た目の年齢に似合わない、大人びた仕草だった。
「君からそう言ってくれるのはありがたいよ、でも本当に良いのかい?君の目的には不要なプロセスだろう、ボクだって友達の邪魔はしたくないよ」
「いや、今回の戦いでまだ自分は力不足だと感じた。神の力の一端を使う粛正者との戦いは確かに危険だが、神へ挑むための足がかりになるだろう」
「その言葉だけ聞いたら戦闘狂だよアーク……でも、ありがとう」
カールはにこりと笑った。それは先程とはうってかわって見た目相応の純真なものであり、アークもまた自然と微笑んでいた。
「2人だけの空間とか作らないでくれるかしらぁ?」
アークとカールの間を恐ろしい勢いで銀色の飛行物体が通過していく。すわスカイフィッシュかと見紛うそれは、壁に突き刺さり周囲数十センチをクレーターに変えたところでナイフだということが判明した。
「リドル、人様の家を壊すな」
「いいよいいよ、すぐ直せるから。アークこそ、お嫁さん怒らせちゃダメだよ?」
「誰が誰の嫁だというのだ」
「いやあ、傍から見れば事実婚だと思うけどね、君たち」
アークとリドルのやりとりを見てくすくすと笑うカール。少し前の賑やかな日常が帰ってきたのだと実感させる一時だった。
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