第22話
「いやしかし驚いたね、あのアークが人間の、それも英雄のお嫁さんを貰っているなんて。式に呼んでほしかったなぁ。子供も結構大きくなってるけど、どっちの血を濃く受け継いだんだろう、
アーク達を部屋に通し、自分だけ椅子に座ってカールが放った第一声がこれである。
「待て待て、色々と誤解している。リドルは私の妻ではないしなんなら恋人ですらない。ゼロも私の子じゃないぞ」
アークの言い分を聞いて、カールは驚嘆し、次いで失望と、リドルに対して憐憫の目線を向けた。
「それじゃ何か?君は行きずりの女を孕ませて、子供の認知もしていないと?いやあ、ちょっと友達辞めたくなってきたよ。そっちの君、リドルだっけ?君も不憫だね、こんなヤツに引っ掛かっちゃって」
「ちょっと待ちなさい。そんな的外れな洞察でアークを悪く言うんじゃないわよ。殺すにも値しないゴミムシが」
リドルの怒りがこもった言葉に、カールは背筋の寒くなるような
「ご主人様、悪い癖ですよ。何もかもわかっているのに他人の神経を逆撫でしようとするのは。そんなだとセーラはご主人様のことを嫌いになってしまいます」
セーラがツンとカールを突き放すと、彼女はあからさまに慌てだす。
「いやいやいや、大丈夫、もうやめるよ、だから嫌いにならないでおくれセーラ。君に嫌われてしまったら、私はこの死なない体を何度殺しても届かない苦しみを背負ってしまう」
「本当ですね?もうお客様に失礼な態度を取ったりしませんね?」
「しないしない。君と光と闇の神に誓ってしないとも、愛しいセーラ」
その光景を見て、アークは苦笑しつつ仲間達に語る。
「こいつはこういうヤツなんだ。人間の少女が好きすぎて自分まで少女になるのに飽き足らず、今は更に人間の少女を側に仕えさせていると来ている。そのくせ人間を悪意を持っておちょくるのが大好きな変態だ。味がわかれば面白いぞ」
「変態とかゴミムシとか、君たちちょっと酷くないかい?それが1500年ぶりに会う友人への態度かい……ま、良いけどさ」
「すまないな、お前と同様、一筋縄ではいかん友人達だ。それにお前の嗜好が世間一般に理解されないものなのは事実だろう?」
「その世間様を管理して統治してるのはボクなんだけどなぁ、まぁ、そんなことはいいや。それもボクの趣味だしね」
言い合って、2人は微笑する。こういったやりとりを幾度となくしてきたのだということが、他の者にも伝わった。リドルは相変わらず、嫉妬の残る微妙な表情をしていたが。
「さて、こうして旧交を温めるのも良いが、私もお前も、目的はそれではない。だな?手紙で
「ボクとしてはもうちょっと温めておきたかったけど、そう切り出されちゃ仕方ない。この件に関しては簡潔に伝えよう。教会の過激派に睨まれた。多分明日には異端粛正者が来る。助けてほしい」
彼女のセリフに含まれる単語に一番激しく反応したのはサイグだった。今まで2人のやりとりを眺めていただけだった彼が、声を荒げる。
「教会の過激派、異端粛正者ってアレか!?吸血鬼や竜とかの、人の神以外に由来する生命をこの世から消滅させようって言う頭おかしい集団のことだよな!?その中でも粛正者と呼ばれる奴らは、本当にそういった存在を倒せるとか……」
「珍しくサイグがまともな知識を語ったな、その通りだ。で、私を呼ぶということは武力でそいつを追い返す腹づもりというわけか……ここで戦うなら、我々以外に死人が出るぞ」
真剣な顔で語るアークを見て、何故かカールは笑った。
「何がおかしい、私は変なことを言ったか?」
「ふふふっ、いや、吸血鬼の君が人間の心配をするのがね。君らしいし、そういった思考をしてくれるのはボクとしてもありがたいんだけどね。その点に関しては大丈夫だよ、向こうからするとここの人間達は『奸計に長けた薄汚い吸血鬼に惑わされた哀れな民草』らしくてね。彼らもこの町を戦場にすることは無いそうだ。いやはや、彼らの人間至上主義には呆れをとおりこして滑稽さすら覚えるね。と、ボクの感想なんかどうでもいいか。兎に角、ボクが死んでも町の人々は平気だ。だけどね、ボクが死んだら愛おしい彼らの営みを見られなくなる。それは困る。だから改めて頼むよ、アーク、力を貸してくれ」
カールは深々と頭を下げた。それは、どこかつかみ所の無い彼女だが、その願いだけは本物のものだと、その場にいる誰もが理解した。
「友の頼み、それも正当だと思えることに手を貸さない程私は薄情ではないよ、良いだろう、傲慢な教会の人間の天狗の鼻をたたき折るのに一肌脱ごうじゃないか」
「アークが良いなら私も従うわ、サイグ君もそれで良いわよね?」
「お二人に逆らって命が無いのは最初の一件でわかってますよ、人間相手はあんまり気が乗らないけど、追い返すくらいはお手伝いしますとも」
「私もアークには逆らえん、どこまでいっても人形だからな、好きにしろ」
「アーク、それにお友達も、ありがとう、手紙にも書いた通り、報酬は弾もう、打倒、異端粛正者だ!」
音頭を取るカールに、しかし元気良く声を上げたのは、サイグの肩に乗っていた竜の子だけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます