第21話

 少女に案内され、家の主の居る部屋の前にやってきた。扉のわずかな隙間から、光が漏れ出ているのが見て取れる。少女が扉越しに声を掛けた。


「ご主人様、アーク様がいらっしゃいました」


 彼女がそう言うと、扉の向こうから眠たげな返答が聞こえてきた。


「んあ~、ありがとセーラ、そこに置いといて、後で使うから」


「は……?」


 セーラと呼ばれた少女もその答えは予想外だったようで、完全に呆然としている。アークが溜め息を吐いて、声の主に向かって言う。


「おいカール、私だ、寝ぼけてないで扉を開けろ」


 その声を聞くと、どんがらがっしゃん、と今日日聞かないような音が鳴って、蝶番が外れるのではないかという勢いで扉が開かれた。


「アーク、本当に来てくれたんだね!嬉しいなあ!あ、最近作ったスライムの餌食になってみない?無駄毛だけを食べてくれる優れものなんだ!」


 大はしゃぎするそれは、幼い少女の形をしていた。美しい赤毛と、同色の瞳が、少女にあるまじき妖艶さを醸し出している。だが、その瞳に宿る理性と、それに上塗りされている、澱んだ昏さが、酷く不安感を煽る。それが放つ気配に、英雄2人は体を強張らせ、リドルに至っては反射的にそれに、ナイフを投擲していた。

 思考速度よりもなお速く投げられた銀色の金属塊はしかし、標的に当たる前にピタリと止まった。そしてナイフの形が歪み、段々と円形になり、最後には、チャリン、と小気味の良い音を立てて、硬貨が床に落下した。


「錬金術……!」


 リドルが驚きを露にしながら叫んだ。その手には既に新たな刃物が何本も握られている。


「おやめください!」


 リドルとカールの間に立ちふさがったのはセーラだった。彼女の体は、正面から浴びせられる殺意と向けられる刃物に対する恐怖で震えていた。それを見てリドルは落ち着きを取り戻し、刃を収める。


「ご、ごめんなさいね、どうかしてたわ、私。でも、カール、だったかしら?アナタのこと、好きになれそうにない」


「俺もそうだ。どうやっても、お前と仲良くなれる気がしない」


 カールの顔から、表情が消える。老獪さを隠さない瞳が、値踏みするようにリドルとサイグを見据える。その行為に2人は怖気を感じたが、やがてカールの顔がパッと明るくなり、花が咲くような笑顔になった。


「ま、人の好みは色々だからね、そこに口出ししたりしないよ。ましてアークの友達なら、ボクは悪くはしない。でも、もう二度とセーラを怖がらせるような真似はしないでほしいな」


「それについては勿論よ、子供を怖がらせる趣味は無いわ」


「頼むから仲良くしてくれ、曲がりなりにも友人同士が争うところなど見たくはない……」


 友人同士の邂逅にアークは頭を抱えた。

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