第15話

 サイグとリドルが談笑していると、不意に、アークの自室の戸が開いた。いち早く気付いたリドルが座っていた椅子から立ち上がった。


「ようやく終わった……3000年ぶりに死ぬかと思ったぞ」


 憔悴しきった様子のアークに、リドルは多少驚いた。殺意は十分だが、それより心配が上回り、気遣って声をかける。


「アーク、平気なの?」


「お前が素直に心配してくれるとはな。明日は槍が降るかな?」


「お望みなら今すぐ降らせてあげるけど?武器なら何でも作れるのは知ってるでしょう?」


 にこやかに笑いながらアークの頭上に槍が出現し、降った。


「うおお今はやめてほしかったんだが!いや、お前に対してあんな冗談を言った私が悪いのだが!」


 アークは狭い空間で槍を避け、あるいは上手く受けて、なんとか全てを捌ききった。床には大量の血が零れていたし、なんなら内臓も少しポロリしていたような気もしたが、気のせい気のせいとアークは自身の体を修復し、改めてリドルに向き直った。


「アナタがそんなに焦るなんて珍しい。何かあったの?」


 アークは大きな溜め息を吐きながら、自分が小脇に抱えていたものをリドルに見せた。それは長い黒髪をした子供サイズの人形で、顔立ちはアークに良く似ている。それを見てリドルはこの世の終わりを見たかのような顔をした。


「隠し子……!?私という者がありながら……!?信じられない、アナタを殺して私も死ぬわ!!」


 リドルが剣を生成し斬りかかる。後にアークは語った、あの剣は今まで見てきたどの名剣よりも優れていたと。


「待て待て待て!その剣凄くないか!?本当に私を殺せそうだぞ!」


「元からそのつもりよッ!」


 今までにない剣の冴えを見せるリドルにアークは驚愕し、完全に自分が持ってきたモノの説明をするタイミングを逃した。

 アークは目線でサイグに助けを求める。サイグもまた大きな溜め息を吐きながら二人の間に介入した。甲高い金属音が鳴り響く。サイグの剣がリドルの剣を止めていた。


「落ち着いてくださいなリドル嬢、コイツにも何か言い分はあるでしょう、それを聞いてから殺すのでも遅くないのでは?」


「殺さないでくれ……」


 久々に人間の時のような恐怖を感じたアークが涙目で懇願した。



***



 「で、その子は何?」


 場所を居間のテーブルに移し、三人の話し合いが始まった。アークの向かいにリドル、間にサイグという構図だ。いざとなればサイグがリドルの剣を止めるということになっている。


「いや、その、この子は、だな……」


「ハッキリして!」


「ヒィッ!」


 いつも余裕を持っているアークがこの時ばかりは完全に怯えきっていた。死の恐怖は吸血鬼すら狂わせるらしい。


「こ、コイツは人形だ、隠し子なんかでは断じて無い。そもそも一体どうやって私が子供を作るというのか。ずっとここで隠居しているのに」


「ふうん、上等な言い訳ね、なら起動してみて頂戴な」


 あの騒ぎの中ずっと寝ている時点で人間なはずが無いのだが、女の思い込みとは恐ろしいものだ。リドルの方を伺いながら人形を起動した。蒼い瞳が、リドルを見つめ、アークを見つめた。


「パパ……お前を殺して私も死ぬ!!」


「ギルティッ!」


「いい加減にしろ!何がパパだ私の性別知らんくせに!!」


 話の決着はしばらくつきそうになかった。

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