第12話
夜が明ける。魔力で具現化されていた月は消え、先程までの騒ぎが嘘のような静寂があたりを満たす。動かなくなった試作零号を抱えたアークが、1つの絵画のように佇んでいた。
「終わった、のか?」
静寂を破ったのはサイグだった。唐突に色々なことが起こったせいで、右手に持った剣のやり場に困っているようだ。
「終わった。散々な目に遭わせてしまったな、私のせいだ、そこは謝ろう」
「ならお詫びに殺させてくれる?」
すかさず口を挟んだのはリドルだった。にこにこしながら手にはナイフが持たれている。
「正直本気で勘弁してほしい、今の私は立っているのでやっとなんだ……今使った魔術は欠陥だらけでな、身体能力の強化方法としてはあまりに回りくどく効率が悪い。私がここに落ち着くまでに世界各地に隠した魔力槽666の中の魔力を1割も使うし、解けた後は体が効果中との差に耐えられずに死ぬほど重くなるんだ。泳いだ後水から出ると体が重いだろう?あの感覚をもっと酷くした感じだ」
「うわ最悪ね、なら今日だけは特別よ?明日は倍にして殺しにかかるから」
「しかし本当に凄かったな、アレなら神も殺せるんじゃないか?」
「無理だな」
「なぬ」
鼻で笑われながら一蹴され、サイグはムッとした。
「確かにアレは強力な魔術だが、先程も言ったように代償も大きい。それにな、最大の欠陥は、アレは私以外の吸血鬼にも効果があるのだよ。吸血鬼相手にアレを使えば、相手も同様に強化される。白兵戦に特化したような鍛錬をしてきた者なら私などものともせんだろう。あくまで月を再現するだけの魔術。万能ではない。全能の神に対抗するにはまだ足りんさ」
「そういうものなのか」
納得のいく説明をされると、サイグも引き下がるしかない。
「さて、戻ろう、竜の赤子も待っているだろう」
アークは人形を抱えたまま、出口へと歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます