第10話
さながら現代の大都会のように隙間のない人形達の間をひた走る。3人と1体が破壊した人形の数は最早数え切れない程に達している。だが、一向に減っているという感覚は得られない。時間感覚の無いこの空間で先の見えない戦いをするのは精神的な疲労が大きい。流石の彼等も、相手を罵倒する言葉すら出てこない。
「もう少しだ」
唐突にアークがそう漏らした。彼の目には人形を操る糸が見えている……それは自分の使うモノと全く同質のそれだ、見間違うはずもない。その糸の長さが残り短いことも、手に取るようにわかった。
その言葉を聞いた他の2人と1体は無言で走るペースを上げた。最早人形は障害物にもなりはしない。
そうして走ってしばらく、「それ」は姿を現した。
「やはりお前か、試作零号」
アークの言葉に、糸を手繰っていた1つの人影が反応した。それは周囲の人形達を下がらせ、自らの姿を露わにした。
「……この時を3000年待ったぞ、アーク」
「私は1つも待たなかったがな、試作零号、いや、アークと呼んだ方が適切かな?」
目前に立つのは、アークと全く同じ顔で、アークと全く同じ声をした人形だった。ただ、その夜空のような漆黒の髪と、空の色を写し取ったかのような青い瞳だけが、2人の区別をつけるモノだった。
その不可思議な人形は名を呼ばれると不服そうにアークを睨んだ。指を少し動かすと、小型の人形がアークに飛びかかる。それを受け止め、アークは派手に頭部を破壊してみせた。
「貴様は私を作り、不要だからとこの場所に閉じ込めた。3000年もの永きに渡りな。成程、人形の体はそれだけの時間に耐えうるだろう。それも、物を劣化させないということに特化したこの空間ならば余計に」
アークの形をした人形は独白を始める。その体から発せられる異様な雰囲気に、誰一人動くことが出来ず、彼(彼女?)の話を黙って聞き続ける。
「だがなアーク、私は『貴様が人間だった頃の貴様』の模造品なのだ。ただの人間なのだ。何の特別性もない人間だったのだ。そんな者が、3000年の時間で精神が歪まないはずがない。貴様はあまりにも想像力が足りなかった」
アークは目前の自分の分身を興味深そうに観察している。完全なる同一の存在として作った物が、自分とは既に決定的に違うことに、不思議な感慨を覚えていた。
人形が、声を荒げる。
「だからアーク、貴様は私を全力で殺せ!それが作った者の責任だ、完膚なきまでにたたき壊し、二度と修復など出来ぬよう、粉々にしてしまえ!そして私も全力で貴様を殺そう!3000年の恨みを以て!」
叫ぶと同時に多くの人形が試作零号の元へと集っていく。それはあたかも、自分達の中で最も古い仲間を悼むかのように。やがて人形達は巨大な人型を取り始め、1体の人形へと変化した。その巨体に向かって、アークも叫ぶ。
「良いだろう試作零号!貴様の思いを受け止められない程、私は狭量な主人ではないからな!かかってくるがいい!」
全てが同じでありながら、全てが違う1人と1体の拳がぶつかりあった。
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