第9話
「ええい、一体全体なんなんだこれは……!」
「ちょっと人形の管理が雑なんじゃないかしら?」
「数も把握仕切れていないモノを管理する方が無理だというのだ!」
「やっぱり雑なんじゃないか脳味噌空っぽか!?」
そんな醜い罵倒をしあっている間にも、人形の箱は開き、中から様々な人形が雪崩の如く放出されていく。アークは咄嗟に魔力の糸を編み、人形達を操ろうとする。だが、
「主導権が私に無い、だと!?」
人形達の殆どが反応しない。1割程は操ることが出来そうだったが、それらはあたかも無理矢理操っているかのようなやりにくさを感じた。創造主に被造物が逆らうことなどまず無い。人形という、『操られる』という概念が強固な存在となれば尚更だ。だというのに人形達は言うことを聞かない。どう考えても異常な状況だった。動揺と、一種の恐怖すら感じているアークに、人形が迫る。それを防いだのは二つの刃だった。片方は無論リドル、そしてもう片方は、
「ゴ主人、アンタの最高傑作ヲ忘レテ貰ッチャ困ルナァ」
自我を持つ人形、名は無く、ただ『試作壱号』あるいは単純に『壱号』とだけ呼ばれる愛らしく狂おしい少女型人形がそこに立っていた。
「壱号、お前は平気なのか?」
「ソリャオレハ勝手ニ動クカラナ、他ノ連中ガドーナロート知ッタコッチャネェヨ、ソンデオレハ最悪ノゴ主人ヲ守ラニャナラント来タ、感謝シテモット良イ素材デ作リ替エテ更ニ美少女ニシロヨナ」
「……考えておこう」
現状、心強い援軍には違いない。アークは微笑し、改めて目前の人形達に向かい合った。
「誰だかは大方見当がつくが愚か者め、いくら記憶があろうとも、お前には真の経験は無い、覚悟しろ、見つけてコキ使ってやる」
「みみっちいな、お前……」
隣で剣を振るサイグの言葉を黙殺し、アークは自分が操れる限りの人形と、いつぶりともしれないが自分の肉体を使って応戦しだした。人形や吸血鬼の身体能力から繰り出される爪や牙による攻撃で人形達はそこら中に残骸を散らばらせていく。
「なんだかちょっと気持ちいいわね、ストレス解消に定期的にやってみない?」
「私は自分の人形が壊されるストレスで現在進行形で胃が痛んでいるがな!くそう、いくら一瞬で修復出来るよう壊していると言っても、限度があるわ!」
「そのままストレスで死んでくれたら万々歳なんだけど、吸血鬼がストレスで死ぬとか情けなさ過ぎるし、それで100年は笑ってあげるわよ?」
「お前が死んだら500年は話の種にしてやるからな!」
「お前達は良いよな不死身で!俺はあの巨大な人形の持ってる剣で叩きつぶされたら死ぬんだからな!」
文句を言うサイグだが、その手は確実に一撃で人形達を倒している。サイグは堕ちても英雄だし、それで能力が落ちたわけでは全くない。アークの作る人形程度なら、敵にもならないのだ。
「で、策はあるんだろうな吸血鬼!このままじゃ埒が開かないぞ!」
「少しは自分の頭で考えろ駄英雄!……と言いたいところだがある、そして実行中だ!」
「どういうことだ!?」
「何、簡単な話だ、人形には必ず操るための糸が繋がっている。それを辿っていけば私の人形を操る不届き者に辿り着くというわけさ」
「なるほどな、つまりお前にこのままついていけばいいわけだ、頼むぞ!」
「付いて行ってると背中から刺したくなるわね、刺しても良いかしら?」
「オ、良イナ、オレニモヤラセロヨ、ソレ」
相変わらず統率の取れない三人(と一体)だが、足並みだけは揃えて進み出した。
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