episode 【黒】編
どうせ兄貴には届かないから
気だるさを感じながら目を開けると、見慣れない天井が北斗を出迎えた。ゆっくりと体を起こしてすぐ「心配かけるな馬鹿北斗」とデコピンを額にお見舞いされた事で再びベッドに倒れ込んだ。ジンジンと痛みを訴える額を押さえながら、北斗は「何するんだよあず兄!」と異論をぶつけた。
「起きたならさっさと出て行け。保健室はサボり場じゃねぇんだ」
しっし、と虫を払うように手の甲を向けながら実の弟を追い出そうとする梓馬に、カーテンによって仕切られた隣のベッドから「先生酷いですよ」と女子生徒の声が聞こえた。
「お前は逆に寝とけ」
起き上がった女子生徒は乱れたうぐいす色の髪を高い位置で一本に括り、ピンク色の目を眠たげに擦りながら梓馬の机の隣に置いてあるコーヒーサーバーに向かった。梓馬が常日頃使っている青色のマグカップを手に、慣れた手付きでコーヒーを入れ始めた彼女に心配そうに眉を下げながら真心が駆け寄った。
「壬生先輩、もう大丈夫ですか?」
「えぇ、軽い貧血みたい。少し寝たら治ったわ。……それより白村さん、私の代わりに備品運んでくれてありがとうね」
私こう見えて力持ちなので、と力こぶを作るようなポーズを取って見せた真心に、壬生はクスクスと控えめな笑い声を漏らしながら「本当にありがとう」と再度謝罪を口にした。
壬生芽吹。銀塔・金敷らと同じ3年だが、実年齢は1つ上。体が弱く、頻繁に体調を崩しては学校を休む事が多かった彼女は出席日数が足りなかった事から留年している。
「ええっと、先生の弟さんの……北斗くん、だっけ? コーヒー飲む?」
「あ、えっと俺は……大丈夫です」
コーヒー飲めないのでと小声で呟いた北斗に、梓馬は壬生からマグカップを受け取りながら「おこちゃま」と鼻で笑った。苦い上に体を冷やし、飲み過ぎれば中毒にもなるコーヒーを美味い美味いと呷る梓馬と姉・里花の方が北斗からすれば異常に思えた。
「あず兄、兄貴は?」
ズッと音を立ててコーヒーを啜った後、梓馬はふぅっと息を漏らしながら開口した。
「【
内容はお前が一番分かっているだろう。そう言いたげな梓馬の目に北斗は力強く頷き、完全復帰とは言えない重い体を無理にでも動かし、目的地へ向かった。
「北斗、体はもういいのか」
【
「……兄さんから症状は聞いたか?」
「いや、一言も。起きたならさっさと出てけって追い出されて」
酷いよなと愚痴っぽく告げた北斗に、湊斗はたった一言「過労だ」と答えた。一瞬でその場が静まり返った。
「畑山くんの死、俺との喧嘩。赤星くんとの一件があった直後に今回だ。ストレスに耐え切れず、体が限界を迎えたんだろうと兄さんは話していた」
そこまで言い終えた後、湊斗はおもむろに北斗に向け深々と頭を下げた。額が床にくっつくスレスレの位置まで頭を下げる湊斗に、北斗は慌てて「兄貴のせいじゃないって」と弁明した。
「一緒に居たにも関わらず、こうなるまで何のフォローもしなかった俺の責任だ」
湊斗が握っているズボンの両膝に皺が寄った。眼鏡の隙間から見えたその目は自らを責め立てる怒りと後悔に染まり、キツく噛み締められた下唇からは血が滲んでいた。
「北斗は俺に言っていない事がある。……俺も、北斗に隠していた事があった。だからこの機会に一度、腹を割って話しておきたい」
「俺は兄貴に隠し事なんて」
「嘘を吐くな、北斗」
いつになく厳しい口調で退路を塞がれてしまい、北斗は言葉を詰まらせた。
「理事長が言っていた事、覚えているか。【
嗚呼、よく覚えている。きっとあの言葉はこれから数ヶ月、数年と経っても悔しさのあまり忘れる事はないだろう。
『【
実力を兼ね合わせてみたとしても、半分にも満たない』
『黒瀧湊斗が50だとすれば、黒瀧北斗は25。例え100になったとしても、脅威にはなり得ない』
「俺達が100にも、200にも満たない理由。……それがお互いに隠し事をしているのが原因なのではと俺は判断した。
北斗、お前は……」
続きの言葉を吐き出すのに、湊斗はかなりの時間を要した。
「金敷先輩、そして響くんに指摘された通りだろう。
……お前は、俺の事が嫌いだ」
今まで二度指摘されて来たその事に湊斗は初めて触れた。
『貴方も健気ね。
……本当は湊斗ちゃんの事なんて、好きでも何でもない癖に』
『お前、まだクソだせー片割れとつるんでんのかよ。嫌いな癖によくやるな』
「よりにもよって、俺よりあいつらの言葉信じるってのかよ!」
「違うというなら説明してみろ。……中学生の頃からだ。俺の事を“湊斗”と呼ばなくなったのは何故だ」
「今、中学の話なんて関係ないだろ!」
自分達は絡まった糸のようだと北斗は考えた。変なところで絡まって玉になって、それが解けないままお互いに足を引っ張り合っている。それを見なかった事にして“俺達は双子だから”とか“どうせ一緒にいるんだからいいんだ”と適当に理由を付けて、その問題を放棄し続けて来た。
「お前等、それじゃ話し合いじゃなくて喧嘩の二の舞だろ」
入り口から聞こえた仲裁の声に全員の視線が集中した。その姿を見てすぐ、北斗は「比与森」と声を上げ、真っ先に彼女の元へ駆け寄った。
「その、体調は……」
「あたしのすぐ後にぶっ倒れた奴に聞かれたくねーよ。……心配かけたな、もう大丈夫だ」
北斗の手に彼のイヤホンとスマートフォンを返しながら。比与森は【
「全員が無理に言う必要はない。言いたくない事もあるだろうし、タイミングもあると思う。
……けど、北斗と湊斗はここで一回お互いの隠し事とやらを清算しておくべきだ。じゃなきゃ、あたし達は一生他の色に勝てない。
……あたしの一件は、どうせ全員聞いちまったんだろ?」
「あ……ごめん、比与森。勝手に話して……」
あの局面で黙っておく方がおかしいだろと笑った比与森に北斗は小さく頷いた後、湊斗の隣に再び腰を下ろし、意を決したように「分かったよ」と答えた。
「超個人的な話だし、聞いても退屈だろうけど。……話すよ」
廊下からチラリと見えた【
こうやって改まって話す事ってなかなかないから、何から話していいか分からないけど。取り敢えず基本的な情報から話しておこうと思う。
2003年10月31日、俺と湊斗は生まれた。二卵性だから見た目も趣味も好き嫌いも全てが真逆だったけど、何故かいつも一緒に居た。多分2人で居る事が心地よかったんだと思う。
母さんが獣医、父さんが洋食屋を営んでいた関係でかなり忙しい人達だったけど、歳の離れたあず兄や姉貴が面倒を見てくれたし、俺にはいつも湊斗が居たから何も寂しくなかった。
インドア派で人付き合いが苦手で運動が得意じゃない湊斗を引っ張って、一緒に沢山の友達と遊ぶのが好きだった。湊斗には俺が居なきゃ駄目なんだって、子供の頃の俺はそう思い込んでいた。
両親や兄弟、従兄弟達は俺達の事を比べたりしなかった。けど、本家の婆ちゃんだけは違った。京都府神塚区にある白村家本家。江戸時代から町屋……今で言う薬屋を続けて来たらしく、地元じゃかなり名が知れているらしい。実際、親戚は医学関係の職に就いている人がほとんどだし、婆ちゃんは“子供も医者の道に進んで当然”って思ってる古臭い人だった。頭が硬い人って言えばいいのかな、だから俺はしょっちゅう婆ちゃんの的になったし、元々折り合いのよくない母さんがそれに反論して口喧嘩に発展するのは毎年恒例になりつつあった。
「湊斗には、梓馬には、里花には出来ているのにどうして北斗にだけ出来ないのか」
……当たり前じゃん。だって俺、湊斗でも梓馬でも里花でもない北斗だし。集中力がなく、物覚えが悪く、クラスでも九九を覚えられずに居残りをさせられ、テストは赤点ばっか。それが俺なのに婆ちゃんは湊斗や梓馬、里花を見習え、三人みたくなれって耳にタコが出来るくらいに言い続けた。……毎年お盆と年末年始はそのせいで苦痛だった。
でもそれ以上に比較されたのは学校でだ。
『湊斗くんまた満点だって、凄いよね』
『優しいお兄ちゃんが居てよかったね』
学年を追う毎に段々と積もり積もった不満が重なって、中学2年生の夏にそれは爆発した。
夏休みが近付いて来た頃、放課後に何日にもまたがって行う生徒との二者面談。俺は最終日の最後の枠だった。悩み事はないか、友達や家庭内でのトラブルはないか。そういったカウンセラーみたいな質問を投げられた後、話題は進路や成績について変わった。
『お前も兄貴を見習って少しくらい頑張ってみろ』
『黒瀧、このままじゃ行く学校ないぞ』
腹が立って、むしゃくしゃした感情が抑えられなかった。……俺だって頑張った。寝る間も惜しんで勉強して、何とか自己最高得点を取っても湊斗はいつも満天のテストを手に持っている。
……悔しかった。努力しても敵わない事はとっくに分かっていた。対抗意識や向上心が粉々になって壊れたのはもう何年も昔の話。もういいやって与えられた選択肢をへし折って頑張る事をやめても、周りは俺と兄貴を比較して「もう少し頑張れ」「見習え」って横槍を入れる。
それが鬱陶しくて堪らない。俺はもう不憫な思いをしたくないから努力をやめたのに。
『北斗、随分遅かったな』
担任の言葉を適当に誤魔化して帰ろうとした時、湊斗が玄関前で待っていた。約束した訳でもないのに律義だなと思う反面、今日は会いたくなかったなって自分勝手な事を考えた。
『その、うちの担任話長いからさ』
『嗚呼、基本的に説教くさいからな。俺も前、協調性がなんだと長話をされた』
協調なんて簡単だろと俺は思った。当たり障りのない質問から自分との共通点を見つけたら、それを一気に掘り下げる。そうすれば友達くらい1人や2人普通に出来るのに、湊斗はそれをしない。
『俺は全く真逆の事言われた。いくら運動が出来て友達が多くても、成績が一番だぞって。
……俺なりに頑張ったんだよ。でも、どれだけやったって上には湊斗が立ってる。教師も周りも皆、結果しか見てない! 誰も俺が努力した過程なんか見てくれない』
気が付いた時にはそんな棘のある言葉が口から飛び出していた。言いたくないのに、口はこれまで抱えて来た鬱憤を晴らすように動き出した。
『北斗、俺は……』
『湊斗と双子じゃなきゃ、こんなに比べられなかった! 湊斗なんか大嫌いだ!』
その時の湊斗の顔をよく覚えている。驚いたように目を見開いて、酷く傷付いた顔をしていた。すぐに謝る事も出来ないまま、俺は黙ってその場から走り去る事しか出来なかった。
2017.08.13
天気は晴れ。コバルトブルー色の空に入道雲がもくもくと広がっていて、時折吹く生ぬるい風が風鈴を揺らした。蝉がけたたましく鳴き騒ぐ中、縁側に不貞腐れながら寝転がって居れば、庭からししおどしの音が規則的に鳴り響いていた。
「聞いたぞ北斗、湊斗に暴言吐いたんだって?」
スイカが大量に並べられた皿を手に歩み寄って来た京兄ちゃんに、俺は「関係ない」と呟いてそっぽを向いた。あれから変にへそを曲げて湊斗と一切口を聞かないまま、中学2年の夏休みに反抗期を駆け抜けていた俺へ京兄ちゃんはやれやれと言いながら隣に座って、スイカの乗った皿を差し出しながら「ほら、叔母さんから」と声を掛けた。いらないと言えば兄ちゃんは「折角持って来たのに」「俺は嫌いだから食わねぇし」と困ったように呟いていた。
アメリカの大学に留学して半年も経過しない内、兄ちゃんは本家の墓参りと言う名目で帰国して来た。アメリカから羽田、そこから新大阪と飛行機を乗り継ぎ、電車で神塚まで来た京兄ちゃんは時差ボケのせいか凄く眠そうな顔をしていた。癖の多い黒髪は耳の上でスッキリ短く切り揃えられていて、爽やかな印象を覚えた。
「湊斗に何言ったんだ、お前」
「……湊斗が兄貴じゃなきゃよかったとか、そういうの言っただけ」
正直に暴露した直後、脳天に手刀が振り下ろされた。あず兄程じゃないけどかなり痛かった。何するんだよって反論した俺の口にスイカを押し付けて京兄ちゃんは言った。
「本音だろうと、心にも思ってない事だろうと関係なしに謝って来い。……後から死ぬ程後悔する前に」
京兄ちゃんの言葉には妙な説得力があった。鬼のように険しい顔をしていたからかもしれない。
「俺、思ってる事言っただけだもん」
口に押し付けられたスイカを一口齧ってみれば、シャリシャリとかき氷のような食感が口内に広がった。まさに夏の風物詩。これが嫌いだなんて京兄ちゃんは損しているなと思ったけど「瓜系の匂いと食感が嫌い」と言うから仕方ない。俺もナスの食感と匂いが嫌いだから気持ちはよく分かった。
「お前は酸っぱいブドウの狐だな。……いや、風船見上げる子供か」
思わず京兄ちゃんの事を睨み付けてしまった。ただ、京兄ちゃんは気にする様子もないまま話を続ける。
「覚えてるか、お前がまだこんくらいのガキんちょだった頃」
そう言って京兄ちゃんは親指と人差し指を近付け、ビー玉が入るぐらいの大きさにまで狭めた。その大きさじゃまだ原型ない頃じゃんとすかさずツッコミを入れれば、兄ちゃんは冗談だと笑って「こんくらい」と言いながら自分の膝辺りの高さに手を翳して見せた。
「何かのイベントで貰った風船、車から降りる時に手離して飛んでったんだよ。……てっきり泣き喚くんだろうなって思ってたらお前、黙ってそれ見上げて諦めた顔してた」
嗚呼、そう言えばそんな事もあったなと俺は京兄ちゃんに言われてからようやく思い出していた。
「それ見て思ったんだよ。嗚呼こいつ、将来狐みたいな男になっちまうなって」
食べたかったブドウはきっと酸っぱいものだと決めつけて諦めた狐。それは確かにまごう事なく俺だった。どうせ兄貴には届かないからと手を伸ばす事を諦め、ただ黙って風船を見上げる。京兄ちゃんの言葉はあまりに的を射ていて、俺は返す言葉もなかった。
「まだ中学生だろ? 焦る必要はない。お前の中で折り合いがつくまで問題は保留にしておけばいい」
京兄ちゃんはいつだって俺の欲しい言葉をくれ、導いてくれた。この時もそうだった。喧嘩なんてした事がなくて、謝り方が分からないまま不貞腐れていた俺達に手を差し伸べてくれる。俺にとって京兄ちゃんは神様みたいな人だった。
京兄ちゃんすげぇと褒めちぎれば「まぁな」と少し得意げな顔をしていた。
「京兄ちゃんにも同じような経験あるの?」
「……そうだな。血は繋がってないけど、兄弟みたいに育った奴が居た」
俺が覚えている限り、京兄ちゃんはあまり自分の事を離さなかった。話したとしても精々好き嫌いとか陸上の事ばかりで、友達の事について多くは語らなかった。実際、俺は凪紗に聞くまで幼馴染が居る事すら知らなかったし。
「ヘンジンキマグレ星の宇宙人がこうして人間になれたのは、そいつのお陰だったよ」
京兄ちゃんはゆっくりと立ち上がって、庭に咲き誇る花を見て怪訝そうに目を細めた。
「……その代わり、普通にはなれなかった」
ポツリと呟いた京兄ちゃんの横顔に俺は思わず立ち上がった。簡単に人を殺してしまえそうな残忍な顔をしていた。けどそれも一瞬の事で、チラリと俺に目を向けた後、京兄ちゃんは何事もなかったかのようにいつも通りの笑顔を浮かべた。
「ほら、俺も一緒に謝りに行ってやるから。さっさと仲直りして2人でスイカ食え」
……俺は湊斗の事が嫌いだった。
頭の良さを決して鼻に掛けない湊斗が。いつも俺の事ばかり優先して、自分の事は二の次にして本音を言ってくれない湊斗が。自分が何も関係なくても、俺が叱られている時「止めなかった自分が悪かった」と代わりに頭を下げる優しい湊斗の事が大嫌いで、大好きだった。
湊斗が根っからの悪い奴なら心から嫌いになれたのに、それが出来なかった。
……だから俺は京兄ちゃんの言う通り、自分の中で折り合いがつくまで問題を保留にした。
「その、この前は言い過ぎた。……ごめん、“兄貴”」
問題への答えも、自分の中での折り合いも未だについていない。理事長の言っていた言葉が今なら身に沁みる。きっと俺達が100にも200にもなれていないのは、俺が弱いせいだ。曖昧なまま、ずっとくすぶってるせいだ。
「あー……その、長くて退屈だっただろ?」
静まり返った面々に北斗は慌ててそう声を掛け、気まずい沈黙を埋めるように再び開口した。
「えっと、それからはなかなか上手く行かなくて。運動とか歌とか、自分の得意なもので頑張ろうとしたけど、どれも他の従兄弟達の方が上で。
……これだって取り柄が見つけられないままだった時、ギターに会った。人生が180度変わったと思った。ギターなら兄貴達も、他の従兄弟達もやってない。それが俺の取り柄だって誇れるくらいに頑張ったんだ。
……響が居なくなって、比与森が出来なくなって、慶が死んでも。……俺だけは、バンドデビューしようって夢を諦めちゃいけないなって、思ったんだけど」
ポタッと音を立てて、北斗の手の甲に何かが落ちた。
「でも、分からなくなって来た。防衛軍も異端者も間違っていると思ったからこそ、慶の言った共存の道が正しいと思った」
異端者と共存する道を作って欲しい。畑山の言葉は一言一句間違える事なく、今も脳裏に刻まれている。
「慶は異端者を……響を憎むなって言った」
友人が死に際に託した言葉だ。それに報いたい、叶えてやりたいと思う。だが破壊の異端者・ゴウと響の顔を思い浮かべた瞬間、強い拒絶反応が北斗を襲った。銃口を頭に突き付け、顔の原型がなくなるまで殴ってやりたい。大切な友人を傷付けられた分。同じように報復してやりたいと思う。
言わば白と黒の狭間、灰色の場所に北斗は立っていた。その結果、銀塔の言う通り余計に縛られてくすぶっていた現状。そこは深海のように暗く、空気が薄い。
「殺しても罪にならないとか、徹底的な差別をする防衛軍も罪のない人を巻き込んで傷付ける異端者も間違っている。けどだからって、異端者全員を赦していい理由にはならない」
すっかり迷宮入りしてしまった自らの思考回路に項垂れてしまった北斗に手を差し伸べたのは、湊斗だった。いつものように優しく肩を叩き、湊斗は開口した。
「言いづらい事を言わせてしまったな。だが、北斗の口から直接聞けて良かった」
ふんわりと花が咲いたように笑う顔は母によく似ている。北斗を気遣う言葉を掛ける兄に、止まりかけていた涙がまたボロボロと溢れ出した。袖口でそれを必死に拭う北斗にハンカチを差し出しながら、湊斗は全員に深々と一礼をした。
「先程は戦力になれずすまなかった。香深の事について聞いてくれれば嬉しい。きっと北斗と俺達【
そんな前置きの後、彼は重い口を割った。
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