第9話 始まり
「ただいま」
いつものようにドアを閉めた後に静かに布団にいる少女―――リズに声をかける。
誰かが入っているだろう膨らんだ布団は微動だにしない。
不思議に思い、静かに布団を捲ると涙のあとが残る顔でリズは寝ていた。
これから必要な手続きの概要や今かける書類を色々片付けていたら夕方になっていた。
夕飯はコンビニで買ってきたから静かに布団をかけ直すと部屋着に着替え始めた。
「お兄ちゃん……?」
着替えはリズに背を向けてしてる。
背中から小さく女の子の声がした。
上着を脱いだタイミングだったけれど、びっくりして振り向く。
リズが四つん這いで僕を見ていた。
「お兄……ちゃん!!」
「わっ、へっ!?」
上半身裸体の僕にリズが抱きついてきた。
肩を揺らしながら嗚咽を上げている。涙が僕の身体を伝う。
「よしよし、大丈夫だよ。怖くないよ」
泣き止みそうにないし、僕は寒くて風邪をひきそうだからそのまま上だけ部屋着を着て離れないリズを抱いてソファーベッドに座る。
「夢、見た……っひっく、こわ、い……夢っ」
あぐらをかいた僕の股の間に座り、子供が親に抱きつくように僕の胸に顔を押し当てる。
背中に回された手は固く僕の服を掴んでいた。
「お兄ちゃんが、守って……っ、れたのに、私は何も、出来なくてっひっく、ひっく……」
リズが見た夢は過去の記憶だろう。
リズが言っているお兄ちゃんは僕のこと、なんだろうな。
その記憶が欠乏している僕はとても不思議な気持ちがした。僕なんだろうけど、僕には記憶がないもどかしさ……虚しさって言えばいいのかな。
結局、この晩はリズが泣き疲れて深い眠りにつくまで話はおろか、シャワーやご飯も諦めざるを得なくて、僕も一緒に寝た。
物音に目を覚ますと
背中の痣、傷跡が夢の中のお兄ちゃんとかぶる。
「お兄ちゃん」
無意識だった。居なくなったと思っていたお兄ちゃんが目の前にいる。
本人かどうか分からないけど私は「お兄ちゃん」と言って泣きついていた。
溜まっていたものが一気に吹き出すように私は声を上げて泣いた。
絶対離さない。離れない。私がお兄ちゃんを守りたい。私を守ってくれたお兄ちゃんを。
そのまま寝てしまったようで、気がつくと朝だった。
いつものようにソファーを広くして同じ布団で
沢山泣いたからまぶたが腫れて、あまり目を開けることが出来ない。
目を閉じていても隣に感じる
私が
本当にお兄ちゃんだった。また、泣いた。
手続きが大変、って聞いたけど、警察官に会ったり病院で診断してもらったり、色んな大人の人に会って怖かった。
でも、お兄ちゃんは仕事を夜に切り替えてずっとそばにいてくれた。
お兄ちゃんの親友として
「段々、焦らず慣れていけばいいさ」
どうして私がお兄ちゃんの居場所を知ったのか分からない。
けど、怒鳴られることも殴られることもない場所でお兄ちゃんと暮らせることが嬉しかった。
私と僕 りあ @raral_R
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