第7話 始まり 夢
いつまでいるのか、とか名前とか、そういうことは全く聞かなかった。
「言いたくなったら言って。僕はいつでも聞くよ」
そう言って昼間は朝から仕事に出かけて夜は一緒にご飯を食べてシャワーを浴びて寝た。
日中の開店と夜の開店があるお店らしくて、夜はそう言う大人向けのメニューもあるけど
時々、夜の接客に入っても大人向けのサービスは受けてなくてお話するだけらしい。
喫茶が、どんなものかよく分からなかったけど、スマートフォンで画像を見せてくれた。
可愛い家具で統一された店内は物語の中の様だった。
何もしないと追い出される気がして、怖くて、
どうして
追い出されるかもしれない。怒鳴られるかもしれない。痛い思いをさせられるかもしれない。
私は心のどこかでいつも怯えて布団を手放せなかった。
朝起きると全身がダルくて動けない、物事を考えられない日もあった。
それでも
結局、私は1度も声を発していない。
声が出ないのか分からないけれど、出すという気が起きない。
だんだん、私は何でここにいるんだろう。何のために存在しているんだろう。と思うようになってきた。
それでもここを出ていくという選択肢はなくて悶々としていた。
そんな気持ちを抱えるのは一人でいる時だけで
男女のヒステリックな怒声が飛び交う。
私は怖くて怖くて部屋の隅で膝を抱える。
誰かが私を守るように抱きしめてくれている。
――― お兄ちゃん
叫んでいた男がお兄ちゃんの腕を掴むと壁に投げつける。
すると私に向かって思い切り平手打ちをするために手を振りあげていた。
ガバッと勢いよく目を覚ます。
息が乱れている。身体中汗だらけ。全身が震えている。
すぐに辺りを見回して男がいないことを確認する。
机の上に置いてあるお茶を震える手で飲む。
書き置きが置いてあった。
『出かけてきます。夜には戻るね。 来海』
私は早く
怖かった。イヤホンをして布団を頭からかぶる。いつあの男女がやって来るかわからない。
お兄ちゃん……。
混乱した頭で私は自分が涙を流し続けていることにも気がつかなかった。
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