第6話 始まり 手探り
「ただいま」
ドアを閉めると少女は布団の中にいた。
涙を流していた。
隣に座って静かに問う。
「痛い?」
少女は涙をポロポロと流しながらも首を傾げる。
「そっか、よく分からないか」
薄いガラスに触れるように静かに頭を撫でる。
様子を見ながら慎重に。2、3度撫でて雰囲気が硬いままなので手を離す。
少女は安心したように息を吐き出した気がした。
頭を触れられるのが苦手、と。
脳内にメモをする。
洗濯物が溜まっていたことを思い出し立ち上がる。
少女がビクッとした。
「びっくりさせちゃった?コインランドリーに洗濯しに行こうかと思って」
安心させるように笑みを浮かべる。
「さっき、友達と会ってきたんだけど、今日は天気がいいね。この部屋は日当たり最低だから分からないと思うけど、とても日差しが暖かかったんだ」
静かに話しながら大きな袋に洗濯物を詰めていく。
「夕飯もコンビニで買ってくるけどなにか欲しいものある?」
少女を見やると首を横に振っていた。
「分かった、それじゃあ適当に買ってくるね。またお留守番お願いするけど、寂しくないかな?」
荷物を玄関に置くと少女の隣にしゃがんで問いかける。
少女は布団を頭まで被って頷いた。
いつも目を見て首を振っていたのに、今回は目を隠して首を振った。おそらく、嘘だろう。
「うん。出来るだけ早く帰ってくるから安心して」
布団の上から優しく抱きしめる。
少女の身体が強ばってるのがわかる。
ゆっくり離れると、行ってきます、とドアと鍵を閉めた。
コインランドリーでの待ち時間に隣のコンビニで適当なものを買う。
念のため生理用品も必要かな。
2Lのスポーツドリンクと、1Lのパックのココア、スイーツに二種類と洋食と和食のお弁当を買った。
コインランドリーの適当な椅子に座る。
洗剤のいい香りがして僕は好きだ。
昨日、少女は雑炊をお茶碗1杯は食べていたし、昼に食べて、と残していた雑炊も無くなっていた。
僕が食べてと言ったから従ったのか、自発的に食べたのか分からないけど物が食べられるならひとまず安心だろう。
昨夜、イヤホンを少女に貸していたから少し不眠気味。
あの部屋は夜になると、営みの声が聞こえてくる。
自分に性欲がないこと、恋愛感情がないことをおかしいと思って悩んでいた時期もあった。
けれど、
お店用の服は柔軟剤シートを使って乾燥機にかける。
その間にコンビニで買ったものと脱水された洗濯物を1度部屋に持ち帰る。
少女は場所はそのままに僕の服を眺めていた。
台所のシンクには二人分の容器と箸が洗われた状態で置いてあった。
「ありがとう、食器、洗ってくれたの?」
そう言って、1度だけ優しく頭を撫でる。
少女は頷いた。
「まだ乾燥機にかけてる服があるからすぐ戻るよ」
そう言いながらシワになりやすい生地の洗濯物は伸ばしてソファーベッドの上のカーテンレールにつけた洗濯バサミ付の物干しに干していく。
この開けるとすぐ隣のビルの壁の窓は凸凹と半透明になっていてカーテンが無くても外から中を見ることは出来ない。
部屋の湿気が上がったな、と思いつつ、乾燥機の服を取りに行く。
「嫌いじゃなかったらココア飲んでていいからね」
そう言うとまたドアを閉める。
乾燥機から服を持って戻ると少女はコップにココアを注いで少し飲んだようだった。
乾燥機から持ってきた服を部屋のハンガーに掛けると部屋に柔軟剤の香りが広がった。
少女は物珍しいようでクンクンと嗅いでいた。
こんな生活で数日過ごし、
一言も喋らない少女とはほんの少し距離が縮まっていたので、どんな情報なのか焦る気持ちを抑えていつもの場所にコーヒーを2つ持って向かった。
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