第5話 始まり 親友にして信友

「お前、何の話かと思えば……!!」

 見知った彼は声をあげて笑う。

 誰にも聞かれたくない話だったからカフェではなく、彼の車の中で聞いて貰った。


 待ち合わせ場所にコンビニで買ったコーヒーを2つ持って待っていると馴染んだ車と男性が来た。

 助手席に乗るとブラックコーヒーを好む相手にコーヒーだけ渡して、自分は既に砂糖とミルクが入っているコーヒーを口にした。

 寒空の下、晴れているとはいえ冬の風は冷たい。

 冷えきった身体に温かいコーヒーが染みる。


「んで、お前はどうしたいんだ?」

 康介コウスケはシートを倒し楽な姿勢になるとコーヒーを揺らしながら僕を見る。

 改造車なので車のシートは革張りのフカフカのソファーのように座り心地がいい。

 僕も身体をシートに預け考える。


 自分だけで抱えられない問題は他の信頼できる人に聞いてもらいなさい。

 僕を助けてくれた、康介コウスケの亡き祖父の言葉だ。

 人間不信だった僕はなんでも自分で抱え込んでいた。人に事情を話すことに抵抗を感じていたし、助けを求めることも出来なかった。

 もし、裏切られたら……。

 僕は怖くて自分を守るために自分を苦しめていた。


 康介コウスケは幼い頃の両親の他界や遺産相続のストレスを経験しているものの、休養やセラピーで克服していた。

 今は法律関連の大学の学部に通っている。


 2年程、一緒に生活していた僕と康介コウスケは時にぶつかり合いながらも何でも話せる仲になっていた。

 それは問題は違えど幼少期に心に傷を負った2人が将来、互いに助け合える仲になってほしいという、康介コウスケの祖父の願いだったのかもしれない。


「僕は、彼女を両親の元に返したくないし施設にも入れたくない……かと言って、僕に生活の余裕があるわけでもないし……」

「ふぅん……。来海ラウはその子に性的感情は無いわけ?」

 康介コウスケはズバズバと切り込んでくる。それは昔からだし、頭の中で考えがゴチャゴチャになってしまう僕には有難かった。

「無い、ね。元々性欲とか少ないし」

「自慰も暫くしてないんだろ?ぜってぇー使いもんにならないよな、お前の」

 あはは、と苦笑を返す。

 僕は性別についてあやふやな所にいる。

 身体は男だけれど、女性の服を着ることに違和感はないし、男は外で稼ぐ!なんて考えもない。かといって、専業主夫も違う気がする。

 結果、気分で男性の服を来たり女性の服を着たりしているし、接客は苦手だけど、今、働いている女装喫茶&barの居心地がいい。


「まぁ、そういうことなら数日時間をくれよ。なんか情報持ってきてやる。それまでせいぜい女の子を保護してることがバレないように過ごせよ」

 康介コウスケはコーヒーを一気飲みする。

 ありがとう、そう力なく微笑むと康介コウスケはニッと笑った。

 1人で抱えていた問題をシェアしたら、肩の荷がおりた気分だった。

 また、自分を苦しめていたんだな。でも早めに康介コウスケに言えたから成長したな、僕。


「んじゃ、家まで送っていくぜ」

 康介コウスケの車に乗せられている間、互いの近況を話す。

 と、言っても僕の働いてるお店の常連でもあるから月に2回は話をしている。

「今度、お店に来てくれたらサービスするよ」

「おぅ、後、女の子の写真送ってくれ。手がかりになるかもしれないからよ。女の子関係で必要なものがあれば言えよ、来海クルミちゃん」

 敢えてお店での名前を呼んで茶化してくる。

 分かった、とドアを静かに閉めて車を見送る。

 腕時計を見ると15時だった。

 部屋に帰ってなにかするか…。


 僕は少女がいるであろう自分の部屋に向かった。

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