第19話 出発

ピンクをベースとした広い部屋に

1人の少女が横になっている


「どうだい??少しは馴染んだかな」


少女に声をかけるのは中年の男性


「えぇ…最初はどうなるかと思ったけど、今はもう拒絶反応もないわ」


少女の右腕には金色の義手が取り付けられていた


「そうかい、それは良かった。心を込めて造った甲斐があったよ」


ニッコリと笑う男性


「そんな事思ってないくせに…どうせ実験の一環でしょ」


「心外だなぁ…私だって人間だよ??」


「人間は人間でもじゃない」


そう、この男性こそ

限られた者の1人に選ばれた才能を持つ人間


「何をそんなにツンツンしているんだい??」


男性は少女に問う


「気に食わないの」


ポツリ、ポツリと少女は話し出す


「急に出てきたクセに、闇堕ちを恐れず主を護るだなんて」


「従者とはそう言うモノなんじゃないのかい??」


「ムカつくのよ!!!!あの子にあんなに従順な従者が居ることが!!!!」


少女は嫉妬をしていた

自分は1人なのに、彼女には少なからず3人の従者がいる


「私だって仲間の1人や2人欲しい」


本音だった

今までずっと1人だった少女

護り、護られの関係が少し羨ましかった


「仲間ならすぐ造ってあげられるけど??」


「そう言う意味じゃない!!!!」


プイっと男性から視線を外し

窓の外を見る

そこには自由に空を飛んでいる鳥達がいた


「気に食わない」


そう言うと窓ガラスが割れ

少女が投げたであろう小型短刀ナイフが鳥達に刺さり落ちていく


「これまた随分とご機嫌ナナメなようだ」


男性は軽くため息をつくと

いとも簡単に割れた窓を修復した


「その力便利ね。なに壊しても大丈夫そう」


なんてイタズラをする子供のように言う


「そう何度もやられたら、老体には辛いよ」


男性はニッコリと笑う


「嘘ばっかり」


「そう言えば君が動けなくなったから代わりを使ったよ」


男性はメガネをクイっと上げる


「なるべく殺さずに連れてくるよういったのだけれど、少し不安だ」


「あら、あの人は切り札かと思ったのに」


少女は意外とでも言うようだ


「いい加減、時間がなくてね」


メガネが怪しく光る







「では、ルイ頼めますか??」


『任せて!!』


ルビカーフィンは動力源にソッと手を当てる


「にしても、魔導車って初めて見るけど…荷馬車のようだなぁ」


『今回は少し遠いのでこのような形のものにしました。万が一、街や宿が無かった場合

野宿するわけにもいきませんしね』


やはりコウは先を見て行動をするのが得意なようだ


「でもこれどうやって動くんだ??馬が引っ張る訳でもねぇみたいだし」


イキも初めてのようだ


「ルイが全ての事を行います。

とは言っても、波動の供給と目的地までの道のりを動力源に入れるだけですけどね」


指をさしながら説明してくれる


「あとは放っておけば着くのか??」


「そうですね。ですが魔導車は大量に波動を使うので何かあれば僕達だけで動く事になるかもしれません」


心配そうにルビカーフィンを見つめる


「だーい丈夫よ!!あたし達で護れば良いだけの話じゃない!!」


どこからかひょっこりとリウが現れる


「護る…か」


この中でただ1人、従者ではないイキは

"護る"

と言う言葉に反応する


「貴方は貴方が出来る事をすればいいのよ??」


リウが見透かしたように声をかける


「分かってるよ」


見透かされたのが気に触ったのか、少々不機嫌になる


『みんなー!!準備できたよー!!』


「はぁーい!!」


リウがルビカーフィンの元へ行く


「イキ…これを」


差し出されたのは小さなクナイだった

コウが戦闘の時によく使っているモノだ


「護身用でも良いので持っていて下さい。役立つはずです」


「…分かった」


クナイを受け取り魔導車へと向かう


「コウってばホントに心配性だなぁ」


ユウが少しからかうように言う


「彼は従者ではない。護らなければ」


真面目に答えるコウ


「あいつはそんなことして欲しくないと思うぜ 」


「ですが…」


コウが何かを言おうとすると


「ほらほらー!!!!2人ともー!!

置いてっちゃうわよー!!!!」


リウの言葉が2人の会話を遮る


「今行きます。……ですがもう失う事はしたくありませんから」


それだけ言うと魔導車へと歩いて行く


「俺も古参じゃないから今まで2人に何があったかは知らないけどさ」


どことなく寂しげなユウ


「早く来いよ」


「今行くー!!」


イキに呼ばれユウも魔導車へと向かうのだった。

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