第20話 護衛任務1日目(前編)

「じゃあ、今日からよろしく頼む」


「こちらこそよろしくお願いします」


ラナさんに善悪(本当は潜在力の強さだが真城達は知らない)を判断してもらった翌日、依頼であるリーゼルさんの護衛をはじめるところだ。

うちの女の子達はラナさんと話で盛り上がっているようだがどんな話なんだろうか。

俺が挨拶を済ませたところで例のメイドさんがやって来た。


「こんにちは、リーゼル様の護衛兼メイドであるアミナ・ササナリです。実はお伝えしておかなければならない事が」


「え、あ、はい。なんでしょうか」

急にどうしたんだろうか。


「実は今回護衛の依頼を出したのには訳があるのです。今から話す事はメイドしか知りません。ですからリーゼル様にもどうか内密に」


「わ、わかりました。でも、何で俺に?」


「真城さんはイージスのリーダーですから。早速ですが、理由をお教えします。今回、リーゼル様が帝都に向かわれる理由は悪徳貴族の不正や賄賂などの記録を皇帝閣下にお伝えするため。ですが、この情報が漏れたかもしれないのです」


「えっ!それって」

悪徳貴族にバレたかもしれないと言う事か?


「ええ、恐らくあの者達は傭兵かテイマーを使って襲って来る可能性があります。つまり、人を斬る事になるかもしれません。この事は真城さんからイージスの皆さんにお伝えして下さい。あなたから言った方が良いかもしれませんから」


「なるほど、わかりました。では伝えておきます」


「では、リーゼル様の護衛、よろしくお願いいたします。あ、後もう一人この護衛に参加する人がいらっしゃいますので喧嘩をなさらないで下さい。では、私はこれで」


人を斬る、か。実際この世界において山賊や殺し屋など町から離れれば普通にいるものだ。身を守る為ならどんな事でもして良いらしい。しかし、日本からやって来た俺にとって、そうそう受け入れられる事ではない。

そんなことがない事を祈るまでだな。

神様に。ん?そう言えばあの神様、急に俺をこの世界に送ったわりには本当に何もしてこないな。

今頃、一体何をしているんだ?あの神様は。


「真城〜!そろそろ出発するわよ〜!」


「はいよ〜!」


今考えても仕方ないか。とにかく、今は目の前の色んな出来事を受け入れていく事が大切だな。

そんなことを考えながら俺達が乗る竜車に乗り込み、帝都へと出発した。


竜車の中には俺達以外に一人護衛の仲間がいた。

一応、挨拶しとくか。5日の旅だしな。


「あの〜これからよろしくお願いします」


「あ、こちらこそ。って真城さんじゃないですか」


「かえりん!かえりんもリーゼルさんの護衛だったのか!」


「あなたこそ。と言うことは私以外みんなイージスの皆さんだったんですか!?」


「え、ええ。そうよ」

「かえりんさんがどうしてリーゼルさんの護衛のクエストを受けているんですか?」

「実はかえりんは真城の事がほおっておけなくて付いてきた、もしくは我の弟子になりたいのか?」


「ちちち違いますよ!わ、私がそんなことする訳ないじゃないですか〜。私がこのクエストを受けているのはアナマス家が好きだからですよ!」


「おー。かえりんもアナマス家が好きなのか。そんなに人気なんだな、アナマス家」


「庶民に優しく、強くて、謙虚。もう、理想の貴族じゃないですか。ただでさえ、貴族の領地であんなに賑やかで楽しいところって少ないのに、アナマス家の町であるアンサビは治安も良いし、冒険者にとっては狩りやすいモンスターの宝庫だし交通の要所で経済的にも豊か。もう桃源郷ですよ」


どんだけ理想の町なんだよ!

でも、確かサリナとミイナが連れ去られて行くところに俺が助けに、というよりペンダントの力で助けたんだよな。

やっぱりいくら治安が良くても多少はああいう事があるものなんだ。


「私達はアンサビの話を聞いたからやって来たのよ。なのに来てから早速あれだもの。ついてないわ」

「まあまあ、お姉ちゃん。あれもアンサビだからこそ、あれだけて済んだんだよ。他の領地の町だったらどうなっていたことか」


確かにそうだ。治安が良くて連れ去られるなら、治安が悪い町だったら・・・想像もしたくないが最悪の場合、殺されるだろう。

想像通りの異世界だが、少し手直しをしてやりたい。

なんてことは願望だな。


「・・・しろ、真城?」


「あ、ごめん。どうした?」


「今日はうわの空が多いぞ?大丈夫か?」


「色々思うことがあってな。心配したか?」


「なわけないだろ!?まったく。それより、魔力探知を発動しておいて欲しい。町からかなり離れたしそろそろモンスターが現れてもいいころだ」


「そうか、分かった」


魔力探知を発動して確認すると遠くにはモンスターの反応があるがこれと言って危険はなさそうだ。

魔力探知は魔力消費量も少ないしこのまま持続発動しておこう。


「今のところ近くにはモンスターはいないようだ。一番近くても500mは離れてる」


「なら大丈夫そうね」

「このまま宿泊予定地まで行きましょう」

「よっしゃー!飛ばせー!」


いやいや、飛ばしたらダメだろ。

後ろにリーゼルさんの竜車があるし。


それから2時間何も無かった。

竜車の中では、ガールズトークが盛り上がっていてとても居ずらかった。俺は竜車の屋根の上の荷物置きに移動し、寝っ転がって空を見上げ、ぼーっとしていた。しっかり柵があるので落ちる事はない。しかも、防風結晶というそよ風程度の風しか入ってこない結界がはられていたのでかなり快適だった。

たまにはこういう事も良いな。


「真城さん。そろそろ休憩しませんと竜が潰れてしまうかも知れません」


竜車を操っていた運転手さんが伝えて来た。


「そうですか。じゃあそうしましょう」


「ありがとうございます」


そういうと竜車を道の端に移動させて止まった。


「真城〜?どこいったのよ〜」


サリナが俺を探している。

上だよ、上。

そう言えば、サリナってよく話してくれるよな。まあ、3人の中でリーダーシップはある方だからな。ああいうのは先生になったら人気が出るかもしれないな。


「真城さん、どこに行ったのでしょうか」


ミイナも来た。

ミイナは大人しいけど、知識面で頼りになる。いざという時に知識をフル活用してくれそうだ。


「何をしているんだ?こんな所で」


スミレが俺の隣で寝っ転がっていた。

いつの間に・・・

スミレは中二病だがまあ役に立つし、頼りにはなる。


「竜車の中は女子トーク1色で居場所がないからな」


「そんなことか。別に話を聞いていても良かったのだぞ?至って普通の話だったしな」


「そうだったか?まあ、のんびり出来たし。で、そっちは何のようだ?」


「我も特に用はない。ただ特にすることも無いからな。こうして空を見上げに来たんだ」


「なるほどな。それにしても、先週より楽で良いなこのクエスト」


「我としては、もう少し刺激が欲しいものだがな。でも、悪くない」


護衛が仕事なのにこれでいいんだろうか。

ま、護衛ってのは働かないに越したことはないからな。たぶん。


そんな、のんびりしているのもそう長くは続かない。

「ん?モンスターがこっちに向かって来ているな。仕方ないやるか。おーい、サリナ、ミイナ!モンスターがこっちに向かって来てるから片付けに行くぞー!ほら、スミレも立って行くぞ」


「真城、あんたなんてところ居んのよ。分かったわー!」

「どっちの方向ですか!?」


「えぇっと、ここから北東だ!」


「よし、モンスター共を蹴散らしてくれるわ!」


どうやらスミレは戦いを求めていたご様子ですね。


「一応、かえりんはリーゼルさん達を守っていてくれ」


「はい、わかりました。気をつけてくださいね」


「分かった。みんな、行くぞ!」


それから相手モンスターの進行方向に注意しながら向かって行く。


「この足音からするとオークかしらね」

「周りにコボルトもいますね」

とサリナとミイナが足音でモンスターを聞き分け報告してくる。

まだ150mくらいあるのに、足音だけでモンスターを聞き分けるって凄いな。


「かなり密集して移動しているな。魔法で一気に処理出来ないか?」


「出来ます。やりますか?」


「やろう。ミイナとスミレと俺でやろう。サリナは今回はお預けな」


「えー。まあ、仕方ないわ。私は生き残りを片付けるわね」


「頼む。じゃあ、範囲魔法をするぞ。3、2、1、ファイアーストーム!」

「アイスレイン!」

「来たれ雷光、サンダーコンボ!」


遠くで、火柱や氷の矢、雷が連続で落ち、爆風が身体に痺れる。ものすごい爆風だったんですけど。クレーターが出来てそうだ。


ちなみに魔法は相手がどの辺にいるのか分かっていれば、魔法を発動させると勝手に相手を攻撃する。つまり自分の探知できる範囲が魔法の射程という事だから、探知範囲が広ければ広いほど射程も長くなる。

さっきのリンチ魔法攻撃の残りは・・・残り2匹か。


「サリナ、あと2匹残ってるから片付けて来てもらえるか?」


「ええ、分かったわ。真城達はのんびり来なさい」


そう言ってサリナが木々を伝ってモンスターの残党処理にいった。

そして着いた頃には丸焦げ死体や冷凍されたり感電死した死体が転がっていた。

丸焦げはコボルトだけだが・・・

くそー、ランク1じゃあこんなもんか。もっとランクを上げないとな。


「ほら、さっさと剥ぎ取って帰るわよ。あ、スミレ!そのコボルトの短剣持ってちょうだい。二短剣術をおぼえたいから」


オークもコボルトもたまにだがレア武器を持っている場合がある。しっかり物色しとかないとな。


「なんだこれ?」


言ったそばから謎の片手剣発見である。

紅色で刀身部には謎の文字が刻まれている。

古代文字かな?

斬れ味はどうなんだろうか。

試しにオークの死体を斬ってみる。

スパッ。

あれ?斬ったあとが無い。確かに切れたんだけどな。木を斬ってみるか。

スパッ。

やっぱり、切れたはずなんだけどな。そう思いながら切ったはずの木にもたれかかると。


「うわっ!」

木が急に倒れた。

切れた断面をよくみると。綺麗にまるでプラスチックで出来た木の作り物みたいに切れていた。

って言うことは。オークの切った部分を蹴ってみると。これまた綺麗切れていた。

なんて斬れ味だ。

「驚いたか?」


「ああ、こんな斬れ味の剣がある・・・ん?今どこから?」


「手の上だよ。どうだ、驚いたろ!こんな斬れ味の剣なんてそうそうないからな!フハハハハハハ!」


「剣が、剣が喋ったぁぁぁぁぁ!!」

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