通勤的③+乙女的
第8話 木曜日
「森ボーイを探しに行ったの」
「原宿とか?」
「ううん、阿蘇山」
「チハルちゃん阿蘇山は、、山だね。」
「うん、違った、だから森ボーイは居なかったの。だから、次はおもいきって、アイルランドの森に行ったの。」
以下は、私、景山知晴(かげやまちはる)による森ボーイの生態に関するエスノグラフィーである。
この研究が後進の精神的支えとなり、人文書のクラシック(定番)となり、我が生涯の生活の糧とプライドの安定を保証するものになることを切に願う。
さらに願わくば、岩波文庫の緑ではなく、薄い灰色、もしくは(て、照れずには居られないのだが、)世界、文学として、赤、に、
……ごほん(御本)
それはそうと森ボーイ、そう、私は興味津々、ほんたうにしんそこ自らの心の赴くままに研究対象として森ボーイを選んだ。それは実に天命としか言えないもので、阿蘇の噴火口で私をタナトスのいざないから呼び醒ましたのも、ひとえに、
研究、そう! 学究、ひとえにひとえに、じゅうにひとえにも、じゅうさんひとえにも!
崇高な、すうこうな、すごぉうく、すうこうな、なんかみんなのためになるし、
わたしもハッピー、そう、わたしもハッピーにみんながわたしを囲んでくるくるまわっているようなそんなせかいをゆめみて、
わたしはボーイを、いや、森ボーイを探す旅にでたのだ。
旅は理想の森ボーイを想像するところから始まった。アイルランドは首都ダブリンに向かう飛行機のなかでわたしはあれこれと森ボーイのことを想像した。
とくによく想ったのは、その姿、シェイプのことだった。
森で生まれたとは思えぬほど、華奢な肩幅、鹿の角にも似たすらりと伸びた手足は蔦のように樹々にからまりそうで心配だし、陽に当たらないためその、首元、うなじ回り、は透明感のあるまっちろで、舐めてみたい。
葉脈のような血管の中の青い血が、ほんのすこし色づき紫蘇のような薄紫とも薄ピンクとも言えぬ色になったとき、並びのいい西洋人らしい小さな歯の間から薄荷のような香りとともに可愛らしいボーイソプラノの悲鳴が。
そこまで考えたとき、私の葉脈の奥から、真っ赤な血が溢れてきた。これが学者の血が騒ぐというやつですか。学究の世界に深く潜り過ぎると乙女は血が出るのですね。主に花から。
一抹の恥じらいを冷ますように、紙コップの白ワインを飲み干すと、
わたしキャビンアテンダント(通称キャビア)を呼び、
ティシューと新しいシャンペーンを注文した。
詩など 透明感 @haizinzou
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