第12話

 先に恋からることになった。

 ヘッドホンを付けてマイクの前に立ち、1つ大きく息をすると、スイッチが入ったのか、どこか遠く一点を見詰めている。


「いくよー。」

 聞こえているかも定かではない中、声をかけて、録り始める。

 準備室とは違う、広いこの音楽室に、恋の歌が流れる。その言葉の通り、流れていく。アップテンポな曲調ということもあってか、そこに留まらずに、走っていく。

 恋の歌は、言葉と言葉の間に音の切れ目がなく、続いていく。他にも色々と個が強い。

 こうして聞いていると、確かに、上手だけど、1人では完成出来ないと思ってしまった。


「ごめん。ここもう1回。」

 それでも、納得がいくまで何度も録った。

 しかし、ある程度まで録ると、埒が明かなさそうなので、1度希と代わることにした。


「よろしくね。」

「こちらこそ。」

 私と言葉を交わしてから、マイクの前に立つと、歌詞が書かれた紙をもう一度眺める。

 手が動く。どうやら、音を確認しているようだ。


「準備ができたら言って。」

「あ、もう大丈夫だよ。」

「そうなの? じゃあ、始めるね。」

 恋の歌が「流れる」に対して、希の歌は、「響く」だ。

 最初は、ふわりと宙に舞うように。最後は、ひしひしと空気を揺らすように。

 希は、歌を曲の毒にならないアレンジしていく。でも、このアレンジはきっと、恋が一緒に歌っていることを踏まえての物だ。

 1人では完成出来ないのはこちらも同じの様だ。


 結局、最終下校時刻まで、何度も何度も録音と確認を繰り返し、やっとのことで納得がいくものができた。

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