第9話
放課後。先生に呼ばれ、職員室に行かなければ行けなかった私は、その前に2人に鍵を預けておいた。
少し時間がかかってしまったが、用を終え、第2音楽準備室がある4階に来ると、まだ距離はあるというのに2人の歌が聞こえた。
自然に、歩く足が速くなる。
あれ、止まった。しかも、全然止まるようなところではない中途半端な部分で。と、思ったらまた歌い始めた。少し前に戻っているようだ。
たしか、ここは希のハモりがあるパート。そこの練習かな……。
昨日、帰りに2人に音源のデータを渡したのだが、希にハモりのパートだけの物を渡すのを忘れてしまった。それでも、主旋律の後ろのそれを、聞いて覚えて来たみたいだ。
しかし、やっぱり苦戦しているようなので、早く渡してあげようと、向かう足を早めた。
あ、また止まった。
「遅くなってごめんね。」
第2音楽準備室に入る。
「あ、やっと来た。夢、ハモりだけの音源ある? 」
「あるけど昨日渡し忘れちゃったの。だから、今日持ってきたよ。」
「まじか、助かる。」
希にUSBを渡すと、早速パソコンに繋いで聞き始めた。その顔は真剣そのもので、昨日少しだけ話したハンドルネームの話をしようかと思っていたが、やめておいた。
「さて、ハンドルネームを決めようか。」
しばらくして、恋の集中が切れたので、休憩がてら決めてしまおうということになった。
「俺は、『希』の字が『き』とも読むから『キー』にしようかと思うけど、表記を決めてない。」
覚えやすい名前だ。ハンドルネームはできるだけ読みやすくて簡単なものの方が良い。あまりにもありふれた名前だと埋もれてしまうけれど、これならいいかと思えた。
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