第8話

 いつの間にか、日は落ちて、今日は解散しようかという話になった。


「最後に1つ、ネットで活動するなら、ハンドルネーム考えておいてね。」


 ハンドルネーム。そう聞いて、頭を悩ませる2人。いきなり言われても難しいだろう。


「夢は、どうして『rain』なんだ? 」


 恋に聞かれる。


「なんだか、理由を話すの少し恥ずかしいね。」


ヘヘッと笑い、気恥しさを押し込める。


「私は、『あさぎゆめ』の最初と最後の文字をとると、『あめ』になるから『rainれいん』にしたよ。

 無理にとは言わないけど、本名から関連付けると考えやすいかも。」


 アドバイスしてみたけれど、やはり難しいことには変わりないようで、頭を悩ませていた。


「とりあえず、今日は終わりにしようか。」



 あの人の家は学校のすぐ近くだから、駅に向かう2人と校門の前で別れ、1人で歩き出した。

 まだまだ荒削りだけれど、あの2人は本当に楽しそうに歌う。あの曲を作ってよかった。





 その日の夜。

 いつも通り、出された食事を1人で食べていた。そこに、あの人が帰ってきた。


「友達、できたみたいだな。」

「あの部屋のがあったからです。ありがとうございます。」


 静かに笑ってみせる。

 未だこの空気には慣れなくて、口から出る言葉はどうしても固くなってしまう。おまけに、動きもぎこちない。


「お前にあげた部屋だ。自由に友達と使うといい。」


 そう言って、あの人は部屋を去った。

 深く息を吐き、天を仰ぐ。肩の力がすーっと抜けていくのを感じた。


 息が、詰まる。

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