第7話

「そして、今日は2人に歌って欲しくて新曲を作ってきました!!

 お聞きください。」


 再生ボタンをクリックすると、明るいメロディーが響きだす。そこに乗るのは、加工を重ねてやっと誰かに聞いてもらうことを許された私の歌。

 その声が、この曲を投稿する時には、この2人の声になるのだ。楽しみで仕方がない。


 明るく、キラキラとした青春の歌は約4分もの間、この狭い空間を駆け抜けた。


「これを一晩で? 」

「まあね。」


 なんだか気恥しくてはにかむ。


「歌詞あるか? 」

「恋はすぐにでも練習したいってさ。」


 恋に歌詞を渡すと希のことは華麗に無視をして、さっそく読み始めた。


「もう歌割りできてんのか。」

「うん。赤い所が希で、青い所が恋だよ。」

「そうか。」


 希も恋と一緒に読み始めた。


「曲、リピートで流しておいて。」


 恋に言われ、すぐに設定を直して再生した。


 今まで作ってきた「私が歌うための歌」ではなく、初めての「誰かに歌ってもらうための歌」。

「私が歌いやすい歌」ではなく、「2人が歌いやすい歌」。


 2人の真剣な横顔を眺めながら、自分が作った曲を何度も何度も聞いた。

 すると、そのうち2人が歌い出した。もう覚えたみたいだ。

 2人とも声量があるから、私の細い声とは迫力が違う。まだ細かい部分の修正は必要だけど、力強く真っ直ぐな歌だ。



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