第3話

 呼び止められ、再びギターをかき鳴らす。

 音色と共に聴こえる歌声は、とてもキレイなものだった。


 蘇芳くんは、地声は低いのに歌うと少しだけ高くなるようだ。

 ふんわりと広がる優しい声は低音から高音まで自在に操る。音程もとれていて、抜け目が無いように思えた。しかし、よく聞いてみると、所々で1人で突っ走ってしまう節がある。


 梅染くんは、普段の気だるそうな雰囲気と一変して、力強くて低い歌だった。癖が強いが、いい味になるのではないだろうか。だが、それにしても息が抜けすぎてて録音したら雑音が入ってしまいそうだ。それでは、せっかくの歌が台無しだ。



 思いつく限りのrainの曲を弾いた。

 2人は全ての曲が分かるようで、しっかりと付いてきてくれた。

 rainの……、私の曲。

 私が作った歌を、こんなにも知ってくれていて、こんなにもキレイに歌ってくれる人がいたなんて……。

 感動とか嬉しさとか、感情が入り交じる。


 この時間が、終わらなければいいのに。

 楽しい。

 心からそう思えた。


 狭いこの準備室に響く、ハーモニーが、途切れなければいいのに。


 彼らに、私がrainだと言ったら、どんな反応をスるのだろうか。

 彼らに、私と一緒に音楽をやってくれないかと言ったら、なんて言ってくれるのだろうか。



 さっきまで、一人で雑音を奏でていたはずなのに、一瞬にして、彼らに世界を変えられた気がした。

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