屈折する概念
ビルガメスはあまりにも強かった。古典に記されるそれよりもはるかに強い。石造りの神殿の上で、彼は静かに物思いに耽っていた。
見よ、牛と人間の男が溶けて混ざったような怪物が、甲高い音を立てて飛んでくる。ビルガメスはよろりと腰を上げ、約4キュビット(ここでは2メートル前後)もある巨体で跳躍し、空中で蹴りを繰り出す!「********!!(シュメール語の暴言)」牛男は蹴られた反動で離れた石柱に叩きつけられた。
すでに度重なる牛男の襲撃を退た彼のキルスコアは80を超えたところだ。
もう彼は正しい事、間違っていることの違いがわからぬ。自分を邪魔する者とそうでない者、彼の世界にはこの2者しか居ない。前者は蹂躙され、後者はもう見当たらない。残された結果はメソポタミアの風土のごとく残酷だ。
沈みゆく日により大地は地平線の彼方まで赤く染まっていた。
壁を見よ、ウルクの城壁を。心を乱した国王が自ら開けた大穴が無数に点在している。民はみな蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。当の国王、ビルガメスは生やした立派な髭を手で梳かしながら思った。
「これはおかしい、何かが違う」と。彼自身がそれを一番よく知っていた。叙事詩に記された勇敢な姿は無く、顔色が悪い、老人のようにも見える。どうすればいいのかわからぬ者の顔だ。
また牛男の飛来だ!ビルガメスはすぐ気づき、再び跳躍し、サマーソルトキックの容量で怪物を蹴り上げた。牛男は彼方へ吹き飛んだ!しかしビルガメスの着地は危うかった。
なぜ牛男は飛来するのか?それは誰にも解せない。
なぜ彼は牛男を殺すのか?それは彼自身が生き残る為。
ではなぜ生きるか?
ここまで考えたところでビルガメスは倒れこんだ。民も国も失って、なぜ生きていようか?
牛男が近づいてくるが、もう彼は抵抗しない。死んだように目を瞑って横たわっる。ゆっくりと這い寄る牛男に食される前に、何もかも失った王は眠りに落ちていたのだった。
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