星の向こうの明後日
「ふぇぇ......疲れたのだぁ...」
「アライさーん、急ぎすぎだよー」
「駄目なのだ!このままだと帽子が取られてしまうのだ!」
アライさんが言う「帽子泥棒」には相変わらず追い付けなくて、三日三晩走り続けたアライさんは遂に倒れてしまった。私はペース配分をしていたから大丈夫だったけど、アライさんは星空の下大の字になって息を荒くしている。
「はっ...はぁっ...急がないと、なのだ...っ」
疲れきった体に鞭打つように起き上がろうとして、がくんと体が引き止めて。遂には「ふぇ、フェネック...起こしてくれると、助かるのだ...」と力なく手をこちらに伸ばしてきた。勿論アライさんの目的を遂行したいのは確かだ。お宝を今すぐに手にしたいと思っているだろうから。
でも、私はその手を握ると隣に寝転んだ。
「フェネック、何してるのだ...」
「たまには落ち着かないとー、いざというときに力が出なくなっちゃうよー」
「むぅ...それもそうなのだ...帽子泥棒が、簡単に帽子を返してくれるとは限らないのだ...」
一先ずは落ち着いたようで、大きな息をつくと「満天の星空なのだ...!」と邪念を振り払ったようにぱぁと笑顔を浮かべたアライさん。よくよく見ると空の星はまるでサンドスターのようにきらきら輝いていて、数えることも出来ないほどに埋め尽くされていた。
「あ...フェネックなのだ!あの大きな耳は間違いないのだ!」
アライさんの指が一つの星達の塊を指す。とても大きな三角形が左右にあって、少しだけ私に似ている気がした。「と言うことは、あれがアライさんかなー」そのすぐ隣にあった今にも自信満々な表情をしそうな星達。仲良く手を繋いで歩いている。
「あ!きっとアライさんが持ってるのは帽子なのだ!空のアライさんはもう帽子を手に入れてるのだー!」
少し興奮気味に足をぱたぱたさせて声をあげる。そしてがばっと起き上がると「こっちのアライさんも負けないのだー!」と元気に明後日の方向へ全力疾走し始めた。
「あー...逆戻りしてるのになー」
ゆっくり起き上がった私は、「さーて、そろそろ疲れてるかな」と呟いて、満天の星空の中出発した。
...が、何故かアライさんが戻ってくる。
「フェネック!星のアライさん達に負けないように手を繋ぐのだ!!」
力強く握られた手はどんどん進んでいく。ゆっくり歩こうと思ったけど、アライさんに言われちゃ仕方ないよねー。
足並み揃えてお宝へ。
□■□■□
ばすてきコンビのお話。とにかく全力疾走でお宝に向かっていくアライさんといずれアライさんがバテることを知っててゆっくり追いかけるフェネックの少しの休憩を綴ったものです。
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