旅の終わり(胸糞表現あり)

 目の前には僕らよりも背の高い人達が立っている。そしてその誰もが、まるで狩りごっこの狩られる相手を見るような目で僕らを見下ろしていた。


「あの...誰でしょうか」


 今まで見てきたフレンズの華奢な体と比べて、スーツやら白衣やらに包まれた骨格は明らかに大きいもので。今、僕の震えている腕も彼らの豪腕に掴まれればたちまち折れてしまいそうだった。そして、僕の隣でサーバルちゃんは不安げな表情を浮かべた。

 「研究対象発見」「直ちに捕獲する」と後ろで呟く数人、僕の質問が聞こえなかったかのようにじりじりと間合いを詰める十数人、耳や尻尾を誰一人として持っていない事実から目を背けたかったけど、周りを見渡しても人のみ。


「な...何するの!?かばんちゃんに手を出したら私、許さないから!」


 喉の奥からうううと低い唸り声を出すサーバルちゃんは今にも彼らに飛びかかりそうな剣幕を見せる。威嚇の相手の一人がため息をつくのが聞こえて、奥で何かを準備している。サーバルちゃんはそれに全く気づいてなくて、かちゃんと音が聞こえるとぞわりと背筋に悪寒が走り急いでサーバルちゃんを突き飛ばす。


 ばさっ!


僕らのいた位置に頑丈そうな網が勢いよく飛び出てくる。内側にいくつか痛そうなトゲがくっついてるのを見て、もしあれにかかったら...と考えると頭がぐわんと叩きつけられた感覚がした。

 僕に突き飛ばされて倒れたサーバルちゃんはびっくりした表情をしてから、網を放った相手をきっと睨み付けた。しかし彼らは物怖じもしなかった。むしろ再び僕らに手を出そうと距離を縮めようとする。

 サーバルちゃんが下を向けばもう彼らの顔に耳が当たるほどの距離になって、ようやく彼らは僕らに会話らしきものをかけてきた。


「君が最近出てきたというヒトのフレンズ、かな?」


 その言葉でようやくヒト達の目的が分かった。それと同時に自分の身の危険を感じて、サーバルちゃんもまた危ないと悟った。さっき飛んできた危ない網もヒト達にとって邪魔なサーバルちゃんを一旦静かにさせようと放ったもので、明らかに悪意があると理解した。


「ち...近寄らないで!」


「いいの、サーバルちゃん。多分このヒト達は僕に用事があるんだよ」


「でも...!」


 必死に頭を振って、今にも涙が溢れそうな瞳を悲しげに向けたサーバルちゃん。「すぐに戻って来るから、ね?」本当は離れたくないけれど、必死に言葉を紡ぐ。未だに不服そうなサーバルちゃんだけど、小さく頷く。良かった、そう思った瞬間


「みゃっ!?」


「...っサーバルちゃん!?」


 力の抜けつつあったサーバルちゃんの右腕からかちゃっと金属の音が鳴って、サーバルちゃんは一気に遠くへ離れていく。よく見れば手首にはぎらぎらと光る光沢を放つわっかがいつの間にかついていた。鎖が地面に垂れる先には黒いボールのようなもの。とても重たいらしく、地面に少しめり込んでいる。


「少し大人しくしててね...さて、もう大丈夫だよ。こっちにおいで」


 鉄輪を必死にもがいて外そうとするサーバルちゃんに目配せしたあと、僕に向けて優しそうに、でもなんだか怪しく手を差しのべてきた。

 ようやく会えたヒト。僕の旅の目的であり、終着点だったヒトの存在。手に取れば念願の旅の終わり。なのに、その手を取るのが嫌で嫌で仕方なかった。サーバルちゃんを奪った手を。だから僕は、手をのばすヒトの脇を潜り抜けて遠くに離れたサーバルちゃんの元へ駆け寄った。


「今、外すから...早く、はや、く...」


「あぁ...いいから、早くこっちに...」


「来ないでください!!!あなた、あなた達はヒトじゃ...僕の知ってるヒトじゃ、ない...」


 鉄の輪ごとサーバルちゃんを必死に庇って、彼らを威嚇する。さっきのサーバルちゃんみたいに睨み付ける。ただただ目的を遂行するためにヒト達は僕らに手をのばしているのがよく見えるだけだった。帽子の羽根に指先がつきそうになって、サーバルちゃんも取られてしまいそうで、がむしゃらにサーバルちゃんの服やら肩にしがみつく。


「こないで...」


 それが僕らの旅の終わり。






□■□■□


かばんちゃんはとても複雑な「ヒトのフレンズ」なので、目的だったヒトに会えてもトントン拍子でハッピーエンドに行き着かないような、そんな気がします。

受け入れてくれるのか、優しくしてくれるのか、そもそもヒトとして扱ってくれるのか...そう考えると、かばんちゃんにはヒトに会ってほしい反面会ってほしくない気持ちもあります。そしてこの話は「ヒトとして扱ってくれなかった」そんなお話です。

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