思い出のお馬たち

@nozeki

忘れじのわすれな草

競馬を見始めてしばらく経った頃。

毎月一度は見かける牝馬がいました。


当時900万下条件で、芝ダートを問わず。

中距離以上の番組にはいつでも彼女はいました。


パドックではいつもしょんぼりとしていて、道中は常に後ろから。

そして最後の直線で追い込んでくる。

そして掲示板に載ったり載らなかったり。


まだどの馬が強いとか弱いとかを知らなかった当時のわたし。

馬を見てもどれがどれだかよくわからなかった頃でしたけど、彼女だけは見ればすぐわかりました。


馬体重は450キロから460キロぐらいでしたから、さして大柄ではなかったですし、派手な顔をしていたわけでもありません。

でも、どこをどう見ても知らない馬ばかりの中で、彼女がいたら安心できたものでした。


彼女の名前はホゲットミーノット。

命名基準で9文字にする関係で、フォゲットとつけられなかったようです。

「わすれな草」の意味だと知って、胸が熱くなりました。

どのレースでも一生懸命に追い込む姿が「わたしを忘れないで」と言ってるように見えて仕方がなかったのです。


そんな彼女も900万下条件を卒業し準オープンに上がると、自慢の追い込みも届かないレースが続きました。

わたしも忙しくて、しばらく競馬場から足が遠のいていた時期でもありました。


久しぶりに時間が取れた6月のある日。

競馬場に行くと、準メインのレースに彼女が出ることを知りまして。

人気はほとんどないに等しい状態。そしてパドックでは相変わらずしょんぼり歩いてて。

なんだか彼女が猛烈に愛しくなって、単勝と複勝を思い切り買い込んでしまいました。


そのレースも道中はやっぱり最後方から。

でも、この日の彼女は違ってました。

4コーナーから仕掛けた彼女、最後の直線では猛然と追い込み、前の馬を一頭、また一頭とかわして来たのです。


まるで「わたしを忘れちゃだめだからね」と言ってるように……。


勝ち馬には届きませんでしたが、12頭立て10番人気で2着は上出来と言えるものでした。


まだ3連単も3連複もない時代。

彼女が連複の馬券に絡んだのはこれが最後でした。

これ以降、彼女は3着までは来るものの、準オープンの壁を破ることはできませんでした。

そしてひっそりと引退。行き先に(繁殖)とあったのを見て、ホッとしたのを覚えています。

繁殖としては長男が菊花賞に出走したぐらいで、あとはあまり良くなかったようです。

やがて、出走馬の母親の欄に彼女の名前を見つけることはなくなりました。


他の人にしてみれば「ああ、いたねぇそんな馬」かもしれません。

ですが、わたしにとっては忘れられない馬。

ホゲットミーノット、忘れないよ。

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